米国は今年1月3日、ベネズエラに侵攻してマドゥロ大統領とその妻を拘束し、米国に連行した。米国のトランプ大統領はこの侵攻について、その目的は麻薬対策だと言っていたが、その後はベネズエラが持つ石油獲得に向けた発言を繰り返している。
9日には、ホワイトハウスで米石油大手の幹部と会合し、ベネズエラ石油産業の立て直しに向け1000億ドルの投資を要請している。しかし、この要請に対してスーパーメジャーといわれる米国大手石油会社のうちでも最大の企業であるエクソン・モービルやその他の企業が難色を示している。
この石油企業の対応は、トランプ大統領にとって意外だっただろう。自分はベネズエラに侵攻して、大切な石油を持ってきてやったのだ。ありがたく受け取ればいいものを、なぜ文句をいうのか、気に入らないぜというところか。
しかし、エクソン・モービルの対応もわかる。なぜならベネズエラ原油は石油とはいえ、超重質油と呼ばれる価値の低いものだからである。
もともと、ベネズエラは世界でも有数の産油国であった。その油田は国の北西部にあるマラカイボ湖周辺と北東部に広がるオリノコ川周辺にあり、特に近年はオリノコ川周辺での採掘量が増えている。しかし、この原油はオリノコタールといわれる品質の悪い超重質油で、当初は原油とさえ認められていなかったものである。

それが2010年頃からようやく統計上は石油と認められるようになったのであるが、確認埋蔵量が莫大であるから、その結果ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を持つ国ということになってしまった。
ここでは超重質油がどうして価値が低いのか、この価値の低い原油をどうやって使っていこうとしているのかについて解説し、なぜ米国の石油メジャーの一部が難色を示すのかについて考える。
超重質油はなぜ価値が低いのか
原油の価値は一般に比重(密度ともいう)と硫黄含有量で決まる。あと流動点も重要な指標だ。まず比重だが、ベネズエラで産出する超重質油はこの比重が非常に高い、つまり重い原油だ。だから超重質油といわれるわけだが、原油の比重は軽いほうが価値が高いとされる。
原油はAPI比重という数値が使われる。APIが大きい方が軽い、小さい方が重い。一般に使われる比重とは逆の関係にある。一般の原油のAPI比重は26から39くらいであり、26より小さいものは超重質油といわれるが、オリノコタールはなんと10以下。押しも押されもせぬ超重質油である。
原油にはガソリンや灯油、軽油、重油など様々な成分が含まれているが、需要の多いガソリンなどの成分は比重が低いものが多い。つまり比重の軽い原油には売れる成分がたくさん含まれているのである。
石油は採掘すると製油所に運ばれ、まず常圧蒸留という方法で原油を蒸発させ、蒸発した成分がガソリン、灯油、軽油などの原料となる。蒸発しないで残った成分は残油とよばれ、そのままでは重油が主な用途である。さらに残油の一部は減圧蒸留という方法によって潤滑油のような粘性のある液体成分とアスファルトのような常温では固体となるような成分に分けられる。
つまり、原油は蒸発しやすい成分からガソリンなどの需要の多い製品が作られ、蒸発しないものは重油やアスファルトになる。比重の重い原油は残油が多くなり、ガソリンなどの売れる石油製品があまり含まれていないのである。
比重が滅茶苦茶大きいベネズエラ原油は地下から掘り出した時点でもうアスファルトのような成分だから、蒸留してもガソリンや灯油や軽油、潤滑油などはほとんど採れない。といって、道路舗装用のアスファルトは厳しい品質規格が求められるから、そのままでは道路舗装用にも使えない。超重質油とはそんな原油なのである。
ただし、このような超重質油も分解装置で分解すればガソリンや軽油に転換される。つまり超重質油も「分解」というひと手間かければガソリンや軽油になることは覚えていてほしい。
次に硫黄についてだが、一般に重い原油ほど硫黄分が多くなる傾向がある(例外もあるが)。例えば比較的硫黄分が多いといわれる中東系の原油でも硫黄分は2%程度であるが、オリノコタールの硫黄分は3.5~4.0%もある。
硫黄分が多いと燃えたときに亜硫酸ガスとなって大気汚染の原因となったり、燃焼機器を痛めたりするから少ないほうが良い原油だ。もし、高硫黄原油を使いたければ脱硫装置で硫黄分を取り除いたり、燃焼ガスから硫黄分を取り除いたりといった余計な手間がかかる。
さらに問題なのは流動性だ。ベネズエラ原油は常温では羊羹のように固まって、流勤しなくなってしまう。地下に埋蔵されているときには地熱によって溶けているから、くみ出すことができるのだが、地上に上げて冷えると固まってしまう。だから地上のタンクに貯蔵しているときには常に加熱しておかなければならない。しかし、タンカーやパイプラインで運ぼうとすると加熱ができないので輸送中に固まってしまう。つまり、長距離を輸送することができないのだ。
まとめると、ベネズエラの原油は比重が高くて価値の高い石油製品を作ることができない。また、硫黄分が多くて使うときにはその対策が必要となる。さらに常温では固まってしまうから長距離輸送ができない。
こういった問題があるから、ベネズエラ原油は石油といっても、なかなか厄介な原油なのだ。こんな原油をもらっても石油会社は素直に喜べないだろう。
ではどう使うか
では、ベネズエラ原油はいままでどうやって使ってきたのだろうか。
まず、常温では固まってしまうので長距離輸送ができないという問題については、ナフサや水などを混ぜてなんとか液状にして運ぶ方法がある。水を混ぜて液状にしたものをオリマルジョンという。
かつては日本もオリマルジョンをベネズエラから輸入して、関西電力や北海道電力などで火力発電所の燃料として使っていたことがあるが、世界的に原油価格が下がって経済的なうまみがなくなると輸入されなくなってしまった。現在、中国がベネズエラから原油を輸入しているが、これはオリマルジョンの形で輸入していといわれている。
ただオリマルジョンの大きな欠点は、それが発電所やボイラーの燃料としてか使えないということだ。つまり重油の代替というわけであるが、現在重油の用途は大幅に減っており、需要が少なくなっている。
もう一つの方法は、ベネズエラ原油にナフサやコンデンセートのような軽質の石油製品を混ぜて流動性を持たせて輸送するという方法だ。コンデンセートというは天然ガスに随伴して採掘される超軽質の原油だ。
この方法を使う場合は、ナフサやコンデンセートを外国から輸入しなければならないという問題がある。ベネズエラではこれをイランやロシアといった米国と敵対関係のある国から輸入していたようで、このあたりもトランプ大統領の頭にカテンときたところだろう。
一番大きな問題、超重質油はガソリンや軽油などの売れる製品を含んでいないという件については、原油を分解するという方法がある。前にも述べたように、重質油も分解すればガソリンや軽油を作り出すことができる。
超重質油に限らず、どんな石油でも高温に加熱すれば分解して軽質の成分に転換されるという性質があるので、この性質を使えば比重の重い原油からもガソリンや軽油を作り出すことができる。このとき使う触媒の種類や水素使用の有無などで様々な技術が開発されている。
この分解技術は世界的に余り気味の重油をガソリンや軽油などに変えることができる、まことに便利な方法なので世界中の多くの製油所で採用されている。また日本のエンジニアリング会社である日揮と千代田化工もベネズエラに分解装置を売り込んだ実績がある。
実際、ベネズエラの国営石油会社PDVSAはAPI比重8.3のオリノコタールを分解してAPI比重32の合成原油に転換して輸出しているという。
ただ、このような分解装置はかなり高価であるし、建設や運転、保守には高い技術が必要である。ベネズエラはこのような分解装置をいくつか持っていたが、技術者の流出や資金不足で、現在、ほとんど稼働していないといわれている。
今後どうする
では、ベネズエラの石油産業はこれからどうなるのだろうか。
トランプ大統領はマドゥロ大統領が排除されたあとのベネズエラをどのように扱うのかまだ詳細は明らかではない。また、冒頭述べたようにトランプ大統領は米国内の石油企業に対して、1000億ドルの投資を行うよう要請したが、この1000億ドルがどのように使われるのかも明らかではない。
今後、米国とベネズエラの石油産業の関係はどうなるのだろうか。以下は筆者の予想である。
まず、ベネズエラ産の原油、つまりオリノコタールはそのままでは、輸送することができないし、ガソリンなどの石油製品を取り出すこともできない。硫黄分も多い。
そのような原油を取り扱うひとつの方法として考えられるのが、ベネズエラ原油にナフサを混ぜて流動性を持たせて、米国内に持ち込み、米国内にある分解装置で分解して軽質な石油製品を作るという方法である。
米国内の製油所はメキシコ湾(最近ではアメリカ湾というそうだが)の北側に集中している。対してベネズエラはメキシコ湾の南側だ。米国の製油所からメキシコ湾を渡ってナフサをベネズエラに送り、ベネズエラで超重質油に混ぜて流動性を持たせ、それをまたメキシコ湾を戻って米国の製油所に持ち込み、ここで分解や脱硫して製品にするという流れである。
輸入したベネズエラ原油は、現在の原油精製装置に少しずつ注入して処理してもいいし、あるいは、受け入れたベネズエラ原油を既存の原油タンクに入れて、ほかの軽質原油と混ぜたうえで、現在の精製設備で処理するという方法もある。この場合、追加費用はほとんどかからないだろう。
問題はベネズエラ側の設備である。チャベス政権から、その後継者のマドゥロ政権に続く間に、ベネズエラ側の石油採掘設備やパイプラインなどの設備、あるいは分解装置はメンテナンスが不備のため様々な問題が発生しているという。
もともとベネズエラの石油輸出量は日量300万バレルほどあったものがチャベス政権以降、どんどん減少していき、近年では最盛期の3分の1の100万バレルまで低下しているという。これを最盛期の300万バレルまで回復させるには、多大の資金が必要となる。
トランプ大統領が石油業界に要請した1000億ドルにのぼる投資は多分、パイプラインや港湾設備のようなインフラや分解装置などの精製設備の回復に使われるのだろう。
米国石油メジャーが二の足を踏む理由
既に述べたように、従来ベネズエラは世界でも有数の産油国のひとつであった。しかし、大統領に選ばれたチャベスはベネズエラの国営石油会社PDVSAの経営に関与し始め、また米国の石油会社が建設した石油関連施設を次々に国有化していった。
さらに、PDVSAの収益の大半がチャベス政権の政策資金として使われた結果、設備の更新やメンテナンスにかける費用が不足し、設備の劣化が進んでいった。これに不満を持ったベテラン社員をチャベスが大量に解雇したこともあってPDVSA自体の技術力が低下しており、汚職や贈収賄が慢性化しているともいわれる。
今後、米国の石油メジャーがベネズエラに多大な資本を投下したとしても、資金が適切に使われるか不安があるし、再び国有化される可能性もある。いわゆるカントリーリスクが大きくて投資には慎重にならざるを得ないだろう。
また、IEAによると世界の石油消費量は2030年ころにピークを迎え、以後減少に転じると予想されている。今後、石油需要が減少するのなら、多大な投資してまでわざわざ扱いにくい原油を確保する必要はない。
かつてのように石油需要がどんどん伸びて、世界的に取り合いになるのならいざ知らず、これから石油の需要が減っていくのならば、米国石油メジャーもベネズエラへの再進出については、いまひとつ乗り気になれないだろう。
トランプ大統領が言うように、地球温暖化は嘘で、温暖化なんてしていない。いくらCO2を出してもいいから、掘って掘って掘りまくれというのなら、ベネズエラ原油も魅力的だろうが。


