EUは乗用車とバンについては、2035年以降、CO2を排出しないもの以外は販売を認めないとしていたが、昨年12月、これを一部修正し、e-fuelおよびバイオ燃料を使用する車両に限り、CO2を排出する車両の販売を認めると発表した。
これを受けて日本のマスコミは、EUがEVしか認めない方針を転換し、エンジン車の販売を認めたと報じた。さらに、そもそもEVだけにすることは無理があった。あるいはトヨタ自動車のHVを追い落とす計画が頓挫した。中国のEV導入を阻止しよう画策している。などという、いわゆる陰謀論をまことしやかに論説する記事も見受けられる。
しかし、これらの記事に共通して、ひとつの重要な視点が抜けている。それは地球温暖化、気候変動対策という視点である。
そもそも、EUはエンジン車廃止とか、EVしか認めないとはひとことも言っていない。EUの規制は2035年以降、「CO2を排出する車両」の販売を禁止するというものである。なぜそのような規制を行うのか。
それは、EU加盟国を含めて多くの国々で2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しているからである。カーボンニュートラルを実現するためには、CO2の排出量を実質的にゼロにしなければならない。これはつまり石油や石炭、天然ガスといった化石燃料が原則使用できないということであり、2050年以降はガソリン車やディーゼル車は走れないということを意味している。

それにスムースに移行するためには、車両の寿命を15年とすると、2050年の15年前つまり2035年までにCO2を排出する車両の販売を終了しなければならないことになる。だから、EUは車両から排出されるCO2の量を段階的に削減していき、2035年までにゼロにしてしまおうとしているのである。
わが国や米国なども同じカーボンニュートラル宣言をしているのだから、これを達成しようとすれば、EUと同じような対策を取る必要があるのだが、まだそこまではっきりと計画していないという状況だ。
昨年12月のEUの発表が、単にエンジン車を認めた、つまりガソリンや軽油を使う車両の販売を認めたというのならば、これは2050年のカーボンニュートラル達成をあきらめたということである。
今は冬だから、もう忘れてしまっているのかもしれないが、わが国では昨年、一昨年の夏は記録的な猛暑だった。この原因は単に地球温暖化だけとは言えないものの、地球温暖化がなければここまでの猛暑にはならなかったと言われている。今、地球は確実に温暖化に向かっており、このまま放置すれば夏場はさらに猛暑となる。
それだけではない、大雨による洪水や海面上昇による水害、大規模火災の発生など様々な災害を人間社会にもたらすだろう。
つまり、EUがCO2対策をあきらめて、今までどおり化石燃料を使うエンジン車を2035年以降も販売してよいという方向に方針転換したのなら、これは我々人類にとって大きな禍をもたらすのである。それは非常に残念なことなのだ。
EUもようやくEVではだめだとわかったか。とか、トヨタつぶしに失敗した。とか、悪い言葉で言えばザマアミロ的な記事には、地球温暖化対策という視点が抜けている。
幸いなことに、今回のEUの一部修正についてのプレスリリースを詳しく読んでみると、EUはカーボンニュートラルというゴールをあきらめたわけではないことが分かる。その内容はCO2を排出する車両の販売を一部認めるものの、その燃料についてはe-fuelおよびバイオ燃料を使用するものに限るとしているのだ。
e-fuelはその製造工程において、またバイオ燃料は原料作物の栽培工程で空気中のCO2を取り込んでいる。だからこれらの燃料を使えば、車両からCO2は出るものの、製造や栽培時に取り入れたCO2と相殺されるので、実質的にCO2を排出していないのと同じという理屈が成り立つ。
EUは今まで車両のエグゾーストノズルから出る排気ガスだけに注目して、その中のCO2をゼロにするという規制だった。今回の修正は、燃料製造時のCO2吸収も考慮して排出されるCO2を相殺するものであれば、販売を認めるということである。それは車両から排出されるCO2を2035年以降ゼロにするという方針は変えていないということになる。
もともとEUはエンジンはだめモーターにしなさいと言っているわけではない。要は地球温暖化の原因となるCO2を車両から排出さないようにしなさいと言っているのだから、ゴールを変えたわけではない。
もし、今後EUがe-fuelやバイオ燃料だけでなく、ガソリンや軽油を使ってもいいというふうに方針転換するならば、それは大問題である。ようやくEUもEVでは無理だと気付いたかとか、トヨタ潰しに失敗したとか、そんな他人事のように言っている場合ではない。地球温暖化はさまざまな災害を、わが国を含めて全地球的に起こし始めることになるだろう。
2026年1月3日

























