自動車排ガスからのCO2回収は可能か

先日「出すそばから二酸化炭素を回収できればエンジン車でもよくない?」という記事がYahooニュースなどに掲載された。これはエンジン車から排出されたCO2を、車両に搭載されたCO2吸収剤に吸収させてCO2排出をゼロにしてしまおうという技術である。

この技術が完成すれば、エンジン車でもそのまま気候変動対策ができるので、EVなどCO2を排出しない車に変える必要はなく、今のエンジン車がそのまま使えるという話である。さらに回収したCO2は農業用温室などで使えば、食料増産にもつながることになる。すでにスズキやマツダでも開発が進んでいるという。
しかし、この技術。どう考えても無理だろう。

ここで掲げられたCO2吸収装置は排ガス浄化触媒のようなものをイメージしているのだろう。エンジン車の排ガスに含まれる有害物質は大気汚染の原因となるから、これを除去するために触媒が設置されている。CO2も一種の大気汚染物質と考えれば、公害防止用触媒と同じように、CO2吸収装置を取り付ければ、それでOKということになるのではないか。

しかし排ガス浄化用の触媒は自動車排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(CH)、窒素酸化物(NOx)という有害物質を無害な物質に変える装置である。COはCO2に、CHはCO2とH2Oに、NOxはN2に、という具合に無害なものに転換して排出している。決して、これらの有害物質を貯め込んでいるわけではない。

CO2回収装置は排ガス中のCO2を分離して、CO2以外のガスを排出する。これによって確かに排ガスからCO2が排出されなくなるのだが、CO2が別のものに変わったわけではなく、単に装置の中に貯蔵されただけなのだ。

ガソリン1ℓを燃やすと2.32kgのCO2が排出される。ガソリン1ℓの重さはだいたい0.75㎏であるから、消費されるガソリンの約3倍の重さのCO2が排出されることになる。一方、CO、CH、NOxの量はppm単位だから、CO2の排出量は汚染物質に比べて半端なく大きい。さらに、2.32㎏のCO2の体積は標準状態で1180ℓになる。

下の図は、マツダ自動車が開発しているCO2吸収装置の模式図である。(マツダ技報 No.41, p98(2025))

この装置の場合、ガソリン車の排ガスはゼオライトを主体とした吸収材を通すことによってCO2が吸収され、CO2を含まない排ガスが排出される。CO2を吸収したゼオライトは真空ポンプで吸引されることによって、CO2が分離される。この吸収と分離を繰り返すことによって、排ガス中のCO2が連続的に分離されていくことになる。では分離されたCO2はどうなるかというと、CO2タンクの中に貯蔵されていくことになる。

この方法を使えば確かにエグゾーストノズルから排出されるCO2はなくなるが、排ガスから分離されたCO2はどんどんCO2タンクに貯まっていくことになる。もし、この自動車がガソリンスタンドで50ℓのガソリンを入れ、それが全て消費されるまで走行したとすると、タンクに貯められるCO2の体積は59,000ℓとなる。これは1辺が3.9mの立方体と同じ大きさで、このような大きなタンクを車両の中に確保しなければならないことになるが、そんなの無理だろう。

たとえ回収されたCO2を車の中に蓄えることができたとしても、結局は回収されたCO2を何らかの方法で処分しなければならない。もちろん、そのまま大気に放出したら何にもならない。

Yahooニュースの記事では、回収したCO2を温室で植物に吸収させれば食料が増産されると書かれているが、この方法はNGだ。植物はCO2を吸収して成長するが、やがては枯れる。枯れると植物は分解されて吸収したのと同じ量のCO2を排出するから、結局CO2は大気に放出されることになる。

野菜として人間が食べた場合も同じだ。野菜は体内で消化されて、吸収され、エネルギー源として消費され、最終的にはCO2となって呼気から大気中に出ていく。

植物は一般にカーボンニュートラルといわれているが、それは成長過程で大気中からCO2を吸収しているからだ。その吸収するCO2がガソリンのような化石燃料から出てくるものの場合はカーボンニュートラルとはみなされない。

回収したCO2に水素を反応させてe-fuelにするという方法も提案されているが、この場合は水素を作るときに電力が必要となるから、そんな電力があるのならEVで使った方がいい。また、この場合も、e-fuelを燃やせばCO2が出てくる。そのCO2ももともとガソリンが燃えて出てきたものだからカーボンニュートラルではない。

ガソリンを燃やしたあと、発生したCO2を回収すれば、確かにエグゾーストノズルからCO2が排出されることはないが、回収したCO2が消えてなくなるわけではない。結局は何らかの方法でCO2を処分しなければならないから、問題を先送りしているに過ぎない。それなら最初からガソリンを燃やさない方法を考えるべきだろう。それがEVであったり、バイオ燃料であったりするということだ。

2025年9月24日

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