2.3 マーガリンの作り方はプラスチックと同じ?

マーガリンは1.1章で述べたように、油脂と水と乳化剤を混合して作ります。

一方、プラスチックはその種類によって作り方が違っていますが、一般的にはモノマーと呼ばれる分子を何千個、何万個の単位でつなぎ合わせて作ります。これを重合反応と言います。

図-13 重合反応

つまりマーガリンは単に材料を混合しているのに対して、プラスチックは重合という化学反応で作られるのです。マーガリンとプラスチックの作り方のどこが同じなのか理解に苦しみます。

ちなみにネット上では

「マーガリンは植物油と水をトランス脂肪酸という乳化剤で混ぜ合わせて固まらせた化学合成物質です。」

などと書かれている例がありました。確かにマーガリンは植物油と水と乳化剤を混ぜ合わせて作られますが、これは単に混ぜ合わせただけであって、化学合成とは言いません。そもそもトランス脂肪酸は乳化剤じゃないし。

ただ、すでに述べたように、食用精製加工油脂を作るために水素化という化学反応が用いられます。また、この水素化によって、意図したわけではありませんが、副産物としてトランス脂肪酸というものができてきます。このトランス脂肪酸ができる反応は異性化といいます。

図-14 水素化反応
図―15 異性化反応

この水素化や異性化は確かに化学反応ですが、図―14や図―15に示すように、プラスチックを作るときに行われる重合反応とは全く違ったものです。

確かに、食用精製加工油脂を作るときに水素化とか異性化とか聞きなれない言葉が出てくるので気味悪く感じるかもしれませんが、プラスチックと同じ作り方をしているとは言えません。

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2.4 製造業者がマーガリンを作ることをプラスチック化と言っている

アメリカのフレッド・ローという人が、サンフランシスコの彼の店(自然食品を売る店だそうです)の常連である食品工業の技術者から「水素添加した脂肪分子はプラスチックそっくりだ!」、脂肪専門の化学者たちは水素添加を「オイルをプラスチック化すると言う!」と、聞かされたそうです。

そのことからローさんは、マーガリンが食べられるプラスチックだと主張しています。しかし、この話は単にローさんが誰かから聞きかじったという知識に過ぎません。

例えば、全米マーガリン製造者組合連合会(という組織があるかどうかは知りませんが)が「マーガリンを作ることをプラスチック化と呼ぶことにしよう」と決めたとか、誰かが学会でマーガリンを作ることはプラスチック化だと発表したとか、専門書にそう書いてあるとか、そういうことではありません。

本来、プラスチックというのは可塑性があるという意味です。可塑性というのは物質が外部の力を受けて変形する性質を言います。私たちが日常使っているプラスチック製品は加熱すると柔らかくなって、いろいろな形に成型することができますので、プラスチックという名前が付いたわけです。

ですから、マーガリンの製造工程で液体の油脂が半固形になって粘土のような可塑性を持つようになる。これを製造技術者がプラスチック化と言ったとしても不思議ではありませんね。ただし、これは石油や天然ガスから作られる、私たちがよく知っているプラスチック製品とは別の話です。

そもそも、この話はマーガリンの製造技術者の誰かがローさんにそう言ったということだけであって、単にローさんの聞きかじりにすぎません。これだけの情報では、「ああそうですか、そんな言い方もする人もいるんですね」としか言いようがありません。あまり真剣に議論するような話ではないと思います。

2.5 マーガリンは腐敗しないし蟻もたからないからプラスチックだ

これもフレッド・ローさんが主張していることですが、ローさんがマーガリンを2年間も外に出して置いたところ、まったく腐敗しなかった。また、バターとマーガリンを庭先に置いていたところ、バターには蟻がたかったが、マーガリンにはまったく蟻が寄ってこなかったのだそうです。

このことからフレッド・ローさんは、マーガリンは食べ物じゃない。あるいは食べられるプラスチックだと主張しているわけです。

しかしながら、マーガリンが腐敗しなかったことについては、何の不思議もありません。マーガリンの原料は油脂です。油脂は腐敗しないのです。だからマーガリンは腐敗しない。プラスチックだから腐敗しなかったというわけではありません。

ウィキペディアには腐敗について、次のように記述されています。
「食品における腐敗とは、細菌類の作用によってタンパク質が分解し、人体に有害な物質が発生することをいう。」
つまり、腐敗とは細菌の働きによってタンパク質が分解する現象で、タンパク質を含まない食品は腐敗しないということです。

例えばてんぷら油や砂糖は特に冷蔵庫に入れて保管しなくても腐敗しませんよね。てんぷら油は油脂、砂糖は炭水化物で、タンパク質ではないので腐敗しないのです。マーガリンも油脂だから腐敗しないというわけです。(油脂も長期間放置しておくと変質しますが、これは酸化や分解が進んだもので、腐敗したというわけではありません。)

では、マーガリンには蟻がたからないと言う話はどうでしょうか。なかには蟻ではなくゴキブリがたからないと主張する記事もウェブ上にはあります。

以下の写真はフレッド・ローさんがやったといわれる実験結果です。バターとマーガリンを戸外に放置したところ、バターには蟻がたかっているけれど、マーガリンにはまったく蟻がたからなかったそうです。この写真は衝撃的ですね。これは大変だ、マーガリンは虫も食わないと多くの人が思いました。

図―16 フレッド・ローさんの実験
http://holisticfaith.com/healthy-living/are-ants-smarter-than-humans/ より

でもこんな写真もあります。これは日本のブロガーけねすさんが行った実験。ローさんと同じようにマーガリンとバターを外に出しておいたところ、マーガリンには蟻がたかるがバターにはほとんどたかっていないという逆の結果だったそうです。

図―17 けねすさんの実験
http://kenneath.blog.fc2.com/blog-entry-2.html より

フレッド・ローさんの実験は、たまたまそうなったというだけで、蟻は気まぐれにバターにたかったり、マーガリンにたかったりするようです。ゴキブリがたからないという記事を書いた人は、おそらくこの実験を見て、蟻とゴキブリが混同してしまったのでしょう。

とにかく、この実験ではマーガリンがプラスチックだという証拠にはなりそうもないですよね。

3.まとめ

3.1 フードファティズム

以上のように、マーガリンは食べられるプラスチックだという主張に対して、その論拠をいちいち否定してきたわけですが、少しでも化学の知識のある人なら、特にこんな議論をしなくても、マーガリンとプラスチックが同じだなんてありえないと思うでしょう。

私と同じ技術士の人や化学者からは「おいおい、当たり前のことをそんなにムキになって反論することもないだろう」と言われそうです。その程度の話です。にもかかわらず、マーガリンが食べられるプラスチックだなどという疑似科学が広まってしまったのはどうしてでしょうか。

これもウィキペディアによると 「食べものや栄養が健康と病気に与える影響を、熱狂的、あるいは過大に信じること、科学が立証したことに関係なく食べものや栄養が与える影響を過大に評価すること」をフードファディズムというそうです。

マーガリンは食べられるプラスチックだ、食べたらとんでもないことになるぞという過剰な反応が広まったのは、フードファディズムの典型的な例ではないでしょうか。

誰かがマーガリンを作ることをプラスチック化ということを聞いたとか、マーガリンに蟻がたからないとか、外においても腐れないとか、そんな不確かな情報がもとになって、顕微鏡で見たらそっくりだったとか、化学構造がプラスチックと同じだとか、作り方がプラスチックと同じだとか、単なる想像や憶測で、まったく根も葉もない話を平気でウェブ上で書く人がいたりして、尾ひれがついていったのではないでしょうか。



3.2 トランス脂肪酸問題との混同

もうひとつの問題はトランス脂肪酸との関係です。確かにトランス脂肪酸は人体に有害なので、問題なのですが、それとマーガリンがプラスチックだという話とは関係がありません。

にもかかわらず、トランス脂肪酸の問題と食べられるプラスチックという話が混同されているというか、むりやりこじつけられてしまったようです。

例えば、トランス脂肪酸の化学構造がプラスチックと同じだとか、植物油をプラスチックのように固まらせるためにトランス脂肪酸が添加されているとか、(プラスチックのように)安定化させるためにトランス脂肪酸が加えられている(だから蟻がたからない)とか、さまざまな間違った話がネット上に見られます。

また、トランス脂肪酸自体についてもいろいろと事実とは異なる情報が流れています。例えば、

  • トランス脂肪酸はマーガリンに安定した構造を持たせるため添加されており、だから腐敗しない
  • 逆にトランス脂肪酸は分解されやすく有害な物質を作りやすい
  • トランス脂肪酸を作るときに栄養が変質されているため栄養価が低くなる
  • デンマークではトランス脂肪酸を含む食品の販売を禁止している(実際には上限値を決めただけ)
  • トランス脂肪酸を摂取するとガンになる(LDLコレステロールを増加させ、冠動脈性心疾患(CHD)リスクを増加させるが、がんとの直接的な関連は確認されていない)

等々、事実に基づかない話がネット上では見られます。

3.3 ではどうすればいいのか

ここまで読んでいいただいてありがとうございます。では私たちはどうすればいいのでようか。

実は、私はマーガリンを食べません。

おいおい、マーガリンはプラスチックじゃないと言ったじゃないかという声が聞こえそうです。

私がマーガリンを食べないのは、マーガリンがプラスチックだからというのが理由ではなく、トランス脂肪酸がいやなのです。トランス脂肪酸はプラスチックとは別の問題として、LDLコレステロールを増加させるとされているからです。

じゃあバターを使っているのかと言われれば、バターも使いません。バターには飽和脂肪酸が多く含まれているからです。
(ちなみにトーストにはジャムやハチミツを塗って食べています。ジャムはときどき自分で作っていますが、簡単ですよ。)

つまり、マーガリンが食べられるプラスチックだとか、狂った油だとか、非科学的なドギツイ表現を恐れて忌避するのではなく、ちゃんと科学的な事実に基づいて判断すべきだということです。

最後に、マーガリンにはトランス脂肪酸の問題がありますが、1.4章で述べたようにトランス脂肪酸は水素化工程の副産物として意図せずにできたもので、トランス脂肪酸をわざわざ添加したとか、トランス脂肪酸がなければマーガリンが作れないとかいうものではありません。

だから、水素化の反応条件を工夫したり、あるいはもともと二重結合の少ない油脂を使ったりして、将来はトランス脂肪酸をほとんど含まないマーガリンができるでしょう。そうなれば、私もマーガリンに復帰したいと思っています。

(2020年2月22日)

この記事を書いた後で、水素添加油無添加でトランス脂肪酸を大幅に減らしたマーガリンが販売されていることを知りました。その例を参考までに下に掲げておきます。(なお、トランス脂肪酸の量については製品に表示の義務がないので、メーカー公表値を記載しています。)

【雪印ネオソフト べに花】トランス脂肪酸 0.03g、飽和脂肪酸 0.5g、コレステロール 0㎎(いずれも10gあたりの含有量)、水素添加油脂 無添加

 

【雪印ネオソフトハーフ】トランス脂肪酸 0.06g、飽和脂肪酸 0.5g、コレステロール 0㎎(いずれも10gあたりの含有量)、水素添加油脂 無添加

 

【小岩井 醗酵バター入り】トランス脂肪酸 0.027g、飽和脂肪酸 2.46g、コレステロール 1.2㎎(いずれも10gあたりの含有量)、水素添加油脂無添加

小岩井マーガリン 醗酵バター入り

(2020年6月16日)

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