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石油はあと40年(あるいは30年)でなくなる。枯渇する。昔からよく言われていることです。今や常識になっているような感さえありますが、でもちっとも枯渇する様子が見えませんね。一体どうなっているのでしょうか。多くの人が疑問を持っているのではないでしょうか。
1.結論
石油は40年ではなくならない。
石油が40年でなくなるという説は、可採年数から来ているが、可採年数はもともと石油がなくなる日を示しているわけではない。にも拘わらず、マスコミや学者の一部が勝手に誤解しているだけ。
最近は無尽蔵とも言われるシェールオイルを採掘する技術が開発されたため、石油がなくなると心配する専門家はほとんどいなくなった。
2.はじまりは石油ショックから
石油はあと○○年でなくなるという話が声高に言われ始めたのは1973年に起こった石油ショックの時からでした。このとき石油を輸出している国々が中心になって結成された石油輸出国機構(OPEC)が、それまで1バレルあたり2ドル台だった原油価格を5ドル台まで(その翌年にはさらに11ドル台まで)引き上げたことが世界的な大混乱を引き起こしました。
それでも、お金を出せば石油は買えたのですが、もっと悪いことに、アラブ諸国はイスラエルを支持する国には輸出しないと言い出したため、国によってはお金をだしても石油が買えないという事態が発生しました。
そのころ日本は高度成長期で、産業を発展させるためには石油を安定的に市場に供給することが不可欠でしたから、大変な騒ぎになりました。
過去には日本は石炭をエネルギー源の中心としてきたのですが、次第に石油にシフトしてきていたのです。石油ショックになって初めて多くの国民が、日本のエネルギーの大半が石油になっているのを知って愕然としたのです。
この頃です。石油はあと30年でなくなるということがマスコミで大々的に報道され始めたのは。評論家や学者たちも、あと30年、あと30年と騒ぎ始め、国民の不安を煽り立てました。(トイレットペーパーがスーパーマーケットから消えたのもこのころです)
そのころ私は学生でしたが、ゼミの先生からこう言われたことを覚えています。
「タカギチ君、世間では石油はあと30年でなくなると騒いでいるがね、あれは嘘だよ。石油は30年かそこらじゃなくならないよ」
実は、当時でも、石油の専門家の間では石油30年枯渇説は嘘だというのが常識だったようなんですです。実際、石油ショックから30年たった2000年代になっても石油は枯渇しませんでした。
むしろ「石油はあと40年でなくなる」と、かえって石油の寿命が30年から40年に延びてしまいました。一体どうなっているのでしょうか。
3.なぜ石油は枯渇しなかったのか
石油が30年でなくならなかった理由としては、いろいろなことが言われています。石油採掘技術が発達して油田の寿命が延びた。昔は探鉱技術が未発達だったので枯渇までの年数が不正確だった。石油は今でも地下で作られていて少しずつしみだしている。等々。
ある集会に出席したとき、高名な技術評論家の先生が次のようにおっしゃっていました。「石油はあと40年で確実に枯渇する。石油ショックから30年たっても枯渇しなかったが、それは昔の探鉱の精度が低かったからだ。今は精度が上がっているので正確だ。あと40年で確実に石油は枯渇する。」と。
しかし、その先生は、次の年になっても40年で石油は枯渇すると言われていました。その次の年になっても、その次の年になっても40年。
もし40年枯渇説が正確なら、次の年には39年、その次の次の年には38年と減っていかなければならないのに、いつまでたっても40年。先生は40年、40年と言い続けられながら、ついに天寿を全うされました。
では、なぜ「石油はあと40年でなくなる」というのがウソなのか。そろそろ種明かしをしましょう。
4.間違いの原因は石油可採年数という数字の誤解
それは、そもそも石油があと40年で枯渇するという根拠そのものが間違いだったからです。石油40年(30年)枯渇説の根拠になっているのは、可採年数という数字です。
可採年数はBP統計という資料に記載されていますが、この数字が石油ショック当時で30年、2000年頃には40年になっていたということなのです。ではなぜ石油ショックから30年たっても可採年数がゼロにならずに、むしろ増えてしまったのでしょうか。(ちなみに2017年には可採年数はもっと増えて60年近くなっています)
可採年数というのは、石油の確認埋蔵量を年間の採掘量で割った数字のことです。ある油田が発見されたとすると、開発業者はその油田にどのくらいの石油があるかをできるだけ正確に調べます。これが確認埋蔵量です。そしてその量を年間の採掘量で割ってその油田が何年使えるかを計算します。これが可採年数です。
例えば、確認埋蔵量が2億バレルの油田が見つかり、その油田から毎日5万バレルずつ採掘するとします。すると、その油田の寿命は2億バレル÷(5万バレル×365日)=10.96となって、その油田は約11年で枯渇することが分かります。これが可採年数と言われるものです。
この数字は非常に重要で、油田が見つかると原油の採掘設備や貯蔵設備、出荷設備、あるいは従業員の宿泊施設まで作らねばならず、結構な投資になります。
そうやって設備を作っても、その油田が1年や2年で枯れてしまっては、投資が回収できません。その油田が何年もつかというのは投資をするかどうかの判断に使われます。
BP統計に記載されている可採年数は、世界中の油田の可採年数を集めて平均した数字です。ですから、この数字自体に間違いはないし、とても重要な数字なのです。しかし問題は、BP統計が示す可採年数は世界の「石油が枯渇する年数を示しているわけではない」ということなのです。
BP統計が世界の油田の可採年数の平均値が40年だと言ったとしても、「40年たったら石油が枯渇する」とは言ってないのです。なぜなら、可採年数は新たに発見される油田については計算に含まれていないからです。
わかりやすく言えば、可採年数が40年とは、少なくとも40年間は新しい油田が発見されなくても石油が枯渇することはない。少なくとも40年間は石油はあるんだよ。と解釈すべきなのです。なのに40年たったら石油が枯渇すると勝手に解釈していることが間違いの原因なのです。
BP統計の数字の意味をちゃんと理解していないにも拘わらず、BP統計が40年だから40年で石油がなくなると信じて疑わないマスコミや評論家や学者のなんと多いことか。「ボーと生きてんじゃねえよ!」と言いたいところです。
5.では石油はいったいいつなくなるのか
ちなみに、可採年数は新たな油田が見つかれば増えますし、見つからなければ減っていきます。1970年代に可採年数は30年でしたが、それから毎年新しい油田の発見があったため、可採年数は増加してきているというわけです。
それでも、石油は有限な資源ですから、30年や40年で枯渇することはないとしても、いつかはなくなってしまうはずです。それはいつなのでしょうか。
それを知るためには、確認された埋蔵量ではなく、まだ確認されてない量も含めた石油の全埋蔵量を知る必要があります。この全埋蔵量を究極埋蔵量と言います。究極埋蔵量を年間の石油採掘量で割れば、石油があと何年でなくなるかわかるはずです。
しかし、究極埋蔵量については確実な数字はありません。このような地形があれば、石油が見つかる確率が何%で、そのような地形が世界中に何か所あるから、それを掛け合わせて…というような方法で究極埋蔵量が推算されています。
しかし、いずれも仮定に仮定を重ねた推算にすぎません。どのような仮定を置くかによって究極埋蔵量は全然違った数字になってしまいます。
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まずはシミュレーション↓
6.シェールガス革命で石油の枯渇を心配する必要はなくなった
今のところ、新しい油田が毎年見つかって、可採年数はどんどん増えていますが、新しい油田が見つからなくなって、ついには可採年数も減り始め、やがては可採年数がゼロになって石油が枯渇するという学説もありました。
オイルピーク説といいます。可採年数がこれ以上増えない境界をオイルピークといい、それがいつ来るかについて、さまざまな学説が提出されました。
オイルピークに達するのは1985年頃だとか、2000年頃だとか、オイルピークはもう過ぎているだとか。しかし、どの学説も当たりませんでした。実際、可採年数は増え続けているというのが現状なのです。
ところが、最近になってアメリカでシェールガスの採掘方法が確立するという大事件が起きました。シェールガスというのは地中にあるシェール層という地層に含まれる天然ガスのことです。
このようなガスがあることは以前からわかっていたのですが、それを採掘する方法がなかったのです。それがアメリカのベンチャー企業の発明によって可能になりました。
そしてシェールガスに伴って、シェールオイルという石油も採掘されるようになったのです。その結果、アメリカの石油の埋蔵量は増大し、それまで石油を輸入している国だったのに石油を輸出する国に転じました。
さらに、シェールガスが採掘可能になったことで、アメリカは産業そのものが大きく変わり始めていて、シェールガス革命とも言われています。
実は、このシェールガスとシェールオイルの埋蔵量は半端ではなく、世界中を探せばほぼ無尽蔵といっていいくらいの量があるといわれています。
ということで、もう今では石油が枯渇するという心配する専門家はほとんどだれもいなくなってしまった、というのが現状なのです。
少なくとも、あなたも私も、生きている間に石油が枯渇する日を見ることはできないでしょう。残念ながら。
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本当に
j様
記事を読んでいただいてありがとうございます。
興味深く拝読いたしました。ありがとうございます。
シェールガス革命で石油がなくなるという事態は回避できそうなのですが、
採掘しづらいため、今後採算が合わなくなってしまうという予測もあります。
この点について見解を披露いただけないでしょうか。
勝手ながらいくつかソースのURLを貼らせていただきます。
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/feature/15/082400125/022100010/?P=1
https://www.esd21.jp/news/8725df0b93ed9a00c1e5b09b4a4bddd7b9b76137.pdf
https://note.com/shinshinohara/n/na9a37cb5c9e7
通りすがりの者さん、コメントありがとうございます。また、興味深い資料ありがとうございます。
石油の持つエネルギーだけでなく、採掘にかかったエネルギーを考慮しなければいけない。つまりEROIという考え方には賛同いたします。EROIが低下しつつあるというのもそのとおりだと思います。
中田氏が指摘しているように、IEAは石油に限らず石炭、天然ガスのような化石燃料全体が今後10年以内に生産量ピークに達し、減少に転じると予想してます。しかしこれは、EROIが低下してきたからでも、資源がなくなってきたからでもありません。原因は化石燃料の需要が減っているからで、この点を中田氏は石油が取れなくなった、EROIが低下したのが原因だと誤解しているように思えます。
需要が減った理由は再生可能エネルギーの価格が飛躍的に低下していることで、これにロシアのウクライナ侵攻と石油価格の高騰が拍車をかけています。中田氏は再生可能エネルギーで石油を代替することは不可能と言い切っていますが、ここ数年、事情は大きく変わっており、再生可能エネルギーが世界の主力エネルギーになって行くでしょう。
石油はオイルシェールも含めて資源量がなくなってしまうからではなく、安価な再生可能エネルギーの出現によって生産量が減少していき、ここ30年くらいで石油の時代は終わることになると思います。