電気自動車(EV)界のゲームチェンジャー全固体電池とは何か 5分で解説

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今年(2023年)10月、トヨタ自動車と出光興産は、全固体電池の量産化に向けて協業すると発表した。その発表によれば、両社が開発する全固体電池は2027年~2028年に電気自動車(EV)に搭載して実用化。その後の量産を目指すという。

全固体電池は実用化されれば充電時間10分以下で航続距離が1000㎞以上のEVが可能となる。これはほぼガソリン車並みの利便性を確保できることとなり、EVの普及が一気に加速されることになる。まさにゲームチェンジャーともいえる画期的な蓄電池だ。

では、全固体電池とはどういうものか、その開発状況、今後の実現可能性等について簡単にまとめてみた。

EVを普及させるには蓄電池の高性能化が必要

現在、気候変動対策として世界中で脱炭素が進められている。日本および欧米各国は2050年までにCO2をはじめとする温室効果ガス排出量を全体としてゼロにする。いわゆるカーボンニュートラルを達成すると宣言している。

この目標を達成するために、発電分野においては、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入が進められているわけであるが、自動車のような輸送機関が相変わらずガソリンや軽油を燃料としていては、カーボンニュートラルは達成できない。そこで、自動車についても脱炭素化が求められ、その最右翼としてEVの普及が期待されているわけである。

ところが現在のEVは充電時間が長いことや走行距離が短いという大きな問題を抱えている。充電時間については通常電源なら数時間、高速充電器でも30分から1時間ほどかかるし、一回充電して走る距離は200㎞から500㎞ほどに留まる。これに対して、ガソリン車なら、燃料を充填するのに数分間。満タンにすれば1000㎞以上走ることができる。

このガソリンエンジンとの明らかな違いはEVに搭載される蓄電池が、ガソリンに比べて非力であることに原因がある。現在、最も性能の良いリチウムイオン蓄電池でも蓄えられる電力は200Wh/kg(0.72MJ/kg)程度。これは、同じ重さのガソリン(発熱量44MJ/kg)と比較して約60分の1でしかない。今後、EVを普及させるためには、蓄電池を高性能化することが必須の条件なのである。

電池の構造は200年間変わってない

電池の構造は非常に簡単である。電解質と呼ばれる電気を通す液体に固体の正極と負極を浸し、正極と負極を導線でつなぐと電流が流れる。これが電池である。実際には電解質を入れる容器が必要で、さらに正極と負極が接触しないようにセパレーターという物を入れたりするが、基本的には電解質、正極、負極という3つの要素から電池はできている。

電池は正極、負極、電解質という3つの要素からなる

例えば、電解質として希硫酸を用い、これに正極として銅板、負極として亜鉛板を浸して導線で結べば、それだけで電池となる。この電池はボルタ電池といい1800年に発明されたが、それ以来200年以上、正極、負極、電解質という基本構造は実は全く変わっていないのだ。

なお、電池には使い捨ての一次電池と、何度も放電と充電を繰り返すことができる二次電池もしくは蓄電池と呼ばれる電池があるが、正極、負極、電解質というこの三要素からできていることに変わりない。今までの電池の改良、開発はどのような材料を、この三要素として使うかに集中してきたと言っていいだろう。

全固体電池とは固体の電解質を使う電池である

現在、EVに最もよく使われている蓄電池はリチウムイオン電池(以下LIBと称する)である。この電池は正極にリチウムとコバルトの酸化物、負極にグラファイトという炭素からできた物質。電解質として炭酸エチレンのような電導性のある液体の有機物が使われる。

放電時は負極から正極に向かってリチウムイオンが流れ、充電時は逆に正極から負極に向かってリチウムイオンが流れる。リチウムイオンが移動することによって充電と放電ができるので、リチウムイオン蓄電池といわれるわけである。LIBは従来使われてきた蓄電池に比べて、電圧やエネルギー密度が高く、充放電に伴う劣化が少なくて長寿命であるという優れた特徴がある。

では、全固体電池とは何か。基本的にはLIBの三要素のうち、電解質として液体ではなくてイオン電導性のある固体を採用したものである。違いはそれだけなのだが、しかし電解質を固体にした結果、以下に述べるような様々なメリットが生まれてくるのである。

全固体電池の構造(トヨタ・出光共同記者会見資料より)


安全性が増す
まず、現在のLIBは電解質として可燃性の有機物を使っているため電解質が漏洩すると火災が起こる可能性がある。しかもLIBは電圧が高いため火花着火しやすい。LIBが出始めのころによく火災事故が起こったのはこのためである。しかし、電解質が固体であれば、液漏れ自体が起こらない。

・幅広い温度で使用できる
従来の液体電解質は、気温が低くなると粘度が高くなり、温度が高くなると蒸発してしまう。このため、使用可能温度が限定される。例えば冬場はEVの性能が落ちてしまう。しかし、電解質を固体にすれば、このような現象は起こらない。

急速充電ができる
固体電解質ではリチウムイオンの量が増し、またイオンの移動が容易になる。これによって、急速充電が可能となる。また、従来の蓄電池では急速充電すると温度が上がって、電解質が蒸発するという問題が起こるが、固体電解質では高温でも使用することが可能である。

寿命が長い
蓄電池劣化の原因はいろいろあるが、その主なものは充放電を繰り返すことによって電解質が分解してしまうことである。電解質が分解するとガスが発生して蓄電池自体が膨らんでしまい危険でもある。固体電解質ではリチウムイオンだけが移動するため、電解質を分解させる反応が起こりにくく、寿命も長くなる。

高蓄電量・高電圧・高出力化
固体電解質の中ではリチウムイオンが動きやすく、イオンの量も増えるため蓄電容量が大きくなる。また、電池の電圧は正極と負極の組み合わせによって決まる。例えば負極をグラファイトではなく金属リチウムを使えば高い電圧が得られるが、液体の電解質では高電圧に耐えられない。固体電解質であれば、高電圧を実現できる。電圧が高くなれば電流も大きくなりEVの加速性能も改善する。

全固体電池の問題点と実現可能性

こんないいことずくめの全固体電池がなぜ今まで実用化されなかったのか。まず固体電解質として優れた性質を持つ材料がなかなか見つからなかったことである。現在は硫化物系、酸化物系およびポリマー系の材料が固体電解質として検討されている。今回、トヨタと協業を発表した出光が開発したのは硫化物系のもので、他のものより実用化が早いと言われている。

つぎに固体電解質に共通しているが、割れや剥がれの問題がある。正極、負極、電解質の三要素がすべて固体となってしまうので(だから全固体電池というわけであるが)、固体電解質の膨張や収縮によって電極と電解質の間の接合が剥がれたり、電解質内に割れやヒビが入ったりする。これについては、トヨタ・出光では柔らかい材質の固体電解質を開発したことによって対応可能としている。

もうひとつ硫化物系電解質の場合、水に触れると有害な硫化水素ガスを発生するという問題がある。これについて、トヨタ・出光の記者会見でも具体的に明らかにはされなかったが、いろいろ対策は考えられているようである。多分、このあたりが全固体電池実用化のノウハウになるのだろう。

全固体電池は、このような問題を抱えているが、今回のトヨタ出光の発表では、実証ベースでは実用化の目途が立ったとしている。今後は、まず全固体電池を搭載したEVを世に出すことが第一ステップ。つぎに量産化とコストダウンに注力するというスケジュールである。

これから日本や世界各国では2050年のカーボンニュートラル目標に向けて、様々な技術が開発されていくだろう。再生可能エネルギーがこれから主電源化される中で、出力が安定しない太陽光や風力のような電力を余剰時には貯めておき、不足時に放出するというシステムが必要となる。電力をどう貯蔵するかが、脱炭素社会実現のためのカギとなる技術となる。全固体電池はEVだけでなくエネルギーを蓄えるための有力な技術のひとつとしても期待されている。

2024年6月9日

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