11月30日付のPhysics の記事によると、ローレンスバリモア国立研究所のデビ―・キャラハンは、投入したエネルギーより大きいエネルギーを生み出す核融合反応、すなわち核融合の点火に成功したと発表した。
核融合は水素原子と水素原子が融合してヘリウムができる反応である。このとき大量の熱が出るから、この熱を使って発電を行うのが核融合発電である。水素は水に含まれるから無尽蔵にあり、放射能もなく、安全な発電方法。これが完成すればエネルギー問題も地球温暖化問題も一気に解決するだろうと言われる。
この夢のような発電方式が今まで実用化されていなかった大きな原因は核融合を起こすために1億度以上という非常な高温と密度が必要な事である。温度が高すぎて容器に入れて加熱すると容器が融けてしまうから、燃料を宙に浮かせた状態で温度と密度を維持しなければならない。これが難しい。しかし、わずかな時間であるが、これが可能になり実際に核融合が実現している。
次の段階は核融合エネルギーの黒字化である。一旦核融合が起これば、膨大なエネルギーが得られるが、これまでは発生する核融合反応が微小過ぎて、核融合を起こすために投入されたエネルギーの方が大きかったのである。今回は、慣性封じ込めと言われる方法を使って、投入エネルギーよりも多くの核融合エネルギーが得られたという。
このように書くと、核融合発電は着々と実用化に向かっているように思われるかもしれない。ここまでくれば核融合発電の実用化まであと一歩だとするマスコミもある。しかし残念ながら、実用化は以下のような理由から程遠い。
まず、今回の核融合は直径数mm程度の燃料を使って、ほんの一瞬達成されたに過ぎないということ。実用的な発電所とするためには、もっと大量の燃料を使って連続的に安定的に核融合を行わなければならない。
さらに問題なのは、燃料として水素ではなく、重水素とトリチウムが使われていることである。トリチウムは地球上にはほとんど存在しない。つまり、核融合発電の燃料は無尽蔵どころか、すこぶる希少な資源なのである。もう一つの問題は核融合に伴って高速中性子が発生すること。これは人体にとって非常に有害である上に、透過性が高い。さらに高速中性子が設備に損傷を与える。これらの問題点をクリアして何とか発電にこぎつけても、果たして他の発電方式に比べて経済性があるかどうかも疑問である。(核融合発電は「クリーンで無尽蔵で安全」ではない 実用化にはいまだ高い壁 参照)
確かに核融合のエネルギー収支は黒字化したが、それと実用化とは全然違う。科学者が実験室で成功したからと言って、一足飛びに実用的な発電設備が作れると考えるべきではないだろう。