12月14日、ユーグレナ社はマレーシアのペトロナス社およびイタリアのEni社と共同で、バイオ燃料の製造工場をマレーシアに建設することを検討していると発表した。
ユーグレナ社はミドリムシ(英名ユーグレナ)という微細藻類を栽培して、これを健康食品として販売している会社である。近年、このミドリムシから油分を取り出し、ジェット機やディーゼル機関の燃料とする事業に進出して注目されている。
そして、今回、マレーシアに大規模なバイオ燃料工場を作ることを検討しているという。これはいよいよユーグレナ社はミドリムシバイオ燃料を商業的規模で生産し、世界に打って出ようというのだろうか。
しかし、である。ここで疑問が湧く。なぜマレーシアなのか。それは逆にユーグレナ社がミドリムシをあきらめたことを示していると筆者は考える。
ミドリムシに限らず、微細藻類は他の油糧植物に比べて成長が早く、栽培面積当たりの収率も高い。アメリカのメーン州ほどの面積で微細藻類を栽培すれば、世界中で使われている石油と同じ量の油分が得られるという試算もある。
さらに、ミドリムシは光合成を行うので成長するときには空気中のCO2を吸収するから、燃やしても空気中のCO2濃度を増やさない。地球温暖化防止にもなる地球に優しい燃料である。つまり、ミドリムシ油はいいことずくめなのだ。
ユーグレナ社はミドリムシ油を使って製造したバイオ燃料を「サステオ」と名付け2021年から販売を開始している。その後、航空機やディーゼル機関での試験運用も行って、着々と実績を上げてきた。特に航空機用燃料は、今世界中で注目されている持続可能航空燃料(SAF)の一つとして認められている。
そして今回のマレーシアでのプラント建設計画である。製造能力は最大12,500バレル/日(約72.5万Kℓ/年)というから、これは本格的な商業生産レベルと言っていいだろう。いよいよ、ユーグレナ社がミドリムシ油バイオ燃料の本格生産に乗り出し、世界に打って出るときが来たのだろうか。
と、ここまでは順調であるように見える。しかしながら問題もある。実はサステオはミドリムシ100%のバイオ燃料ではない。割合は公表されていないが、かなりの量の廃食用油由来のバイオ燃料が混合されているのだ。廃食用油とはてんぷらなのどの調理に使った植物油を回収したものである。
なぜ、ユーグレナ社がミドリムシ油100%のバイオ燃料を使わないかは公表されていないが、多分コストの問題だろう。一方、廃食用油の問題は量である。人間が食べた残りの食用油はいくら集めても、ジェット機が一度に使う大量の燃料とは比べものにならないほど少ない。これでは、事業の拡大は難しいだろう。
今回のマレーシアのプロジェクトであるが、年間65万トンの原料を使用するというが、そんなに大量の廃食用油が得られるとは思えない。ではいよいよミドリムシ油を原料にするのかというと、そうではない。同社のプレスリリースによると「将来的には微細藻類由来の藻油などのバイオマス原料」を使うとある。あくまでも「将来的に」である。
おそらく、このプロジェクトが開始されれば、原料としてパーム油が使われることになるだろう。なぜならマレーシアは世界第2位のパーム油生産国であり、なんと世界のパーム油の3分の1を生産している。マレーシアといえば当然、パーム油である。
パーム油は既にバイオ燃料として大量に使用されており、技術的な問題も少ない。おそらくペトロナスもEniもパーム油を使うことを考えて、このプロジェクトに参加しているだろう。
つまり、ユーグレナ社がマレーシアを選んだのは、ミドリムシをあきらめ、パーム油に切り替えたということを意味しているのではないだろうか。ただし、それが悪いことではない。
ユーグレナ社がバイオ燃料の原料としてコストのかかるミドリムシではなくて、パーム油を選択したとすれば、それは現実的な選択と言えるだろう。せっかくミドリムシ油からバイオ燃料を作る技術を開発してきたのに、それを生かせないのは残念であるが、ここはおとなの判断ということだろう。
2022年12月17日