先日、元海洋研究開発機構の小林照明さんという方の講演を聞く機会に恵まれた。小林さんは既に退職されているが、現役時代は海洋研究開発機構が運営する「ちきゅう」の副所長を務められた方である。その講演はとても興味深く、2時間の講演はあっという間に過ぎてしまった。
「ちきゅう」はご存じのとおり地球深部探査船であり、世界各地の海洋にでかけ、掘削調査を行って、地球内部に関するさまざまな調査を行っている。調査内容は多岐にわたるが、だいたい調査期間の半分くらいは科学調査、残りの半分が資源探索等の商業調査であるという。
小林さんは科学調査をもっと行いたいが、調査資金を稼ぐために商業調査も行っているとおっしゃっていた。もちろん科学調査は人類の科学知識を得るために非常に重要であることは論を待たない。
しかしながら、資源調査についても興味深いところだ。特に話題となっているのが、日本の排他的経済水域(EEZ)内に眠っているレアアースなどの貴重な鉱物資源の探査だ。「ちぎゅう」は、全長210m、幅38m、総トン数5万7,000トンに達する大型の船。戦艦大和が全長256m、車高39mであるから、ほぼ匹敵する大きさだ。
「ちぎゅう」の中央部には高さ120m (海面からの高さ)の掘削やぐらが設置されており、このやぐらを使って、直径50cmほどの鋼鉄製のドリルパイプを海底まで下ろし、ドリルパイプの先に取り付けられたドリル・ビットで地底を掘り進んでいく。
「ちきゅう」は、この設備を使って2024年に宮城県沖の水深約6,900メートルの地点で、船上から深さ7,906メートルまで掘削するという世界記録を達成している。
ドリルパイプは直径50cmといっても海底まで数千mあるわけだから、そのパイプの長さと直径を対比すると、まるで海底まで糸を垂らしたようだと形容される。この糸のようなドリルパイプであるが、鋼鉄製であるからその重みは数千トンに達する。だから、ちょっとした船の動揺によって、鉄パイプは簡単にぷつんと切れてしまう。「ちぎゅう」の操船には細心の注意が必要になるだろう。
さて、資源探査で興味深いのは日本のEEZ内に大量に賦存しているといわれるレアアースなどの鉱物資源である。
EEZは海岸線から200海里(約370km)までの海域である。この範囲内では所属国が天然資源の探査・開発・採掘などの経済活動を他国に邪魔されずに行うことができるとされる。日本の海岸線は長い。四つの島が海に囲まれているほか、海洋に浮かぶ島々も多数あるから、ここから370kmの範囲といえば、その面積は膨大になる。日本は国土面積では世界で61番目であるが、EEZの面積は世界で6番目の大国になるという。といえば、これだけの巨大な面積をただ放っておくのは、もったいない。とだれでも考えるだろう。

日本のEEZの海底には、さまざまな機械や電気製品の心臓部品で使われるレアアースが大量に眠っていることがだんだんと明らかになってきたのである。レアアースは水深6,000mの海底の泥に含まれている。この泥を吸い上げて、含まれるレアアースを採取するわけであるが、どこにどれだけのレアアースが眠っているのか。どうやってその泥を回収するのかの調査が「ちきゅう」の仕事になるのだろう。ただ環境をいかに破壊することなく採掘するかという難しさがあるという。しかし、小林さんによると、あと10年以内にレアアースの採掘が可能になるだろうとのこと。
いま、日本は大量のレアアースを海外、特に中国からの輸入に頼っているが、自国のEEZ内でその採掘が可能となれば、安定供給の面からも産業安全保障の面からも非常に有意義であろう。
レアアースに限らずこの日本の広大なEEZには様々な資源が眠っている。アメリカやロシア、中国のように広大な領土を持つ国は、その国内に大量の資源を持っている。日本もEEZを開発していけば、これらの大国に伍する資源大国になることも夢ではないだろう。
2025年10月15日