ENEOSが2027年に新ハイオクガソリンの販売を計画 ガソリンなのに脱炭素?

ENEOSが新しいハイオクガソリンの発売を計画していることが明らかになった。藤猛社長が業界誌(石油産業誌7月号)のインタビューで述べている。齊藤社長によると新ハイオクの販売開始は2027年だが、早まる可能性もあるという。

それはどのようなハイオクガソリンになるのだろうか。まだスペックは完全には固まっていないだろうが、どんなものになるのか予想してみた。

ハイオクガソリンとは

ガソリンにはハイオクとレギュラーがあることはご存知だろう。通常の車はレギュラーでいいが、高性能車は使用燃料としてハイオクを指定している場合がある。メルセデスやBMWなどの欧州車はほとんどハイオク指定だ。

ハイオクとレギュラーはどう違うかというと、主にオクタン価と清浄剤の有無だ。オクタン価が高いほどエンジンの圧縮比という数値を高くすることができるのでエンジンの性能が向上する。また、清浄剤はエンジンバルブの汚れを着きにくくするので、エンジン性能を維持する働きをする。

ENEOSは従来「ヴィーゴ」という商品名でハイオクガソリンを販売しており、オクタン価は100以上、清浄剤入りであった。しかし、2018年に販売を終了し、現在は特に商品名を付けずにハイオクガソリンとして販売している。ただ、その性能は恐らくヴィーゴとほとんど変わらないだろう。

では、今度の新ハイオクはどうなるのか。これについてもオクタン価は100以上、清浄剤入りということは変わらないだろう。変える必要がないからだ。では新ハイオクは今までのハイオクとどこが違うのか。
簡単に言えば、脱炭素を目指したハイオクガソリンということである。

新ハイオクは脱炭素を目指す

近年、地球温暖化とそれに伴う気候変動の深刻度が増してる。熱波や干ばつ、極端な降雨や降雪、高潮、乾燥と強風、それに伴う大規模な山火事など深刻な異常気象が世界各地で頻発している。

この地球温暖化の原因となっているのが、言うまでもなく空気中のCO2濃度の増加だ。そこで、二酸化炭素CO2を排出しない、つまり脱炭素が求められているわけである。

では自動車でCO2を排出しないためにはどうすればいいのか。これは電気で走る電気自動車や燃料電池車ということになるだろう。今のようにガソリンを燃料とする限りはCO2は必ず排出されてしまうことになる。

しかし、ENEOSの新ハイオクはガソリンでありながら、空気中のCO2濃度を増加させないことを目指している。なぜそんなことができるのか。答えは合成燃料とバイオ燃料だ。

製油所内では原油を精製して、様々な種類のガソリン基材が作られている。そして最終的にはそのガソリン基材をブレンドして、自動車燃料として適切な性状を持ったガソリンに仕上げて出荷される。

ブレンドするガソリン基材の数は少ない製油所で4種類くらい、多い製油所では7~8種類に及ぶ。新ハイオクガソリンはこれら石油系のガソリン基材に追加する形で合成燃料やバイオ燃料をブレンドしていこうというのである。この方法であれば、現在のガソリン製造プロセスに大きな変更をする必要はない。

合成燃料はe-fuelとも言われるが、CO2と水素から作られた燃料である。合成燃料も使えばCO2を発生するが、そもそも原料としてCO2を使っているのだから、生産時のCO2使用量と使用時のCO2発生量が打ち消し合ってチャラ。空気中のCO2濃度は増加しないことになる。

バイオ燃料もその原料となるトウモロコシやサトウキビが成長する過程で空気中からCO2を吸収しているので、それを燃やしても発生するCO2は吸収されたCO2と同じになって新たな排出量はゼロということになる。

つまり、合成燃料やバイオ燃料をガソリンにブレンドして使えば、その分だけCO2が発生しなかったのと同じことになるという理屈である。

合成燃料(e-fuel)

合成燃料というのは、石油以外の物から作られた燃料で、石炭や天然ガスを原料としたものも含まれるが。ここで使われるのは既に述べたようにCO2と水素を原料として作られた燃料である。

CO2は空気に含まれているからこれを回収して使う。水素は水を電気分解して作ることができる。つまり空気と水から作られた燃料だ。ただし、水素を作るときに大量の電力を消費する。この電力は太陽光や風力から得られる再生可能電力でなければならない。

次にCO2と水素から合成燃料を作る方法であるが、これにはFT(フィッシャー・トロプシュ)法とMtG(メタノール・トウ・ガソリン)法がある。FT法はガソリンだけでなく、軽油やジェット燃料も作ることができるという利点があるが、ガソリンについてはオクタン価が低い。MtG法はガソリンしか作れないが、オクタン価は高い。

ENEOSは従来からFT法による合成燃料の開発を行っているから、ENEOSが持つどこかの製油所に自社のFTプラントを建設して合成燃料を作る。あるいはMtG法は既に海外でプラントが稼働しているから、これを輸入して使うという方法もあるだろう。

バイオ燃料

バイオ燃料にはバイオエタノールとバイオディーゼルがあるが、新ハイオクに使うのはトウモロコシやサトウキビを原料として発酵法で作られたバイオエタノールである。実は以前からENEOSはバイオエタノールをブラジルやアメリカから輸入してガソリンにブレンドしてきた。

ただし、ENEOSはバイエタノールをETBEという物質に転換してからガソリンにブレンドしてきた。なぜそんな手間をかけるかというと、その方が従来のガソリン基材と同じ使い方ができるからである。

しかしながら、ETBEは石油とバイオのハイブリッド燃料だから、脱炭素の効果も半分だけということになる。今回の新ハイオクはETBE形式を継続するのか、それともバイオエタノールを直接ブレンドすることになるのかは、まだわからない。

バイオエタノールはオクタン価が高いという長所がある反面、直接ブレンドすると揮発性が高くなって大気汚染の原因になる恐れがある。また、燃費が悪くなる。アルミやゴム材料を侵食するという問題もある。

新ハイオクの問題点

新ハイオクは従来のガソリン基材に合成燃料とバイオ燃料を合計で10%程度ブレンドして、これに清浄剤を加えた物になるだろう。オクタン価や揮発性などの性状は石油系ガソリン基材の配合によって、ハイオクガソリンの規格に適合するように調整されることになる。

ただ、バイオエタノールを直接ブレンドする場合は、やや燃費が悪くなることは避けられない。また、最近の自動車はバイオエタノールに耐性のある部品を使っているので、アルミやゴム材料への浸食については問題にならないが、年式の古い車は要注意である。

次に問題になるのがコストである。バイオエタノールは米国やブラジルで大量に使われており、1リットル当たりの価格はガソリンよりも安いくらいである。しかし、合成燃料の方は1リットルあたり数百円といわれているから、今後のコストダウンが課題となる。

将来はどうなる

新ハイオクは、当面は合成燃料とバイオ燃料を合わせて10%程度ブレンドされ、かつ地域限定で販売される。しかし、次第にブレンド比率が増やされて行き、さらにはレギュラーガソリンにも配合されるようになるかもしれない。そして、将来的には石油系のガソリン基材を一切使わずに、合成燃料とバイオ燃料だけでガソリンを作ることが目標となるだろう。

ただし、合成燃料を製造するためには大量の電力が必要となる。ならば、電気自動車(EV)でいいじゃないかという話になる。合成燃料やバイオ燃料はEVが苦手とする大型車両や航空機燃料に特化することも考えられる。

あるいは再生可能電力を非常に安価に生産できる国や地域があれば、そこで合成燃料を作ってわが国に輸入するということも考えらえる。今後は、電気自動車の普及状況を見ながら進められることになるだろう。

なお、合成燃料やバイオ燃料のような液体燃料は電気と違って備蓄ができるという大きな利点がある。大災害発生時には停電が起こって何日も復旧しないことも考えられるし、有事の際には送電線に頼らずに自立して活動することが求められる。

すべての車両を電気自動車にするのではなく。緊急車両や防衛設備を始めとして液体燃料が使える車両の2本立てで脱炭素化を進めていく必要があるのではないだろうか。

2023年8月15日

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