CO2を分解することはできるのか
CO2を分解して「脱炭素」できそうなのに、進まないのはなぜ? と称する記事が先日、東京新聞に載った。
「二酸化炭素(CO2)を炭素(C)と酸素(02)に分解する方法がまだ一般的でないのは、技術的な問題かコスト的な問題か、どちらでしょうか」という質問に対して、北海道大学のある名誉教授が行った研究を紹介。その研究によると、電気分解装置によってCO2を炭素と酸素に分解できることが実証されたという。
「だったら、空気中のCO2を分解してしまえば気候変動対策は簡単にできてしまう」ということになるのだろうか。
この記事では、CO2の分解は技術的には問題はなく、どちらかというと、コスト的な問題。それを克服して実用化しようと研究が進められてきた。と述べている。
つまり、技術開発が進んでコストを低減できれば、空気中のCO2を分解して脱炭素をすることができるということになりそうだと期待を抱かせる。しかし実はそうはいかない。この新聞が言うように技術やコストで解決できるということとは違った、できない理由があるのだ。
CO2を分解しようとすると、かえってCO2が増えてしまう
まず、 CO2は非常に安定な物質だ。だからこれを分解しようとすると大きなエネルギーが必要となる。これを達成するのが北大の名誉教授が行った電気分解だ。電気というエネルギーを与えてCO2を分解する。その分解に必要なエネルギーはCO2、1モル(44g)当たり393.51kJ。つまり、44gのCO2を電気分解するには393.51kJ分の電力が消費されることとなる。これは自然の法則なので変えられない。
一方、この電力を発電効率40%のLNG火力発電所から供給しようとすると983.75kJ分のエネルギーが必要となる。このエネルギーをLNG(主成分はメタン)の燃焼によって得ようとすると、メタン1モルの燃焼エネルギーが890.40kJだから、1.10モルのメタンを燃やさなければならないことになる。
1.10モルのメタンが燃えると、同じく1.10モル(48.4g)のCO2が発生するから、つまり電気分解法でCO2を分解しようとすると、火力発電所でその1.1倍のCO2が発生することになるのだ。
なお、ここではCO2を電気分解する装置の分解効率を100%として計算しているが、実際には100%よりずいぶん小さくなると予想されるので、必要な電力はもっと多くなる。だから、火力発電所で発生するCO2はさらに増えることになる。
ごちゃごちゃと計算をしたが、言いたいことは、CO2を分解することはできるが、そのために大量の電力が必要となり、その電力を火力発電所で作ろうとすると、火力発電所で大量のCO2が発生する。その結果、分解するCO2より発生するCO2の方が多くなってしまうということである。
これはコストや技術の問題ではなく、物理学の問題であり、いくらコストを低減しても、あるいは技術が進歩しても解決は不可能なのだ。
再生可能電力を使ったらどうか
以上の計算はCO2を分解する電力をつくるために火力発電を使ったが、そうではなく太陽光や風力のような再生可能エネルギーを使えばいいのではないかという反論もあるだろう。この場合はCO2を電力で分解しても、その電力を作るときにCO2が発生しない。しかし、これはまずいやり方である。
再生可能エネルギーがそんなに豊富にあるのなら、それで家庭や工場で使う電力需要をまかない、その分、火力発電で燃やすLNGや石炭の量を減らすべきだろう。そうすれば、その分CO2の発生量が減ってくることになる。
つまり再生可能エネルギーでCO2を分解するくらいなら、その分、火力発電を減らした方がいいということである。その方がわざわざ再生可能エネルギーを使ってCO2を分解するよりずっと効率的である。
風邪をひいてから風邪薬を飲むくらいなら、最初から風邪をひかない方がいいに決まっている。それと同じでCO2を発生させてから、 CO2を電気で分解するより、そもそもCO2を発生しない発電は一般需要のために活用すべきだということだ。
CO2の直接分解が有効になる使い方
ではCO2を直接分解するというアイデアは役に立たないのだろうか。
実は、筆者はここまで筆を進めてから、このCO2を直接分解する方法を活用するあるアイデアを思い付いた。単に空気中のCO2を分解してCO2濃度を減らして温暖化を防ごうというのは、結局、電力を使うので却ってCO2を増やしてしまう。あるいはそんな電力があるのなら他の用途に使えばいい。しかし、CO2の直接分解法は、うまく使えば役に立つやり方がある。
このアイデアについては、もう少し考えをまとめて、改めて紹介したい。
2025年2月5日