中国の中国科学院天津工業生物技術研究所では、CO2からデンプンを合成したと発表しました。デンプンは三大栄養素といわれる炭水化物、タンパク質、脂肪のうち代表的な炭水化物です。つまり、デンプンは我々の栄養源のひとつ。米や麦やイモ類といった主食の成分です。
デンプンの化学構造は次のとおり。
デンプンは炭素Cと酸素Oと水素Hからできているので、これをCO2と水素H2から作ることは理屈から言えば可能です。このような簡単な物質から、複雑な構造を持つデンプンを作るのはかなり難しかったでしょう。
ある記事によると、この成果は、「世界の常識をひっくり返すほどの影響力を持つ」とか、「典型的な0から1へのブレイクスルー」とかべたほめなのです。ですが、CO2からデンプンを作って何の役に立つのでしょうか。
まず考え付くのが食料を作るのことです。できないことはないでしょうが、それほど人類は食料不足に陥っていませんし、むしろ各国の農業従事者はどちらかというと収入が低い。なぜなら、食料は低価格でしか売れないからです。にも拘らず、世界には飢餓で苦しむ人がいるじゃないかと言われるかもしれませんが、それはその低価格の農作物でさえも買えない貧しい人たちがいるからです。つまり、単なる食料の生産は儲からないのです。
もし人工的に食用デンプンを作りたいのなら、食料にならない草や木くずを原料にしてブドウ糖を作り、このブドウ糖からデンプンを作る方が安価にできるでしょう。原料としてわざわざ合成が難しいCO2を使う意味がないのです。
もうひとつの目的として考えられるのは地球温暖化対策です。火力発電所などから排出されたCO2から有用な物質を作るCCUは、今世界中で研究されています。しかし、回収したCO2でデンプンを作り、これを食料とした場合、デンプンは体の中で消費されて、最終的には同じ量のCO2になって呼気として排出されるので、CO2の削減にはなりません。
ただ、CO2をメタノールのようなC1化合物に転換したあと、いろいろな化学製品を作ること(C1化学といいます)が、最近注目を浴びていて、この中国の研究もC1化学の一環として行われたということではないでしょうか。
今回、食料ともなるデンプンを作ったというので、話題になりましたが、デンプンのような複雑なものが作れるのなら、もっといろいろな役に立つもの-医薬品とか生分解性プラスチックとか-が作れそうです。実はこっちの方が注目に値すると思います。