CO2は植物にとって必要なものだから脱炭素はやるべきではない? … のだろうか

CO2は悪者じゃない。
なぜなら、植物はCO2を吸収して成長する。
だからCO2が増えれば植物は繁栄する。
だからCO2は増えてもいいんだ。

というような、そんな意見を耳にすることがある。
今年1月、米国はワイオミング州で、 CO2は「悪者じゃあない」という法律案が提出されたという。 (https://wyoleg.gov/Legislation/2025/SF0092)
この法律案のスローガンは「二酸化炭素を再び偉大にしよう – ネットゼロ反対(Make carbon dioxide great again – no net zero)」だ。

この法案、要約すると以下のようになる。(ただし、今のところこの法案が可決成立したわけではないようだ)

認定事項(要約)

  1. CO2は地球上のすべての生命にとって必要な基礎栄養素である。植物が繁栄するには、太陽光、水、栄養素とともにCO2が必要である。このために利用できるCO2が多いほど生命はよりよく繁栄できる。
  2. CO2濃度は現在、約420ppmで、歴史的に見てほぼ最低濃度である。現在のCO2濃度は、地質時代における平均2,600ppmの6分の1である。
  3. 地球上の植物の生存を確保するためには、CO2濃度が150ppmを超える必要があると推定されている。
  4. 地球は生命を維持し、植物の収穫量を増やすためにCO2を必要としており、その両方がワイオミング州民全員の健康と繁栄に貢献することになる。

よってワイオミング州の政策を次のとおりとする。

  1. CO2を汚染物質または汚染物質として指定または取り扱ってはならない。
  2. ワイオミング州は、「ネットゼロ」目標を含む、CO2の削減または排除を支援するいかなる目標または措置も追求してはならない。

この法律案の中の「認定事項」に書かれていることは、「利用できるCO2が多いほど生命はよりよく繁栄できる」という部分以外は、まあ間違いではないだろう。

確かにCO2は植物あるいは農作物の生育にとって必要な物質である。CO2は植物にとって、人間でいえばビタミンやサプリメントというより、米や肉のような主食である。当然ながらCO2がなければ植物は成長できないし、ある程度はCO2が多いほど成長が促進されることも事実である。

ただ、賛同できないのは、だからCO2削減策(ネットゼロ)を講じてはならないとしている点である。

CO2の空気中濃度は150年ほど前から急速に増加し始めており、これによって地球が温暖化し、様々な気候変動が起こっている。だからCO2排出量を削減しようというのがネットゼロの目的である。

ネットゼロをやっていけないというのなら、植物のためにはいい面もあるだろうが、そのほかの地球温暖化によって生じる様々な環境問題にはどう対応するのだろうか。

あるいはひょっとすると、この法案の提出者は誤解しているのかもしれない。ネットゼロというのは言うまでもないが、排出量と吸収量を同じにして、これ以上空気中のCO2を増やさないということだ。この法案の提出者はネットゼロとは空気中のCO2をゼロにすることと勘違いしているのかもしれない。

このワイオミング州の法案でもCO2濃度は150ppm以上が必要だとわざわざ書かれているが、ネットゼロとは、そこまでCO2濃度を下げようというのではない。現在は420ppmであるから、このままの濃度であれば植物の生育には問題ないはずである。

そもそも、 空気中のCO2は植物の生育を助けるだけではない。 CO2が増加すれば、地球が温暖化するという問題があるから、それが植物に与える影響も考えなければならないはずなのだ。

地球が温暖化すれば当然、水が蒸発しやすくなって乾燥が進み、ある地域は砂漠化する。一方で、蒸発した水はやがて雨になって落ちてくるから、ある地域では大雨となる。つまり、地球が温暖化すれば、ある地域は乾燥し、ある地域では大雨が降るようになる。乾燥すれば植物は生育できないし、大雨が降れば植物にとって大切な土壌が流される。

また、温暖化によって海の温度も上がるから海水が膨張して、海面が上昇し、低地に塩水が入り込む。(ワイオミング州は高地にあるから関係ないだろうが)あるいは、乾燥した地域ではロサンゼルスのように山火事が起こりやすくなる。 (こっちはワイオミング州にも大いに関係している)

さらに、植物の生育が促進されれば雑草がはびこって農業に支障をきたすかもしれないし、熱帯地方で育つ害虫が温帯地方で繁殖して農作物を食い荒らすかもしれない。植物は動物と違って自ら移動することができないので、気温の上昇に適応できない植物は病気になったり、枯れたりする。



これらはいずれも、植物や農業にとって有害な事象である。
このようにCO2の増加が植物の生育に有利なだけとは限らない。CO2の増加が植物や農業に与える影響については、負の要因も含めて総合的に考えなければならないのだ。

CO2が植物の生育を促進するのは事実であるが、その一点だけを取り上げて、CO2濃度は増加した方がいいとか、脱炭素はやるべきではないなどと主張するのは、なんという狭い見方なのだろうか。

2025年1月17日

【関連記事】
その地球温暖化メカニズムは間違っている 温室効果はあなたの身の回りで起こっている
地球温暖化は人間が物を燃やして出てくる熱が原因? 八つぁん、熊さんの気候変動談義
たった400ppmしかないCO2で地球温暖化が起こる? 八つぁん、熊さんの気候変動談義
昔はもっと温暖だったんだから地球温暖化は人間のせいじゃない? 八つぁん、熊さんの気候変動談義
温暖化で海面上昇はなぜ起こる。北極の氷が融けるから? 八つぁん、熊さんの気候変動談義

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。