ジェット燃料不足はなぜ起こっているのか 生産量が足りないわけではない

ここのところ地方空港を中心に航空機用燃料、すなわちジェット燃料の不足が問題となっている。コロナ後の訪日外国人客(インバウンド)の急回復に伴って、旅行客が増加。インバウンドは地方創生の切り札と期待する地方自治体もあるなか、ジェット燃料が不足したため、航空便の増便を断念する事例も相次ぎ、地方経済の活性化の足を引っ張る形となっている。

なぜ、今ジェット燃料の不足という事態が起っているのだろうか。
近年、製油所がつぎつぎと廃止されているため、ジェット燃料の生産能力が不足しているとか、ガソリン需要の低迷しているため、ガソリン生産に伴って生産されるジェット燃料も生産量が減っているとか、そういうことを心配する向きもある。しかし、製油所でジェット燃料の生産能力が落ちているというのは考えづらい。

意外に思う人もいるかもしれないが、ジェット燃料は実は灯油と同じものなのである。規格項目が灯油とは多少違っていることや、水分の含有量などに配慮しなければならないというような違いもあるが、基本的にジェット燃料は灯油と同じもので、ENEOSや出光などのガソリンスタンドで売られている灯油で、航空機は十分、空を飛ぶことができる。

2023年度1年間のわが国の生産量でいえば、灯油は1,132万㎘、ジェット燃料は1,169万㎘でほぼ均衡している。灯油は暖房に使われるから冬場が需要期で、夏場の販売量は大幅に落ち込む。いまは夏だから、灯油の需要は少ない。その分だけ原油から得られる灯油はジェット燃料に回せることになる。この夏場になって急にジェット燃料の生産が落ちるというのは考えづらいのだ。

下の図は、ジェット燃料の年間出荷量を示している。2020年にコロナパンデミックによって、出荷量は激減し、そのあと、急速に回復してきているが、それでもようやくパンデミック前に戻っただけである。だからそれほど製油所での生産に無理があるとも思えない。

ではなにが、ジェット燃料不足の原因なのだろうか。
石油連盟の資料によると、ジェット燃料の不足は生産量ではなくて物流の問題のようなのだ。

ジェット燃料は製油所で生産されたあと、近くの空港にはタンクローリーで届けられる。タンクローリーとは街でよく見かける、荷台がタンクになっているトラックだ。空港が製油所から遠い場合は製油所から内航タンカーで一旦、空港近くの油槽所とよばれるタンクに運ばれたあと、油槽所からタンクローリーで空港に届けられる。

あるいは大きな臨海型空港では、製油所から直接内航タンカーで配送されることもある。つまり、ジェット燃料の輸送は内航タンカーとタンクローリーを組み合わせて行われているのである。

しかし、いま日本全国で問題になっていることがある。それは人手不足の問題だ。ジェット燃料の配送においても、やはり労働力不足問題が発生している。内航タンカーの船員について言えば、人数的には減ってはいないものの、2022年4月に施行された船員法の改訂によって1日の労働時間や残業時間が制限され、連続休息の取得も義務付けられることになった。その結果、船の稼働率が大幅に低下しているのだ。

また、タンクローリーについても同様の問題が起こっている。下のグラフに示すように、わが国のトラック運転従事者は減りつつある。そのうえ、2024年から時間外労働や年間拘束時間などの制限が取り入れられた。これによって、運転従事者の労働時間が短くなってタンクローリーによる配送がうまく回らなくなっているのだ。

道路貨物運送業の運転従業者数の推移
(持続可能な物流の実現に向けた検討会(第1回)資料より)

以上のように、空港でのジェット燃料不足は、製油所でのジェット燃料の生産量というより、製油所で生産されたジェット燃料を地方の空港に届ける物流が原因のようなのだ。

もともと、内航タンカーやタンクローリーのような運輸事業は、労働時間が長いことや労働条件環境が過酷なことで知られていた。その結果、若年層の定着率も低く、従事者の高齢化も進んでいる。

このような過酷な労働条件を改善するために船員法や労働基準法が改訂されたわけであるが、そこにコロナパンデミックが終息したことによるインバウンドの急激な回復が重なり、ジェット燃料の輸送が追い付かなくなったということなのだろう。

インバウンドによる観光事業もわが国にとって重要な産業であり、また船員やタンクローリーの運転従事者の過酷な労働を緩和することもまた重要な政策である。今後、必要な物流従事者を確保するとともに、需要を正確に予測した上での計画的な輸送スケジュールの作成など、安定的で、効率的な輸送を確保する工夫が必要となってくるだろう。

2024年7月4日

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