先週、アメリカ穀物協会が主催する「自動車用バイオエタノールの未来」シンポジウムに出席しました。今後、日本でも導入が予定されているE10およびE20ガソリンについて、様々な講演が行われました。
写真はアメリカ穀物協会のキャラクター、デン君とコニーちゃんです。着ぐるみは初公開とのことで、協会の意気込みが感じられます。

先日(2025年4月22日)、日経モビリティに「割高のバイオ燃料車「誰が買うのか」」という記事が載った。スズキの鈴木俊宏社長が中期経営計画を発表する場で、バイオ燃料車は消費者や事業者の負担が高まる。「誰が買うのか」と発言したという。
バイオ燃料車が消費者の負担を増やすという話は、バイオ燃料車のことなのか、バイオ燃料自体のことなのかはよく分からないが、誰も買えないほどバイオ燃料は高価な買い物になるのだろうか。
まず、バイオ燃料を使用する車両であるが、日本でもすでにE10(バイオエタノールを10%添加したガソリン)を燃料として使用できるものが販売されている。給油口に貼ってあるステッカーを見て、初めて自分の愛車がE10に対応していることを知ったという人も多いだろう。このように、すでにE10対応車は一般に普及しているので、いまさらバイオ燃料を使用する車両が消費者の負担になるとは思えない。
では、燃料の方はどうなのか。米国穀物協会のホームページによるとバイオエタノールの価格は先週平均で1.79ドル/ガロンであった。(Gulf FOB)これを1ドル=140円、1ガロン=3.785リットルで換算すると、66.2円/リットルとなる。
バイオエタノールはガソリンに比べて発熱量が60%くらいしかないから、この単価を0.6で割り返すと、110.3円/リットル。これに揮発油税53.8円/リットルを加えると、164.1円/リットルとなる。
一方、現在の日本のガソリンの市販価格は180円/リットルであるから、バイオエタノールはかなり安い。実際には米国からの輸送コストやガソリンスタンドでの販売経費などが加算されるわけであるが、それを加味してもバイオエタノールがそれほど高価になるとは思えない。
ガソリン価格は原油価格で、バイオエタノールはトウモロコシ価格でそれぞれ変動するのでどちらが安い、高いとは一概には言えないが、ほぼトントンというところだろう。
バイオ燃料は高いというイメージを持っている人もいるようだが、石油系の燃料に比べて意外に高いということはない。少なくとも高くて「誰が買うか」という話ではないだろう。
2025年4月23日
この4月1日から東京都と川崎市では新築の建物に太陽光パネルの設置を義務づける制度が始まった。東京と川崎は温室効果ガスの排出量が、それぞれ全国1位と2位の都市だ。
しかし、太陽光発電をしようとしてもメガソーラーのような大規模な太陽電池パネルを設置する場所がない。そこで住宅の屋根に太陽光パネルを設置して温室効果ガスをできるだけ削減しようというアイデアだ。
この話題とは直接関係はないのだが、都内の住宅の屋根のようなみみっちいことを言わずに、地球全体を太陽電池パネルで覆ったら、どれくらい発電できるものなのだろうか。ちょっと計算してみた。
地球が太陽から受ける光のエネルギーは太陽乗数といわれ、 1m2あたり1,370Wと測定されている。これに地球の断面積をかければ、地球が太陽から得られる光のエネルギーを求めることができる。これに太陽電池パネルのエネルギー効率(だいたい20%)をかけてやれば発電量を求めることができるという寸法だ。
太陽乗数 = 1,370W/m2 = 1.370×1016W/km2
地球の断面積 = 127,400,000km2 = l.274×108km2
太陽電池のエネルギー効率 = 20% = 0.2
として計算すると地球表面を覆う太陽電池の発電量は
1.370×1016W/km2 × 1.274×108km2 × 0.2 = 3.491×1016W
これは原子力発電所(出力100万kW=109W)の3,500万基分 ! に相当する。
1W(ワット)は1 J(ジュール)/sである。つまり、 1秒間に1 Jのエネルギーを発生することであるから、地球を覆う太陽電池の年間発電エネルギーは3.491×1016W に1年間の秒数(3.154×107秒)をかけてやればよい。
3.491 × 1016W × 3.154×107秒 = 1.098×1024 J
一方、2023年の世界の総エネルギー需要量は約6.20×1020 Jであった。これと地球を覆う太陽光発電パネルの1年間の発電量を比較すると次のようになる。
1.098 × 1024 J÷6.20×1020 J ≒ 1,800
つまり、地球全体を太陽光発電パネルで覆ったときの発電量は、人間が1年間に使うエネルギーの1800倍 ! ということになる。つまり、地球をすべて太陽光発電パネルで覆うと、たった5時間程度 ! の発電量で、人間が1年間に使うすべてのエネルギーを賄えるということを示している。
※ただし、雲による太陽光の反射や大気による吸収を計算に入れていないので、実際にはこの半分くらいになりそうですが。
2025年4月17日
近年、EV(電気自動車)が正義、ガソリン車は悪であるという風潮があると嘆く方がおられます。私は、そんな善か悪かという単純な割り切りには賛成できません。が、いややっぱりガソリン車は悪です。その理由はガソリン車が地球温暖化の原因になっているという話のほかに、特に日本にとっては、つぎのような問題があるからです。
ガソリン車は当然、ガソリンで動きます。ガソリンは原油を精製して作ります。原油は日本では採れないので、そのほとんど、なんと96%が中東からの輸入です。ということで中東の王様が儲かってウハウハで、世界でも有数の大富豪になっています。単に自分の国でたまたま石油が取れるというだけで、世界でも比類のない大富豪になっているのです。そんな不公平でいいんでしょうか。
それと、中東は不安定で、いつ戦争が起こっても不思議じゃない。ホルムズ海峡に機雷でも仕掛けられたら、日本は石油の輸入ができなくなって、もうガソリン車は走れません。日本の石油のほとんどはホルムズ海峡を通っているわけですから。
といってもEVも結局は、発電時に化石燃料を使うじゃないかとおっしゃいますか?でも、日本の火力発電は石炭とLNGです。石油は使っていません。石炭の輸入先はオーストラリア、インドネシア、ロシアなど、LNGはオーストラリア、マレーシア、アメリカなど。石油のように中東に依存しておらず、世界中に分散しています。
ロシアにはオリガルヒという大富豪がいますが、それ以外は、石炭やLNGで富を独り占めしているような人はいません。何万人におよぶ従業員や株主や株主に雇われた経営者が少しずつ分け合っているわけです。石油よりずっと民主的でしょ?
しかも、日本では電力の約7割が石炭やLNGを使う火力ですが、これから日本は火力の割合を減らして太陽光や風力のような再生可能エネルギーの割合を増やしていこうとしています。政府の予想だと2040年で再エネが40~50%、原子力が20%まで増えます。
一方、化石燃料は30~40%まで減り、当然、 CO2排出量も減りますが、それだけじゃない。化石燃料を輸入する必要がなくなり、太陽光や風力という国産のエネルギー源に代わります。エネルギー自給率は現在の13%から30~40%まで増えます。当然、化石燃料代金を払わなくていいことになって、それだけ日本は豊かになります。
ガソリン車にはそんな先の望みはありません。ガソリンを使う限りは相変わらず中東に依存して、いつ石油が止められるかびくびくしながら、しかもあなたがガソリン代として支払ったお金は中東の石油王に吸い上げられていくのです。ガソリン車は悪だという話。お判りになりましたでしょうか。
(この文は、ナレッジコミュニティ・Q&AサイトQuoraの質問に私が回答したものを再掲しました)
【付録】
これはサルバトール・ムンディと名付けられた絵画で、あのモナリザを描いたレオナルド・ダ・ビンチの作品ではないかと言われています。(真偽ははっきりない)
1958年にわずか45ポンドで売買された絵ですが、オークション毎に値段が高騰していき、2017年のクリスティーズでなんと500億円で落札されました。
この作品を買ったのが、アラブの大富豪。売ったのがロシアのオリガルヒです。本物かどうかもはっきりしない一枚の古びた絵に500億円!かれらの金銭感覚はどうなっているのでしょうか。
こんな大金があれば、何千人もの貧しい人たちに職を与え、あるいは学校へ行けない子供たちに教育を施すことができるでしょう。しかも、アラブの大富豪がポンと出した500億円、元はと言えばあなたが高い高いと不平を言いながら買ったガソリン代金なのです。
サルバトール・ムンディはいまどこにあるのか分かりません。アラブの大富豪の豪華なヨットのキャビンに飾られているのを見たという人がいるようですが。
第7次エネルギー基本計画は、その原案が昨年(2024年) 12月に一般公開されていたが、パブリックコメント期間を経て、今年2月に閣議決定されて正式に承認された。
この基本計画の原案とパブリックコメントを経た後の正式バージョンにはほとんど違いはないようであるが、一点、気になった点がある。それは、原案にはあった「核融合」という文字が正式版では事実上なくなってしまっていたことである。
原案では、 「核融合」という文字は3か所出てくる。
最初はⅤ章「2 0 4 0年に向けた政策の方向性」の中の原子力発電の項の中である。原案では「高速炉、高温ガス炉、核融合といった他の次世代革新炉についても…」としているところ、正式版では「高速炉、高温ガス炉、フュージョンエネルギーといった他の次世代革新炉についても…」と核融合がフュージョンエネルギーに書き換えられていた。
もう一か所はⅥ章「カーボンニュートラル実現に向けたイノべ-ション」の中の、やはり原子力の項で、「フュージョン(核融合)については、フュージョンエネルギー・イノべーション戦略を踏まえ…」となっていたものが、正式版では「フュージョンについては、 …」と(核融合)の部分が削除されているのである。
3か所目は、 2か所目と同じ章にある「国際核融合実験炉ITER」の部分であるが、正式版でも「核融合」という言葉がそのまま残されている。しかし、これは固有名詞だから変更しようがなかったのだろう。
つまり、正式版では核融合という用語が丁寧にフュージョンもしくはフュージョンエネルギーという用語に置き換えられているのである。
なぜ、正式版では核融合という言葉を事実上削除したのだろうか。もちろん、核融合を英語で言えばフュージョン(nuclear fusion)であるが、日本として一般になじみのある言葉ではない。というより、フュージョンと聞いて思い浮かぶのは、音楽のジャンルのひとつであろう。
ちなみにネットで “フュージョン” を検索すると、音楽のジャンルのひとつという説明が表示される。そのほかにはオートバイやスポーツ用品、ジュエリーなどがヒットするが、核融合の意味だという説明は見当たらない。
核融合は地上の太陽などと言われて、世間一般の期待が大きいが、恐らくフュージョンと言われて核融合のことだと理解できる人はそう多くはないであろう。
ではなぜ、エネルギー基本計画では核融合をわざわざ、ほとんど一般には使われないフュージョンという言葉に置き換えたのだろうか。
想像するに、核融合の「核」という漢字が嫌われたのではないだろうか。核融合を原子力発電と同様に危険だと誤解されないように、フュージョンという言葉を使うべきだというパブリックコメントがあったのかもしれないし、核融合推進派の国会議員あたりから要請があったのかもしれない。
エネ庁が「核」という言葉に神経質になっているのかもしれない。としても単に言葉の中から核という部分を取り除いても、実情が変わるわけではないのだが。
2月5日正午ごろ、愛媛県の松山空港に米軍の戦闘機2機が緊急着陸。着陸の原因は燃料切れということで、松山空港で燃料を補給して午後4時ころ飛び立ったという。
この戦闘機は最新のF35C。わが国の航空自衛隊で運用しているのはF35Aという空軍型だが、松山空港に降り立ったのは海軍仕様のC型だ。空母ジョージワシントンの艦載機で、岩国基地に所属しているという。岩国と松山はつい鼻の先だから、燃料不足で緊急着陸したというより、岩国で何かのトラブルがあり、上空で待機している間に燃料がなくなったのではないだろうか。
ここで疑問なのは、燃料として何を補給したのかということである。米国は空軍と海軍とでは燃料が異なり、海軍はJP-5という規格のジェット燃料を使っているはずである。(空軍はJP-8)これに対して、わが国の民間航空機はJet A-1という規格の燃料だ。
松山空港は民間空港であるからJP-5を持っているとは思えないし、F35が駐機していた4時間ほどの間にわざわざJP-5を取り寄せることもできないだろうから、民間航空機用のJet A-1を給油したのだろう。そしてそのまま何事もなかったようにF35は飛び立っていった。
JP-5もJet A-1もベースは灯油である。主な違いはJet A-1の方が引火点が低いことと、添加剤が多少異なるかもしれない(添加剤はメーカーによって異なる)というくらいである。そもそも、JP-5もJet A-1も中身は灯油なのだから、実は街のガソリンスタンドで売っている灯油でもジェット戦闘機を飛ばすことは十分可能なのだ。だからJP-5の代わりにJet A-1を給油しても大きな問題もなくF35は飛び立つことができたということだ。
このことは、例えば有事の際に空軍基地が攻撃を受けて使用できなくなったとき、戦闘機が民間空港に降り立ち、民間航空機用の燃料を補給して、また飛び立つということが可能だということを示している。
ちなみに、わが国は各都道府県にそれぞれ1か所以上の空港があるが、これほど空港密度の高い国は他にないだろう。今回のF35が所属する岩国基地に隣接した空港は松山だけではない。広島、石見、大分、宇部、北九州と100㎞以内にある空港だけで6か所もある。これはパイロットにとっては大変心強いことだろう。
以前、中曽根総理大臣が米国を訪問して、日本は不沈空母だと発言して議論を呼んだことがあるが、今回の事件は、まさにわが国が不沈空母だという一例であろう。今たまたま、石破総理大臣が米国を訪問してトランプ大統領と会っているが、このことは米国が日本と同盟関係を保つ大きな要因となるだろう。なにせ、中国やロシア、北朝鮮といった米国に敵対する国々の鼻面に日本という不沈空母が横たわっているのだから。
2025年2月8日
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CO2を分解して「脱炭素」できそうなのに、進まないのはなぜ? と称する記事が先日、東京新聞に載った。
「二酸化炭素(CO2)を炭素(C)と酸素(02)に分解する方法がまだ一般的でないのは、技術的な問題かコスト的な問題か、どちらでしょうか」という質問に対して、北海道大学のある名誉教授が行った研究を紹介。その研究によると、電気分解装置によってCO2を炭素と酸素に分解できることが実証されたという。
「だったら、空気中のCO2を分解してしまえば気候変動対策は簡単にできてしまう」ということになるのだろうか。
この記事では、CO2の分解は技術的には問題はなく、どちらかというと、コスト的な問題。それを克服して実用化しようと研究が進められてきた。と述べている。
つまり、技術開発が進んでコストを低減できれば、空気中のCO2を分解して脱炭素をすることができるということになりそうだと期待を抱かせる。しかし実はそうはいかない。この新聞が言うように技術やコストで解決できるということとは違った、できない理由があるのだ。
まず、 CO2は非常に安定な物質だ。だからこれを分解しようとすると大きなエネルギーが必要となる。これを達成するのが北大の名誉教授が行った電気分解だ。電気というエネルギーを与えてCO2を分解する。その分解に必要なエネルギーはCO2、1モル(44g)当たり393.51kJ。つまり、44gのCO2を電気分解するには393.51kJ分の電力が消費されることとなる。これは自然の法則なので変えられない。
一方、この電力を発電効率40%のLNG火力発電所から供給しようとすると983.75kJ分のエネルギーが必要となる。このエネルギーをLNG(主成分はメタン)の燃焼によって得ようとすると、メタン1モルの燃焼エネルギーが890.40kJだから、1.10モルのメタンを燃やさなければならないことになる。
1.10モルのメタンが燃えると、同じく1.10モル(48.4g)のCO2が発生するから、つまり電気分解法でCO2を分解しようとすると、火力発電所でその1.1倍のCO2が発生することになるのだ。
なお、ここではCO2を電気分解する装置の分解効率を100%として計算しているが、実際には100%よりずいぶん小さくなると予想されるので、必要な電力はもっと多くなる。だから、火力発電所で発生するCO2はさらに増えることになる。
ごちゃごちゃと計算をしたが、言いたいことは、CO2を分解することはできるが、そのために大量の電力が必要となり、その電力を火力発電所で作ろうとすると、火力発電所で大量のCO2が発生する。その結果、分解するCO2より発生するCO2の方が多くなってしまうということである。
これはコストや技術の問題ではなく、物理学の問題であり、いくらコストを低減しても、あるいは技術が進歩しても解決は不可能なのだ。
以上の計算はCO2を分解する電力をつくるために火力発電を使ったが、そうではなく太陽光や風力のような再生可能エネルギーを使えばいいのではないかという反論もあるだろう。この場合はCO2を電力で分解しても、その電力を作るときにCO2が発生しない。しかし、これはまずいやり方である。
再生可能エネルギーがそんなに豊富にあるのなら、それで家庭や工場で使う電力需要をまかない、その分、火力発電で燃やすLNGや石炭の量を減らすべきだろう。そうすれば、その分CO2の発生量が減ってくることになる。
つまり再生可能エネルギーでCO2を分解するくらいなら、その分、火力発電を減らした方がいいということである。その方がわざわざ再生可能エネルギーを使ってCO2を分解するよりずっと効率的である。
風邪をひいてから風邪薬を飲むくらいなら、最初から風邪をひかない方がいいに決まっている。それと同じでCO2を発生させてから、 CO2を電気で分解するより、そもそもCO2を発生しない発電は一般需要のために活用すべきだということだ。
ではCO2を直接分解するというアイデアは役に立たないのだろうか。
実は、筆者はここまで筆を進めてから、このCO2を直接分解する方法を活用するあるアイデアを思い付いた。単に空気中のCO2を分解してCO2濃度を減らして温暖化を防ごうというのは、結局、電力を使うので却ってCO2を増やしてしまう。あるいはそんな電力があるのなら他の用途に使えばいい。しかし、CO2の直接分解法は、うまく使えば役に立つやり方がある。
このアイデアについては、もう少し考えをまとめて、改めて紹介したい。
2025年2月5日
CO2は悪者じゃない。
なぜなら、植物はCO2を吸収して成長する。
だからCO2が増えれば植物は繁栄する。
だからCO2は増えてもいいんだ。
というような、そんな意見を耳にすることがある。
今年1月、米国はワイオミング州で、 CO2は「悪者じゃあない」という法律案が提出されたという。 (https://wyoleg.gov/Legislation/2025/SF0092)
この法律案のスローガンは「二酸化炭素を再び偉大にしよう – ネットゼロ反対(Make carbon dioxide great again – no net zero)」だ。
この法案、要約すると以下のようになる。(ただし、今のところこの法案が可決成立したわけではないようだ)
認定事項(要約)
よってワイオミング州の政策を次のとおりとする。
この法律案の中の「認定事項」に書かれていることは、「利用できるCO2が多いほど生命はよりよく繁栄できる」という部分以外は、まあ間違いではないだろう。
確かにCO2は植物あるいは農作物の生育にとって必要な物質である。CO2は植物にとって、人間でいえばビタミンやサプリメントというより、米や肉のような主食である。当然ながらCO2がなければ植物は成長できないし、ある程度はCO2が多いほど成長が促進されることも事実である。
ただ、賛同できないのは、だからCO2削減策(ネットゼロ)を講じてはならないとしている点である。
CO2の空気中濃度は150年ほど前から急速に増加し始めており、これによって地球が温暖化し、様々な気候変動が起こっている。だからCO2排出量を削減しようというのがネットゼロの目的である。
ネットゼロをやっていけないというのなら、植物のためにはいい面もあるだろうが、そのほかの地球温暖化によって生じる様々な環境問題にはどう対応するのだろうか。
あるいはひょっとすると、この法案の提出者は誤解しているのかもしれない。ネットゼロというのは言うまでもないが、排出量と吸収量を同じにして、これ以上空気中のCO2を増やさないということだ。この法案の提出者はネットゼロとは空気中のCO2をゼロにすることと勘違いしているのかもしれない。
このワイオミング州の法案でもCO2濃度は150ppm以上が必要だとわざわざ書かれているが、ネットゼロとは、そこまでCO2濃度を下げようというのではない。現在は420ppmであるから、このままの濃度であれば植物の生育には問題ないはずである。
そもそも、 空気中のCO2は植物の生育を助けるだけではない。 CO2が増加すれば、地球が温暖化するという問題があるから、それが植物に与える影響も考えなければならないはずなのだ。
地球が温暖化すれば当然、水が蒸発しやすくなって乾燥が進み、ある地域は砂漠化する。一方で、蒸発した水はやがて雨になって落ちてくるから、ある地域では大雨となる。つまり、地球が温暖化すれば、ある地域は乾燥し、ある地域では大雨が降るようになる。乾燥すれば植物は生育できないし、大雨が降れば植物にとって大切な土壌が流される。
また、温暖化によって海の温度も上がるから海水が膨張して、海面が上昇し、低地に塩水が入り込む。(ワイオミング州は高地にあるから関係ないだろうが)あるいは、乾燥した地域ではロサンゼルスのように山火事が起こりやすくなる。 (こっちはワイオミング州にも大いに関係している)
さらに、植物の生育が促進されれば雑草がはびこって農業に支障をきたすかもしれないし、熱帯地方で育つ害虫が温帯地方で繁殖して農作物を食い荒らすかもしれない。植物は動物と違って自ら移動することができないので、気温の上昇に適応できない植物は病気になったり、枯れたりする。
これらはいずれも、植物や農業にとって有害な事象である。
このようにCO2の増加が植物の生育に有利なだけとは限らない。CO2の増加が植物や農業に与える影響については、負の要因も含めて総合的に考えなければならないのだ。
CO2が植物の生育を促進するのは事実であるが、その一点だけを取り上げて、CO2濃度は増加した方がいいとか、脱炭素はやるべきではないなどと主張するのは、なんという狭い見方なのだろうか。
2025年1月17日
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知恵袋というサイトがある。何か疑問を持った人が、このサイトに投稿すると、その投稿を見た人が答えをくれるというシステムである。最近は知恵袋の運営者がAIで作成した回答を付け加えるようになっている。
このAIの回答、だいたい妥当な回答を表示していることが多いのだが、ときどきこれは?と思われるものもある。その中で、これはあまりにもにも酷いじやないかという例を見つけたので紹介したい。
質問
質問はつぎのとおりである。
「ENEOS、出光、コスモ石油、 JA-SS、昭和シェル石油、apollostationの意味が知りたい」
AIの答え
この質問に対するAIの回答はつぎのとおり。
このAIの回答を読んで、少しでも石油業界のことを知っている人なら (あるいは一般の人でも)この回答は間違いだらけだとすぐにわかるだろう。
正しい答
筆者が示す正しい答えはつぎのとおり。
AIの回答はどこがおかしいか
AIの回答で特におかしいところは、つぎのような点である。
「出光の由来は太陽の光を意味する」
出光興産は創業者出光佐三氏の名前から来ていることは多くの人が知っているだろう。佐三は「海賊と呼ばれた男」という映画のモデルとなったことでも有名な人物である。出光が太陽の光を意味するというのはAIの作り話に過ぎない。
「JA-SSがJapan Automobile Service Station Associationの略で、日本の自動車用ガソリンスタンド協会を意味する」
ガソリンスタンド関係の組織には全国石油業協同組合連合会(全石連)や全国石油協会という組織はあるが、自動車ガソリンスタンド協会という組織はどこにも存在しない。
「Apollostationはアポロ計画にちなんで名づけられた」
アポロマークは出光興産が1952年からロゴとしていた。米国のアポロ計画は1961年から始まっているから、出光興産のアポロマークはアポロ計画より10年近く早い。アポロ計画にちなんでつけられたということはあり得ない。
AIはなぜこんな間違いをするのだろうか。例えばJA-SSであるが、恐らく石油関連の用語というヒントからJA-SSにJapan Automobile Service Station Associationの略号だと推測であてはめ、それを日本語に翻訳して「自動車用ガソリンスタンド協会」というありもしない組織をでっちあげたのだろう。
ときどき人間でも、勝手な推測や思い込みによってそれが本当であるかのように吹聴して回る人がいたりするが、それと同じようなことをAIもやる可能性があるということなのだ。人間の場合でも、それが大学の先生だったり、有名人だったりすると、それが本当のことのように広がっていくことがある。
すべてのAIがこのようなお粗末な答えを出すわけではないだろう。しかし、常にAIの答えが正しいわけではない。AIの答えを受け取る方もAIが言っていることだから正しいと受け入れるのではなく疑ってかかる必要があるということだ。 AIがフェイクの発信源になると恐ろしいことになる。
2024年10月24日
東京ガスがe-メタンについてのCMを放映している。このCMの主人公を演じるのは俳優の町田啓太さん。主人公がうたたねをしていて、ふと目が覚めると、そこは地球温暖化が進んですっかり砂漠化した世界。そこにたむろする人々は暑さに耐えかねている。そこで主人公がCO2を排出しないe-メタンの説明をする。これで地球温暖化は解消。みんな喜んで踊りだすという筋書きだ。
ここで筆者が納得できないのはCMで表示されたこの図だ。
この図では、発電所から排出されたCO2が回収され、水素と反応してe-メタンになる。 e-メタンは都市ガスとして各家庭で使われる。このときCO2を出すが、そのCO2も回収され再びe-メタンとなって循環する。このCMではCO2がこんな三角形の循環が行われるように書かれている。
こんなふうにCO2がリサイクルされれば、地球大気のCO2を増やさない。そうすれば、地球温暖化は防ぐことができる。画面のコメントでも、 「回収したCO2を使うことで、大気中のCO2を実質的に増やさないことを意味します」と書かれている。
ところがだ、問題はこの理想的な図と東京ガスが実際にやろうとしていることは違うということだ。
どこが違っているのか説明しよう。
まず発電所だが、これはCO2を排出するのだから、当然石炭や天然ガスのような化石燃料を燃やして発電している。にも関わらず、この図には化石燃料を使っていることが示されていない。これがまず問題。
次に、 CO2と水素から製造されたe-メタンを家庭で使えば当然CO2が発生する。この家庭で出てくるCO2まで東ガスは回収することを考えていない。だからCO2は大気中に放出される。なのに、この図では発電所と同様に回収されるように描かれている。
つまり、このCMでは発電所や家庭で排出されたCO2は回収されてe-メタンとなって、家庭で燃やされ、再びCO2となって回収されるというCO2が完全に循環使用されているように描かれているのだが、このような完全なCO2のリサイクルを東京ガスがやろうとしているわけではない。つまり嘘だということだ。
実際には、発電所で回収されるCO2は化石燃料を燃やして出てきたCO2だ。これを回収してe-メタンにして、家庭に供給するが、家庭で燃やされて出てきたCO2は回収されるわけではなく大気中に排出される。
つまり次のような図が正しい。
化石燃料は発電所で燃やされてCO2となり、CO2が排出される。そのCO2を回収してメタネーションでe-メタンを作り、都市ガスとして家庭で燃やされ、再びCO2となって大気に放出される。つまり化石燃料を燃やして出てくるCO2は最終的に大気の排出されるわけだ。
その結果、発電所で化石燃料を使った分だけ、大気中のCO2は増えてしまうことになる。決してカーボンニュートラルではない。
もし東ガスがカーボンニュートラルだと謳いたいのなら、 CO2を火力発電所から回収するのではなく、大気中から回収する(DACという)。あるいはバイオマス発電所から回収する(BECCUという)。そうすれば大気中のCO2濃度を増やさない。CO2を増やさないと主張するのなら、そこまでやってくれよということである。
断っておくが、筆者はメタネーションやe-メタンそのものを否定しているわけではない。必要な技術のひとつだと思うが、東ガスのやろうとしていることは、水素を使っている分だけCO2の削減にはなるが、結果として空気中のCO2を増やしますよということをちゃんと視聴者にもわかるように伝えてほしいと思う。
2024年9月12日