高市首相が国会答弁で、台湾有事を安全保障関連法の「存立危機事態」になりうると発言して議論を呼んでいる。しかし、台湾有事がなぜ日本の存立危機事態になりうるのかについてはあまり議論されていないようである。中国の台湾侵攻によって台湾海峡が閉鎖され、それによって日本への石油の輸送が途切れ、これが存立の危機になるとかなりの数の人たちが考えているようだ。
そこで、石油の輸送経路、つまりシーレーンについて復習したい。

上の図が石油のシーレーンだ。
日本の石油の約95%が中東から輸入される。アラビア湾で原油を積み込んだ石油タンカーはホルムズ海峡を出てインド洋を通ってマラッカ海峡を経て、台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡を抜けて日本に到達する。
マラッカ海峡が通れない大型のタンカーの場合は、マラッカに代わってロンボク海峡を通って太平洋に抜けて日本に至ることになる。しかし、いずれにしても、わざわざ台湾海峡を通るタンカーはない。単に遠回りになるだけだからだ。だから中国が台湾に侵攻するために台湾海峡を通行禁止にしても、石油が途絶えることはない。
さらに、中国がバシー海峡を封鎖したとしてもロンボク海峡ルートのように少し遠回りになるが、代わりの航路はいくつか存在する。少なくとも台湾有事によって石油が途絶することは考えづらい。
台湾有事によって、石油以外の何か別の案件が存立危機につながるということがあるのかもしれないが、少なくとも石油途絶による日本の存立危機という事態は考えづらい。首相は何が原因で存立危機になると考えておられるのだろうか。


