ハノイの道路はバイクの川  @ハノイ・ベトナム

なんともすさまじい。バイクの数である。

写真を見てほしい。大通りはまるでバイクの川である。バイクが水のように流れ、その中に自動車やバスが、洪水で押し流された流木のように混じる。しかも信号機がないので切れ目がない。横断歩道などもちろんない。歩行者はどうやって道路を渡れというのだろうか。

ハノイの幹線道路

ハノイに着いて三日目。午前中で一応仕事が終わり、午後から暇ができたので博士をホテルに残して、ひとりで市内観光に出ることにした。見るべきところは昨夜、カウンターパートのTさんに教えてもらって地図に印をつけている。

ハノイはそれほど大きな街ではないから、地図をたよりに歩いて観光できると思って外に出たらバイクの川に遭遇したわけである。これでは道も渡れないじゃないか。

しかし、地元の人は案外、軽々と道を渡っているのである。天秤棒を担いで、三角形の菅笠をかぶったおばちゃんが、50mほども幅のある道路を渡り始めた時はびっくりした。

彼女はためらうことなく道に入るとバイクの洪水の中をゆっくりと歩き始めた。やがて彼女はバイクの群れに隠れて菅笠しか見えなくなったが、バイクにぶつかるでもなく、転倒するでもなく、着実に一歩一歩、前に進んでいくのである。バイクも彼女をまるで無視するかのように平然と流れていく。いったいどうしたことだ。

やがて、彼女は道の反対側まで行き着くと、また平然と歩道を歩いていくのである。おばちゃんが道を渡っている、ただそれだけなのだが、ちゃんと渡りきるまで目が離せなかった。サーカスの綱渡りが綱を渡りきるまではらはらしながら見ているようにね。そして、ハノイではこの綱渡りが日常茶飯に見られるのだ。

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ハノイの道の渡り方

私も思い切って道を渡ってみることにした。最初はそれほど広くない道を、できるだけバイクの流れが減ったころを見計らってエイヤッと渡ってみたのだ。するとなんとか渡れた。そして次の道に挑戦。そして成功。そして次の道も…。だんだんバイクの多い道にも挑戦。そして渡りきった。またやったぜ。待てよ。ただ道を渡るだけで満足感していてどうする。文字どおり道は長いのだ。

やがて道渡りのコツがわかってきた。バイクの川では、バイクの方が歩行者を避けてくれるのだ。だから一定の速度でゆっくりと歩く。そうすればバイクは歩行者を避けやすい。歩く速度を変えたり、方向を変えたりしてはいけない。立ち止まってもいけない。途中で引返すなどもってのほかである。でも最初はこれが難しい。バイクが近付いてくると、つい避けようとしたり、走って渡ろうしたりしてしまう。これがいけない。

バイクは必ず避けてくれることを疑ってはいけないのである。信頼すること。コンフィデンスである。「セリヌンティウスは、かれの命を救うために走ってきたメロスに言う『メロス、私を殴れ。… 私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。』」(太宰治作「走れメロス」より)と。まあ、このくらいの信頼が必要なのである。

ハノイの旧市街

Tさんが地図に印をつけてくれたところは3か所。文廟、ホーチミン廟、旧市街である。次の写真は旧市街である。

旧市街地もバイクの群れ

旧市街は1000年ほど前からある市街地だそうだが、現在でも活気にあふれている。古い商店がぎっしりと並んでいて、道が迷路のように走っている。そして、どの道もこのようにバイクで埋め尽くされているのだ。ただ観光で訪れるなら、一度見れば十分かもしれないが、生のハノイ市民の生活を垣間見ることができて、私はなかなか面白いと思う。ただし、バイクには気をつけて。

こんなところまでバイクが入ってくる

この写真は、衣類ばかりを売っている商店街である。こんなに狭いところにもベトナムの人たちはバイクで入り込む。バイクに乗ったまま商品を手にとって品定めをして、バイクに乗ったまま買っていく。ここまで行くと、もう人とバイクが合体して一体化しているのではないかと思ってしまう。人馬一体という言葉があるが、ベトナムの場合は人バイク一体である。

帰りはさすがに疲れたのでタクシーを使った。ちょうど夕方のラッシュ時にひっかかって、道路はバイクの洪水状態となってしまった。交差点に差し掛かると、これは大変。右から左から、前から後ろから次々にバイクや車が入り込み、混雑の極みとなる。

交差点の中では車と車の間隔が30cm位までぎゅうぎゅう詰め状態になってひやひやするのだが、さらにその30cmの隙間をバイクが水のようにすり抜けていくのである。タクシーの運ちゃんもこの間を巧みにかき分けていく。よく事故が起こらないものだと感心するが、そこは互いに信頼しあっているのだろう。コンフィデンスである。

通常なら30分くらいの距離を1時間近くかかって、ようやくホテルに帰りついた。そうしたら、タクシーの運転手が要求した料金はメーターよりもずいぶん高い。おやと思ったが、あれだけの運転技術を見せてもらったのだ。文句を言わずにチップと思って支払うことにしたよう。といっても日本円にして数百円だけどね。

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