12.博士は美食家である @ダナン→ホーチミン・ベトナム

ダナンで昼食

翌日の朝、私たちはクワンガイを出発して、またタクシーでダナンに戻ってきた。タクシーの運転手が命知らずのチキンレーサーだったおかげで、予定よりずいぶん早くダナンについた。飛行機の出発まで、まだ2時間ほど時間があるというので、博士が海岸近くの食堂で昼食を食べていこうと提案した。

ダナンは近頃観光に力を入れているので、現在ではホテルや小じゃれたレストランが立ち並んでいるが、私たちが訪れたときは、まだそれほどでもなかった。私たち入った食堂は博士がクワンガイのホテルの女主人に紹介してもらった真新しい食堂である。

ダナンのリゾートホテル(ここに宿泊したわけではない)

そこで、私たちはヤキソバと魚料理を注文した。私はヤキソバだけで十分だったのだが、博士は海が近いので魚がおいしいはずだと言って、メニューの中でもかなり高価な部類に入る魚料理を注文された。ちなみにメニューにはベトナム語のほかに英語が書かれており、さすがに国際観光都市を目指す町だと感心したのを覚えている。

ヤキソバはすぐに出てきて、これはおいしい。ビールによくあう。しかし問題はそこからだった。魚料理がなかなかでてこないのだ。店員たちは4、5人もいるのだが(客は私たちだけ)、みんなテレビをみたり新聞を読んだりして、すっかりくつろいでいらっしゃる。こちらは飛行機の時間があるので、あせりながら待っているのだが、なかなか魚料理がでてこない。

店員にメニューをさして、手振り身振りで「まだ魚料理が出ないのだが」と催促すると、店員のひとりが、わかった、わかった(また「わかった、わかった」だ)と頷いて厨房に入っていく。しかし、魚料理は出てこない。また催促する。またわかった、わかったと厨房に入っていく。そんなことが何回か繰り返されて、いよいよ飛行機の時間が迫ってきた。

しようがない、魚料理は諦めよう。と博士と相談。魚料理はキャンセルと手でバツ印を作って、お金を支払おうとすると、料金表にはしっかり魚料理代が入っているではないか。食べてないものは支払う必要がない。と博士が怒りだした。すると店の主人が出て来て、もう魚は料理を始めているから、食べなくても料金は払ってくれという。

いや払えない、いや払ってもらうと口論になった。こうなると、こちらは飛行機の時間が迫っているので不利である。結局、魚料理の料金を少しばかりディスカウントしてもらって、支払うことになった。

支払いを終わって店を出ようとすると、店の主人が生の魚を持って走ってきた。せっかく料金を払ったのだから、魚は持って行けという。体長30cmほどもある、ブリのような魚で、新鮮で、うまそうではある。もう料理したから料金を払えと言っていたような気もするが、主人が持ってきた魚はまだ生である。ということはさておいて、まさか生の魚を持って飛行機に乗るわけにもいかないだろうし、料理する場所もないので、この申し出は丁重にお断りした。

ちなみに、以上の交渉もしくは会話についてはすべて、博士は英語、店側はベトナム語で行われ、共通言語として手振り身振りが使われたことを付記しておく。

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ホーチミンで夕食

その後、わたしたちはなんとか飛行機に間に合って、ホーチミンに着いた。ホーチミンで仕事をすますと、博士がソフトシェルクラブを食べに行こうと言い出した。ホーチミンの名物だそうだ。

ソフトシェルクラブというのはご存じだろうか。脱皮したばかりの蟹のことで、まだ甲羅が柔らかい。甲羅が柔らかいのでそのままバリバリと食べられる。いちいち身だけを取り出す手間がはぶけるから、わたしのような不器用かつ無精者には最適な蟹料理である。

博士に連れられてこられたのはレックスホテルという有名なホテルのレストランである。ここで早速、ソフトシェルクラブを注文したところ、「申し訳ございません。本日は入荷しておりません」と断られてしまった。そうだろうなと思う。そんなに脱皮したばかりの蟹が都合よく網にかかるとは思えない。

といってももう夕食時間なので、私たちはメニューにあるものの中から食事を取ることにしたが、さすがにレックスホテルのレストランである。料理はおいしい。ところが食事が進むうちに注文していないフライドチキンが運ばれてきた。どうも注文したフライドライスの「ライス」の部分をボーイさんが「チキン」と間違えたようだ。

ボーイさんを呼んで、フライドライスだフライドチキンじゃないよ、ライスだライス、フライドライスと言ったら、ボーイさん、にこにこしながら、わかった、わかったと頷く。(いやな予感がよぎった)

やがて運ばれてきたのは、フライドライス(やきめし)ではなくてスチームドライス(ご飯)だった。きっと間違うと思ったが、そうきたか。もう指摘するのも面倒くさいので、博士と一緒にスチームドライスにニョムマム(ベトナムの醤油)を振りかけて食べたら、結構おいしかった。コメは日本米より少しだけぱさぱさした感じだが、それを除けば日本米とそれほど変わらない。と思う。

ちなみに、レックスホテルはフランス植民地時代から続く高級ホテルで、ベトナム戦争の期間は海外の記者たちが宿泊したと聞いている。ベトナム戦争終結時に記者会見が開かれたという由緒あるホテルでもある。博士はそんなベトナムの歴史についても私に見せたかったのだろう。

帰りに、博士はレストランの主人にソフトシェルクラブを予約していた。明日来るから、用意しておいてくれと。う~んそんなにソフトシェルクラブを食べたいのか。博士はやはり美食家である。

2019年11月9日

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ホーチミンで戦争ついて考えた @ホーチミン・ベトナム

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