水素は海水から取り出せば無尽蔵のエネルギー源になる?

(注記)この記事は水素の化学エネルギーの利用について述べています。水素の核融合については考慮しておりません。

1.水素は究極のエネルギー源?

水素社会を構築していかなければならないとか、水素は海水から取り出すことができるのだから無尽蔵のエネルギー源になるなどと言われています。

例えば資源エネルギー庁のホームページでも、「水素エネルギーは何がどのようにすごいのか」なんてタイトルで水素エネルギーがどんだけ~すごいのかが紹介されています。

水素なら、燃やしても水(水蒸気)になるだけでCO2はもちろん、大気汚染物質も放射能も出てこない。しかも水素はさまざまな資源から作ることができる。石油のように海外から輸入するわけではないので、国の安全保障にも役立つ。これから水素社会を実現しなければならない云々。

特に「水素は日本にとって究極のエネルギー源となる可能性があります。」と書いてある所は、さすがにホンマかいな?言い過ぎだろうと思ってしまいます。

これとは別に、一部の大学の先生が、「水素は水から作ることができる。だから海水から作れば無尽蔵のエネルギー源だ」などとおっしゃっていますが、本当でしょうか。

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水素は海水から取り出すことができるので無尽蔵のエネルギー源になる?

2.水素はそもそもエネルギー源ではない

結論から言います。水素はそもそもエネルギー源ではありません。だから「水素は海水か取り出せば無尽蔵のエネルギー源になる」というのはウソです。

なぜなら水から水素を作り出すために消費されるエネルギーは、できた水素から得られるエネルギーよりも必ず大きくなるからです。例えば、使ったお金より稼いだお金の方が少なくなって赤字になるようなものなのです。

「水素は海水から取り出せば無尽蔵」までは本当。でも「エネルギー源になる」というところが残念ながらウソなのです。

ちなみに、水から水素を取り出して走り続ける車を発明したなどと主張する人がいますが、これが事実なら永久機関を発明したということで、あり得ない話です。

※アメリカ海軍が海水から水素を取り出して燃料を製造し、艦船を航行させる技術を開発したかのような報道が行われていますが、この報道には間違いがあります。この報道については別途、議論することにしたいと思います。

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3.水素社会のきっかけは燃料電池から

水素社会という話が出てきたそのいきさつを先生と学生の会話という形で見てみましょう。

学生「先生。最近水素社会という言葉がずいぶんと出てくるんですが」

先生「水素はかなり昔から研究されてきたんだよ。1973年に石油ショックがあっただろう。あのとき石油はあと30年しか持たないなどと言われて、石油に替わるエネルギー源はないかということで、ずいぶん研究されてきたんだ。だけど、そのときは、なかなか実用化しなかったんだよ」

学生「どうして、実用化されなかったんですか」

先生「そのころの水素の使い方としては、石油の代わりにタービンエンジンで燃やしたり、燃料電池で発電するときに使ったりしていたんだ。
特に燃料電池は有望でね。ほら、月に行ったあのアポロ宇宙船にも燃料電池が積み込まれて宇宙船内に電気を供給していたんだ。
ただ、そのころの燃料電池は数百℃から1000℃以上の温度が必要だったので取扱いが難しくてね。なかなか一般には普及しなかったんだ」

学生「1000℃なら、普通の材料なら溶けてしまいますよね。そりゃたいへんだ」

先生「ところがね、1990年あたりでカナダのバラードという会社が固体高分子燃料電池の開発に成功して、作動温度が一気に100℃以下まで下がったんだよ。それで、燃料電池の実用化が進んだんだ。いまでは一般家庭にも給湯器として普及しているよ」

学生「ああ、エネファームというやつですね。僕の実家にも付いていますよ。電気もできる給湯器ですね」

エネファームの価格・台数の推移(資源エネルギー庁HPより)

先生「そうそう。それにね、燃料電池が家庭でも取り扱えるのなら、自動車にも載せられるぞということで、燃料電池自動車が開発されたんだ。燃料電池を使って水素から電気を作り、モーターで走る自動車だよ。まだ一般には普及してなくて、実証実験の段階だけどね」

学生「つまり、燃料電池を使えば水素から簡単に電気が作れるんですね。」

先生「そういうこと。ということで最近、水素が一躍脚光を浴びているわけだよ」

学生「水素ってすごいですね。簡単に電気が作れて、しかも原料は水だから無尽蔵にある。まさに人類は無限のエネルギー源を手に入れようとしているんですね」

先生「ちょっと待って。今の水素は実は水からはあまり作られていないんだよ。実は水素の多くは石油から作られているんだ。」

学生「え~!どうしてなんですか。石油から作るんなら、無限のエネルギー源じゃないということじゃないですか。どうして水から作らないのですか」

先生「水から作ろうとすると、大量の電気が必要となる。電気分解というやつだ。君も学校で習っただろう。電気を使って水を水素と酸素に分ける方法だ。その電気はどうやって作る?石炭や天然ガス、石油などを燃やして作るか、原子力だよ」

学生「ということは、水から水素を作ろうとすれば、電気が必要になって、その電気は化石燃料を燃やすか、原子力に頼るしかないということですか」

先生「そのとおりだよ。水から水素を得るためには、ほかのエネルギー源に頼るしかないんだ」

学生「そんな~!それじゃ意味ないじゃないですか。エネルギーを使わずに水から水素を作る、なんかうまい方法はないんですか」

先生「ないな」

4.永久機関のわな

結局、水(海水)から水素を作ろうとすると、電気が必要となり、その電気は化石燃料を燃やすか原子力などに頼るしかないというのが現状なのです。(ただし再生可能エネルギーを使って水素を作る方法が検討されています。第5章参照)

では、ほかのエネルギー源に頼らずに水から水素を取り出す方法はないのでしょうか。あるいは、電気分解の効率を良くしてほんの少しの電気で大量の水素を作り出すということは可能なのでしょうか。

いいえ。それはできません。

例えば、発電機で電気を起こし、その電力でモーターを回し、そのモーターで発電機を回し、また、その電力でモーターを回し・・・と続けたら、モーターはずっと回り続けるでしょうか。

このシステムが永久に動き続けることはない

いいえそれは不可能です。例えば1kWの電力でモーターを回し、そのモーターで発電機を回して発生する電気はやはり最大1kWであって、それを超えることができません。

つまり、発生する電気と消費する電気は必ず同じなのです。これをエネルギー保存の法則(または熱力学第一法則)といいます。

さらに、発生した1kWの電気は電線を流れるときに抵抗を受けて熱に代わって逃げてしまいますから、モーターに達したときの電気は1kWより小さくなります。

これを繰り返すと、電気はどんどん小さくなって、やがてゼロになって、モーターは止まってしまいます。エネルギーは、その総量は変わらなくても、だんだん質の悪いエネルギーになっていくという性質があります(熱力学第二法則)。

だから、発電機で電気を起こし、その電気でモーターを回し、そのモーターで発電機を回して、というシステムは継続することができません。この例は典型的な永久機関の問題です。

水素エネルギーもこれと同じです。1kwhの電力を使って取り出した水素をすべて使って、燃料電池で電力を発生させたとしても、発生する電力は必ず1kWhより小さくなってしまいます。使った電力よりも得られる電力は必ず小さくなるのです。

このシステムで電気が流れ続けることはない

最初の命題「水素は海水から取り出せば無尽蔵のエネルギー源になる?」に戻れば、確かに水素は海水から無尽蔵に取り出すことはできますが、その水素から得られるエネルギーは水素を取り出すときに使ったエネルギーよりも必ず小さくなってしまいます。

つまり得られるエネルギーより使ってしまったエネルギーの方が大きいので、水素はエネルギー源ではないということなのです。

この関係は、どんな方法をつかっても、設備をどんなに改良しても同じことです。例えば電気分解ではなくて、熱分解によって水素を作ることもできますが、このとき熱分解のために消費される熱は、取り出した水素を燃焼させて得られる熱よりも必ず大きくなってしまい、外部にエネルギーを取り出すことはできません。

なぜなら、それができれば永久機関ができたということになってしまうからです。

 

 

5.水素は再生可能エネルギーの貯蔵や輸送に使える

では水素社会というのは全く意味がないのでしょうか。いやいや水素も使いようによっては使える可能性があるのです。それは、エネルギーの貯蔵や輸送に使えということです。

電気というのは基本的に貯蔵ができません。蓄電池を使ったり、揚水型発電所を使ったりして若干の電気を貯めることができますが、コストや能力の点でいろいろと問題があります。
電気を貯める方法は蓄電池だけじゃない 蓄電ビジネスは成立するか  参照)

それで発電所では電気の需要が減ると火力発電所の発電量を減らし、需要が増えると発電量を増やすという作業を常に繰り返しています。

ところが、太陽光や風力のような再生可能エネルギーは気まぐれで、需要とは関係なく発電量が勝手に増えたり減ったりします。そうすると、発電所での発電量の調整範囲を超えてしまうということが起きてきます。

そこで、電気が余った時には、水を電気分解して水素として貯めておき、電気が足りなくなったら燃料電池で水素から電気を作るというシステムが考えられます。
また、電気を運ぶには送電線が必要になりますので、送電線のないところへ電気を運ぶことはできません。そこで、電力が豊富なところで水を電気分解して水素を作り、圧縮水素にしてボンベに詰めて需要の多い場所に運ぶということが考えられます。

例えば、カナダや北欧のような水力発電で安い電力を作れるところで水素を作り、需要の多い大都市に運んで、電気に変えて供給するということもできるかもしれません。

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水素はエネルギー源ではありませんが、エネルギーを使って製造し、またエネルギーに変えることができます。(二次エネルギーとも言います)この性質をうまく使えば、水素社会も有意義かもしれません。

ただし、水素はエネルギーを貯蔵したり運んだりするだけで、一部の学者先生が主張しているように、それ自体がエネルギー源ではありません。究極のエネルギー源でもありません。

また、エネルギーの輸送なら、そのまま送電線で送る方が効率的ですし、貯蔵するなら蓄電池でもよい訳ですし、ケミカルハイドライドやアンモニアを使うという方法も提案されています。水素は適材適所で使っていくという話になると思います。

2019年6月26日

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水素は海水から取り出せば無尽蔵のエネルギー源になる?」への8件のフィードバック

  1. 匿名

    核融合ができるようになれば、水素は無尽蔵のエネルギー源になりますよ。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      記事を読んでくれてありがとうございます。確かにそのとおりです。
      記事に、その点を追記しておくことにします。

      ただ、この記事は現在の核融合ではない水素社会に対する過剰な期待に対して、もう少し事実を知ってほしい、水素は無限のエネルギーを得るものではなく、他のエネルギー源の形を変えたものに過ぎないと伝えたいという意図で書いたものです。

      早く核融合が実現するといいですね。

      返信
  2. 匿名

    特段変わったことを主張されている訳ではないなとは思いましたが、なるほど、世の中にはそんなことを言われる学者様も存在しているのですね

    ただ少々気になった点がありまして、そこだけ書き込ませて頂きます

    >石油のように海外から輸入するわけではないので、国の安全保障にも役立つ
     (これは元サイトでは主張されていない内容ではないでしょうか。安全保障に役立つのは輸入先の多角化では?)
    >「海外の未利用エネルギーや豊富な再生可能エネルギー(再エネ)など、安価な資源から水素をつくり、代替エネルギーとして利用することができれば、エネルギーコストを抑制しつつ、エネルギーおよびエネルギー調達先の多角化につなげることができます」

    >水素なら、燃やしても水(水蒸気)になるだけでCO2はもちろん、大気汚染物質も放射能も出てこない。
     (これは微妙なラインですが、内燃機関を動力にするよりも(より低炭素化が進んでいる)石炭火力などを利用した水素燃料を利用した方が結果的に大気汚染は少ないのは、と私は考えています)
    「化石燃料から水素をつくる時にはCO2が排出されますが、海外では実用化されているCO2を地中に貯蔵する技術と組み合わせることで、CO2を抑えることができます。」
     (というより、元サイトでの過程や結論まで引用しないと『水素エネルギーを推し進めても結局CO2排出量は変わらない』と勘違いしてしまう人が出てしまうかもしれません)

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      記事を読んでいただき、貴重なご意見もいただきありがとうございます。
      水素は電気と同じ二次エネルギーです。電気が火力や原子力のような他のエネルギー源から作られるのと同じように、水素も海水から取り出そうとすると他のエネルギー源が必要となり、そのエネルギー源を使うときにCO2が発生します。ですから、単純に水素エネルギーを推し進めても結局CO2排出量は変わりません。
      CO2を減らすには、CO2を発生しないエネルギー源を使って水素を作るか、匿名さんがおっしゃるように、CO2を地中に封じ込めるなどの対策をする必要があり、単純に水素を使ったからそれでCO2が減るというものではありません。その辺が誤解されているのではないかというのがこの記事の趣旨です。
      ちなみに、再生可能エネルギーのコストは、いま劇的に低下しつつあります。今世紀半ばには、石炭や天然ガス、原子力を抜いて、日本(あるいは世界)の主要電源は太陽光、風力、バイオマスになるのではないかと思います。
      ただし、太陽光、風力の発電量は気象により変動しますので、これに水素を組み合わせてエネルギーを貯蔵してエネルギーの需給を調整することが行われる可能性があると思います。

      返信
  3. rokuさん

    全くおっしゃる通りです。
    第一次、第二次オイルショックを高校生の頃経験し、石油会社にいた父の影響で、エネルギーに目覚め
    原子力の道に進みました。現在のような脱炭素の意義が違い、脱石油でした。
    したがって石油に代わるエネルギーとして原子力の先にある核融合を目指すために、原子力の世界を
    勉強しようと志しました。高校生の頃です。この頃でさえ、水素からでは無限のエネルギーを取れないことを志す人達には知られていました。やはり重水素、3重水素の核融合しかないのではと思い、
    そのためには原子力研究をしていきたいと思ったものです。現在原子力研究は岐路に立っています。(エネルギーでなく放射線害、再利用プルトニウムによる核の恐怖にすり替わり)世界では先を見据え、武器と核融合の研究に余念がありません。核融合は諸刃の剣であることを理解した上で原子力行政をどうするのか検討しなければ、日本は将来エネルギーで行き詰ります。その上で水素の活用を考えなければと思います。昨今のマスコミ(日経新聞や雑誌で)やれ脱炭素、無限のエネルギーの水素
    と間違った表現が多いです。貴殿のようにわかりやすく多くの人に伝える義務がマスコミや政府には
    あると思っています。3.11以来原子力に携わる方々の理解を得られない辛い日々が惨めすぎます。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      rokuさん。私の記事を読んでいただきありがとうございます。
      私がオイルショックを経験したときは大学生でした。rokuさんより少し年上ですね。私もエネルギーに関心を持ち、修士論文は石炭液化でした。石炭液化は当時は花形でしたが、なかなか実用化せず、原子力こそ次世代のエネルギー源だと思うようになりました。しかし福島原発の事故で原子力は批判され、今度は水素が持ち上げられています。マスコミでは水素を「夢の燃料」とまで言っていますが、私が石炭液化を選択したときも、原子力が普及していったときもやはり彼らは「夢のエネルギー」と言ったと思います。
      「夢の…」などと浮ついた議論ではなく、もっと現実を整理し、良いところ悪いところを隠さずに表に出し、国民にちゃんとそれを説明しながら次のエネルギー源をどうするかを議論すべきだと思います。
      現在、石炭液化の技術はCCUという形で実用化しようという動きがあります(これも問題ありますが…)。もちろん原子力技術も絶対に無駄にはならないと思います。ただし、それを実用化するときには、負の部分もきちんと説明すること。ごまかさないこと。それが科学や技術を学んだものの責務だと思います。

      返信
    1. takarabe 投稿作成者

      肉さん
      記事を読んでいただいてありがとうございます。水素は作るときにエネルギーを消費するので、無限のエネルギー源ではありません。にもかかわらず、おっしゃるようにまるで水素はCO2を出さないクリーンなエネルギー源であるかのようなフィクションを主張する人たちがいます。騙されないでくださいねという意味でこの記事を書きました。
      ただし、この記事の最後の章に書いているように、水素はエネルギーの貯蔵や輸送には役に立ちます。今後は水素がいろいろな場面で使われるようになると思いますが、それ自体が無限のエネルギー源ではないことを世の中の人には理解していただきたいと思います。

      返信

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