IPCC報告書には何が書かれているのか  内容をできるだけわかりやすくしてみた(2)

B.将来ありうる気候

シナリオ分析
A章では地球温暖化の現状とその原因について述べられている。B章では、この地球温暖化がこれ以上進むと、地球の気候がどのように変化していくのかについて記述されている。
もちろん、将来の気候は大気中にGHGがどれだけ増えていくかによって違ってくる。AR6(WG1)の報告書ではGHG排出量のよって5つのシナリオを想定し、世界気候研究計画(WCRP)のCMIP6といわれる気候モデルを用いて、将来の気候をシミュレートした結果が記載されている。

表―1 気候モデルのシナリオ

この5つのシナリオでは、CO2排出量は以下のグラフのように推移すると想定されている。(メタンや一酸化二窒素、二酸化硫黄についても検討されているが、ここでは省略)

図―5 各シナリオにおけるCO2の排出量推移予測

人間が排出するCO2については、図―5に示すように、2015年現在で年間40Gtが排出されているが、GHG排出量が非常に少ないシナリオで2055年頃にゼロ。少ないシナリオで2075年頃ゼロとなる。中程度のシナリオではCO2排出量はこれから若干増えるが、2055年ころから減少に転じる。多いシナリオでは、CO2排出量はこれからも増え続け、2090年頃に2015年の倍となる。非常に多いシナリオでは2050年頃に倍、2075年頃には3倍となる。

シナリオ分析の結果
この5つのシナリオを使ったシミュレーションの結果は以下のとおりとなる。

・地球平均気温の上昇
各シナリオにもとづく地球の平均気温についてのシミュレーション結果が表―2に示されている。

表―2 シナリオ分析による将来の地球平均気温の上昇(1850~1900年の平均気温との比較)

※シミュレーションでは、将来の気温については幅を持って示されている。ここに掲げた温度はその幅の中で最も可能性が高い値を示している。

19世紀後半(1850~1900年)の平均気温と比べた将来の気温は、どのシナリオでも短期的(2021~2040年)には1.5℃程度上昇する。その後2050年頃には、GHG排出量が非常に少ないシナリオで1.6℃、中程度のシナリオで2.0℃、非常に多いシナリオでは2.4℃上昇する。

さらに、今世紀末(2081~2100年)になると、GHG排出量が非常に少ないシナリオでは気温上昇はむしろ1.4℃まで緩和されるが、中程度では2.7℃、非常に多いシナリオでは4.4℃上昇する。

この気温の変化は、地球全体で均一ではない。海洋に比べると陸地の方が1.4~1.7倍温暖化しやすい。また、北極と南極は熱帯地域よりも早く温暖化する。特に北極の温暖化速度は地球平均の2倍以上ある。

図―6 地域による気温の変化

・気象異常の予想 
地球温暖化が進行するにつれて、異常な気象が増えていくと予想される。例えば、地球温暖化が0.5℃進行するごとに、極端な高温(熱波)、大雨、一部地域における干ばつの強度と頻度が明らかに増加する。

どのシナリオでも、2040年頃までに1.5℃の地球温暖化が起こると予想されているが、この程度の温暖化であっても、観測史上過去に例のない水準で異常気象が発生すると予想されている。大雨は地球温暖化が1℃進行するごとに約7%強まると予測されており、豪雨は多くの地域でより強く、より頻繁に発生するようになる。非常に強い熱帯低気圧(台風)の発生数とピーク時の風速も増加する。

降水量への影響は、地球全体で一定ではなく、高緯度帯と太平洋赤道域、モンスーン地域の一部では増加するが、亜熱帯の一部と熱帯の一部地域では逆に減少する。雪の多い地域では、春の融雪の開始がより早くなるが、これによって雪解けによる川の流量のピークが早まり、夏季から春季に移行する。

エルニーニョや南方振動による降雨の変動が21世紀後半までに増幅する。モンスーンに伴う降水量は、中期から長期にかけて、特に南アジアと東南アジア、東アジアとサヘル極西部から離れた西アフリカにおいて増加すると予測される。

・氷河・氷床、海氷の予想
地球温暖化が進むにつれて、永久凍土が融け、陸地の積雪面積も季節によって消失し、北極の氷の消失面積も更に拡大する。特に北極では、2050 年までにまったく氷のない状態が出現する。

山岳地帯や極域の氷河は、今後数十年または数百年にわたって融解し続ける。永久凍土が融けると、永久凍土に含まれる炭素が放出される。これは今後数百年に渡って継続する。また、グリーンランド及び南極の氷床は21世紀を通して減少し続けると予想される。

・CO2蓄積量
人間活動によって排出されたCO2は全てが空気中に留まっているわけではなく、一部が陸地と海洋の両方に吸収されている。しかしながら、CO2の排出量が増加するのに伴って、陸地と海洋に吸収される割合は減って行き、結果として、排出されたCO2が大気中に残留する割合が高くなる。

・海水への影響
21 世紀の残りの期間中の海水温は、最もGHG排出量の少ないシナリオで、1971~2018年の変化に比べて2~4倍、最も排出量が多いシナリオでは4~8倍となる。この海水温の上昇に伴って、海の深層部分が酸性化し、貧酸素化する。この変化はこれから数百年から数千年の間、元には戻らない。

・海面水位の予想
地球温暖化に伴って発生する様々な現象のうち、特に懸念されるもののひとつが海面水位の上昇である。シミュレーションの結果、世界の平均海面水位は21世紀の間、上昇し続けることがほぼ確実である。2100 年における世界平均海面水位の上昇は、1995~2014 年の平均と比べて以下のとおりである。

GHG排出量が
 非常に少ないシナリオ  0.28~0.55 m
 少ないシナリオ      0.32~0.62 m
 中程度のシナリオ     0.44~0.76 m
 非常に多いシナリオ    0.63~1.01 m

なお、GHG排出量が非常に多いシナリオでは、上記のように海面水位が最大で1m程度上昇すると予想されているが、氷床が予想を超えて融解する可能性もありうる。この場合、確信度は低いが海面上昇は2100 年までに2m、2150 年までに5mに達する可能性も否定できない。

この海面水位は、海洋深部の温暖化と氷床の融解が長期に渡って続くため、数百年から数千年にわたり上昇し続け、その後、数千年に渡って水位の上昇した状態が継続する。

図―7 世界平均海面水位の変化

C. リスク評価と地域適応のための気候情報

C章では、地球温暖化に伴って、人間生活にどのようなリスクを及ぼすかについて記述されている。

・人間活動以外の気候変動要因
地球の気象については、人間活動によるものだけでなく、それ以外の要因によっても変化する。これには外部要因と内部要因がある。

外部要因は気候システムの外部からの変動要因であり、太陽活動や火山噴火などが含まれる。一方、内部要因は気候システム自体による変動であり、偏西風の蛇行や台風などの気象擾乱、エルニーニョ・南方振動(ENSO)、太平洋十年規模振動(PDO)、大西洋数十年規模振動(AMO)などがある。

例えば、1998~2012年の5年間には、太陽活動と火山活動による外部要因と十年規模の内部変動によって、温暖化の進行が一時期緩和される傾向があった。しかしながら、この期間中にも地球上の蓄熱は継続し、世界全体の海洋の温暖化と陸域における極端な高温気象の増加が起こっている。

過去の経験に基づくと、21 世紀中に少なくとも1 回の大規模な火山噴火が発生する可能性があり、このような噴火は一時的かつ部分的に人為的な気候変動を緩和する可能性がある。

このような外部からの変動要因と内部変動は、短期的に比較的狭い範囲で人間活動による気候変動と異なる変動を起こす。しかし、このような外部、内部要因は百年単位で見た場合、地球温暖化にはほとんど影響しない。しかしながら、今後の気候変動に対処する計画を立てる場合には、これらの変調も考慮することが必要となる。

・地球温暖化によって発生する現象
地球温暖化によって、様々な気象の変化が起こると考えられる。その変化する気象現象が図―8にまとまられている。これは様々な気象現象について、増加する地域の数と減少する地域の数をしめしたものである。

例えば、極端な高温や海面上昇が増加する地域は非常に多く、寒波や霜の害を受ける地域の数については、逆に少なくなる。

図―8 温暖化の影響によって気象現象が変化する地域の数

また、AR6 WG1の報告書には、地球温暖化に伴って発生する様々な現象が記載されているが、そのうち発生する可能性が高いとされる現象を以下にピックアップした。

  • 全ての地域において、高温による影響(CIDs)が増加し、低温による影響が減少する
  • 永久凍土、雪、氷河及び氷床、湖水、並びに北極域の海氷が更に減少する
  • 1.5℃の地球温暖化では、アフリカとアジア、北米及び欧州のほとんどの地域で、大雨及びそれに関連して洪水の強度が増し、より頻繁になる
  • 2℃以上の地球温暖化では1.5℃の場合と比べて、干ばつと大雨及び平均降水量が変化し、その規模も大きくなる。特に太平洋諸島や北米及び欧州の多くの地域で大雨や洪水が激しくかつ、より頻繁になる
  • 北極及び南極、欧州北部及び北米北部の全ての地域、アジアのほとんどの地域並びに南米の2つの地域において、平均降水量が増加する
  • 地域によって、熱帯低気圧(台風)の強度や温帯低気圧の強度が高まり、洪水が増加する
  • 地域によっては平均降水量が減少して乾燥し、火災の発生しやすい気象条件となる
  • 海面水位は21世紀を通して上昇が続く
  • 百年に1 度の頻度で発生していた規模の高潮が、2100年までに全潮位計設置場所の半数以上で少なくとも1年に1 回発生する
  • 海面水位の上昇によって、沿岸部の洪水の頻度が増え、深刻度が増大し、砂浜海岸のほとんどで海岸侵食が進む
  • 都市では局所的な温暖化が強まり、熱波の深刻度が更に増大する
  • 沿岸部では、海面水位の上昇と高潮および大雨や河川流量増加の組み合わせにより、洪水が発生する確率が高まる
  • より地球温暖化が進行すると、熱波と干ばつの同時発生がより頻発に発生する。

D. 将来の気候変動の抑制

A~C章にわたって地球温暖化の現状と、今後起こりうるシナリオ、そしてその結果生じる様々なリスクについて述べられてきた。D章では、そのリスクを避けるために必要な対策について提言されている。

第5次IPCC報告書(AR5)では、人為的に排出されたCO2の累積量と、それによって引き起こす地球温暖化との間には、ほぼ直線の関係があることが示されていたが、この報告書(AR6)でもそれが再確認されており、CO2 排出量が累積1000 Gt増えるごとに、世界平均気温は0.27~0.63℃上昇するとしている。

このような人間活動による気温上昇を安定させるためには、人為的なCO2 排出量を正味ゼロ(人為的なCO2排出量と人為的なCO2除去量が同じになること)にする必要があり、累積CO2 排出量をそれに応じたカーボンバジェット(温暖化を特定の気温水準以下に抑えるために排出できるCO2の残りの量)の範囲内に抑えることが必要となる。

図―9 CO2排出量の累積値と地球表面温度の関係

世界全体でCO2 の排出量が正味マイナスとなり、それが持続した場合、CO2 による世界平均気温の上昇は徐々に下降に向かう。しかし、その他の気候変動は数十年から数千年の間、現在の方向性を継続すると予想される。例えばCO2 排出量が大幅に正味マイナスとなった場合でも、世界平均海面水位が下降に転じるには数世紀から数千年かかる。

人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには、CO2 の累積排出量を制限し、少なくともCO2正味ゼロ排出を達成し、他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある。

2020年3月22日

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