製油所がどんどん閉鎖されている 最後まで残る製油所はどこか予想してみた

閉鎖されていく製油所

製油所とは、いうまでもなく原油を精製してガソリンや軽油などの石油製品にする工場のことである。わが国には最盛期には全国で50か所近くの製油所があったのだが、その数はどんどん減ってきて、現在では20か所を割るまでになっている。今後、わが国の製油所はどこまで減るのか、そして最後まで残る製油所はどこか。について予想してみたい。

日本で最初の製油所は意外に古く、1888年(明治21年)に新潟県三島郡尼瀬村に建設されている。その後、第二次大戦までの間に国内にいくつかの製油所が建設されていったが、今から考えれば非常に小さな規模のものであった。

近代的な大型製油所が建設され始めたのは戦後の高度成長期である。わが国は原油を輸入して、それを国内で精製して消費される分を製造する、いわゆる消費地精製主義を取ったため、石油製品そのものの輸入は制限された。

そのため、国内で必要とされる石油製品を供給するための製油所が各地に建設されていき、最盛期の1980年初頭には全国の製油所の数は50か所近くまで増えて行ったのである。

しかし、その後製油所の数は減り続け、現在、製油所の数は19か所。近くは昨年10月にはENEOS和歌山製油所が閉鎖され、今年3月には出光興産の子会社である西部石油の山口製油所が閉鎖されている。

そのほかにも最近になってから閉鎖された製油所はコスモ石油坂出製油所、 ENEOS室蘭製油所、出光興産徳山製油所など。また閉鎖ではないが、ENEOS根岸製油所のように生産能力を大幅に縮小した製油所もある。

今後も製油所の閉鎖は続く

なぜ製油所は閉鎖されていくのだろうか。かつては、経済成長に伴って製油所も巨大化、複雑化していくなかで、規模が小さく、かつクリームスキミングと呼ばれる単純に原油を蒸留するだけの製油所は経済性を失い、その結果として閉鎖されることが多かった。

しかし、最近の製油所閉鎖の原因は石油製品の需要が減少していることが理由である。乗用車などの燃料として使われるガソリンについては車の燃費向上や若者の自動車離れなどの影響で需要が減少し、家庭や事業所の暖房に使われる灯油や重油はエアコンの普及などによって、これも需要の減少が続いている。

資源エネルギー庁石油製品需要想定検討会の見通しによると、これから2027年にかけて、石油製品のうち、軽油とナフサの需要はほぼ横ばいであるものの、ガソリン、灯油、重油の需要は年率2~4%の割合で減少していくと予想されている。

さらに、これに追い打ちをかけるのが、脱炭素の流れである。わが国は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言しているが、これを達成するには燃料としての石油消費はほぼゼロにしなければならない。その結果、石油製品需要は今後も減り続け、製油所の閉鎖も続いていくことになるだろう。

では、今後、どの製油所が閉鎖されていくのだろうか。わが国の製油所の立地をみると北は北海道から南は九州まで全国に配置されている。これは石油製品が大量に消費されかつ単価の安い製品であることから、輸送コストの割合が大きい。このため、できるだけ輸送コストを下げようと、分散して配置されたものである。

地方に配置された製油所はその地域では相対的に大きな産業であるため、その地域における経済について大きな比重を占めている。したがって、製油所が閉鎖されればその地域の経済や雇用に大きな影響を与えることになる。

昨年10月、和歌山製油所が閉鎖されると発表されたとき、和歌山県知事が「(製油所の閉鎖は)地域に死ねというのと同じ」と発言して、東京のENEOS本社まで抗議に駆け付けたというのは有名な話である。

しかしながら、長期的に考えれば製油所の数は、今後も減っていくことになる。次はどの製油所が閉鎖はされるのか。恐らく、石油会社は既に様々な検討を行っているだろう。

ただ、石油製品は運送コストの割合が大きな製品であるから、できるだけ分散していた方がいい。したがって、地方にポツンとある製油所より、製油所が多数立地している関東や大阪湾沿岸、瀬戸内の製油所が優先して閉鎖されていくのではないだろうか。

といっても、閉鎖が早い、遅いの違いはあるものの、 今後2年に1か所程度の割合で閉鎖されていくことになるだろう。

製油所はどこまで減るのか

では、製油所の数はどこまで減るのだろうか。2050年のカーボンニュートラル目標を達成するには化石燃料は使用することができない。つまり石油は燃料として使うなということであるから、では製油所の数はゼロまで減ってしまうのかというと、そうはならない。それは、石油の用途は燃料だけではないからである。

ご存じのとおり、プラスチックや合成繊維、合成ゴムなど様々な石油化学製品が石油から作られている。また潤滑油やアスファルトも燃やすものではないが石油製品だ。精製過程で副生される硫黄も現在は余り気味だが、これもなくなっては困る物資である。石油が燃料として使われなくなっても、これらの用途には石油は必要である。

したがって、燃料としての石油の需要は将来、ほとんどゼロとなるものの、燃料としては使われない用途、主に石油化学品原料としての用途は残る。これからの日本の製油所は石油化学原料を供給することが主な役割となるだろう。つまり、石油化学製品の原料を製造する製油所は生き残るということだ。

石油化学の原料として使われるのは主にナフサという石油製品だが、BTXという石油製品も石油化学の重要な原料となる。2022年の統計では、国内で生産される量はナフサは1,420万㎘、BTXが1,170万㎘であるが、さらにナフサは2,590万㎘が輸入されているから、これらを合計すると、だいたい5,000万㎘ほどが石油化学の原料として使用されている。

現在輸入されているナフサも国内で生産すると考えると、85万BSD程度の製油能力は必要だという計算になる。一方、わが国の製油所の合計原油処理能力は2022年度で、339.5万BSD(約20,000万㎘/年)であるから、国内石油生産量の4分の1程度が残ることになる。

※BSDは1日に処理される原油の量をバレルという単位で示したもの。製油所の規模を示すときに使われる単位

どの製油所が生き残るのか

では、どの製油所が生き残るのだろうか。ここから先は、筆者の勝手な予想であることをご理解いただきたい。

まず、日本の石油会社は概ねENEOS、出光及びコスモの3グループに集約されている。そのため、少なくとも各グループについて1か所以上の製油所が残ると想定する。

そのほか、製油所が生き残るための条件としては以下が考えられる。

  • 石油化学原料が主力になるため石油化学コンビナートに付属した製油所であること
  • ある程度規模の大きな製油所であること
  • さらに潤滑油やアスファルトの製造設備を持っていることが望ましい

そういう条件で絞ると、候補として残るのは次の製油所である。

ENEOSグループ:
水島製油所(35万BSD)、川崎製油所(24.7万BSD)、鹿島製油所(20.3万BSD)

出光興産グループ:
昭和四日市製油所(25.5万BSD)、千葉事業所(19万BSD)

コスモ石油グループ:
千葉製油所(17.7万BSD)

これらの製油所の原油処理能力を合計すると142.2万BSDとなって、予想の85万BSDを超えるから、 ENEOSおよび出光の製油所のうち、それぞれ1から2か所ずつは、このリストから外れる可能性がある。

ただし、この計算は現在日本に輸入されている大量のナフサを国内で生産するという前提であるから、ナフサの輸入が継続されるなら、生き残る製油所の数はもっと少なくなる。

生き残った製油所も変革が必要

この記事では、石油化学原料の生産に特化した製油所が生き残ると考えている。ただ、現在、原油から製造されている製品は石油化学原料だけでなく、ガソリンや灯油、ジェット燃料、軽油、重油などがある。そのうち石油化学原料だけを出荷したとして、残りはどうするのかという問題があるだろう。

その解答は、輸入した原油のすべてを石油化学の原料にすることである。このような操作はCrude to Chemicalsと呼ばれ、実は世界中で研究されている技術である。では具体的にどうやるのだろうか。

まず、製油所の製品のうち、ガソリンと灯油についてはナフサと同様に石油化学工場に送って、ほぼそのまま石油化学原料として使うことができる。しかし、問題は軽油や重油といわれる重質留分であるが、この留分はそのままでは石油化学原料としては使うことができない。

この重質留分は現在でも余剰気味であるため、分解装置によって分解してガソリンとして使われている。この分解によって生成する分解ガソリンもナフサとして石油化学原料とすることができるだろう。さらに強度な分解を行えば、プロピレンのような石油化学原料を重質留分から直接製造することも可能であり、実際に行っている製油所もある。

ただし、原油のすべてを石油化学原料として使おうとすれば分解装置の増強が必要となるだろう。また、重油抽出装置やコーカーと呼ばれる装置の組み合わせが考えられる。将来も残ると考えられる製油所はこのような石油化学原料製造に特化した設備の建設が必要となってくる。

原油を使わない製油所へ

この記事では、石油化学製品は燃料ではないから、カーボンニュートラル規制に抵触しないと仮定している。しかし、石油を原料として作られるペットボトルやタイヤ、衣服などの汎用品は、使い終われば回収されて、最終的には焼却処分されるわけであるが、このときCO2が発生することになる。

それを防ぐには回収されたプラスチック製品などは燃やさず、リサイクルするかあるいは、石油を使わずにプラスチック類を作るということになる。プラスチックをリサイクルする場合にも製油所の設備が活用できるだろう。石油ではなくバイオマスを原料としたプラスチックも実用化されているが、これも製油所の設備を使って生産しようという計画もある。

冒頭で、製油所とは原油を精製して石油製品を作る工場だと述べたが、将来的には原油を使わずに、石油化学原料を作る工場になっていくかもしれない。そのときはもう製油所という言葉自体がなくなってしまうだろう。

2024年5月26日

【関連記事】
原油を精製してどうしても余ってしまうものは何か 意外な余りものが今、注目されている
原油から作られる石油製品の割合は決まっている? 連産品という誤解
今、石油の時代が終わろうとしている IEAの最新報告書より
みんな知らないガソリンの作り方 重油からガソリンを作るFCC装置の話
石油最大手ENEOSの歴史は合併の歴史 電力業界、ガス業界のとの統合はあるか
2035年ガソリン車販売禁止 余ったガソリンはどうなる
バイオプラスチックの原料バイオナフサとは 農業で作られるプラスチック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。