ゴミからジェット燃料もできる ランザテックの技術は環境問題の救世主か

映画バックトゥザヒューチャーではデロリアンという自動車型タイムマシンが登場する。最初、デロリアンの燃料はプルトニウムだったが、続編ではドクと一緒に未来に行ったデロリアンはゴミで動くように改造されていた。

「プルトニウムなんか手に入らないよ」と言うマーティを無視して、ドクがバナナの皮や飲みかけのビール、さらには空き缶まで燃料タンクに突っ込むとデロリアンが動き出すのだ。

こんな、SFのような話が実用化しようとしている。
それはランザテックというニュージーランド発(現在の本社はアメリカ)のスタートアップ企業の技術だ。それに三井物産、積水化学、ブリヂストン、ANAなどの日本企業が続々と参画している。

ランザテック社

ランザテック社は2005年にSean Simpson博士とRichard Forster博士によって設立された会社で、設立された場所はニュージーランドであるが、現在は米国、イリノイ州スコーキーに本社がある。

現在の最高経営責任者はJennifer Holmgren博士、従業員数は315名、世界で2つの工場が商業運転中で、7つの工場が建設中という。

ランザテックの技術は、都市ゴミだけに限らない。工場の排気ガス、使用済みのタイヤ、廃プラスチック、廃木材や雑草類までが原料となる。これらも従来はゴミとされてきたものだ。そして、作られるのは自動車燃料として使われるバイオエタノールやジェット機の燃料、さらには合成ゴムや化粧品を入れるプラスチック容器までと幅広い。

さまざまな原料を使い、さまざまな製品ができてくる。まるで千手観音のようにいくつもの手を持つ技術を開発しているのがランザテックなのだ。そんなことがなぜ可能なのだろうか。

ランザテックの技術

では、ランザテックはどうやってゴミを燃料やプラスチックに変えるのだろうか。
基本的に燃料やプラスチックはいずれも炭素と水素からできている。違うのは、炭素と炭素、それに水素のつながり方の違いだけだ。

だから、原料から炭素と水素を取り出して、互いのつながり方を変えてやれば燃料でもプラスチックでも製造することができる。原料として炭素と水素を含むものなら、理屈の上ではほとんどなんでも原料とすることができる。もちろんゴミも炭素と水素を持ったものなら原料とすることができる。

今までガソリンやジェット燃料やプラスチックの原料として石油が使われているのは、それが炭素と水素からできているからだ。また、従来のバイオエタノールにはトウモロコシやサトウキビが使われてきたが、これも炭素と水素からできている。

ゴミや排気ガスにも炭素や水素が含まれている物なら、これから炭素と水素を取り出してそのつながり方を変えてやれば燃料やプラスチックを作ることが可能となる。それをいままでやらなかったのは、経済的にそれをやる技術がなかったからだが、その技術をつかんだのがランザテックというわけである。

ランザテックの核となる技術は微生物である。2005年、ランザテック社の共同創設者であるSean Simpson博士はウサギの腸内からある微生物を分離した。そして、博士はこの微生物が炭素を含むガスで成長し、エタノールを排出することを見出した。

かれは、当時ニュージーランドにあったランザテックの研究所にこの微生物を持ち込み、培養、淘汰を繰り返して、最高レベルのエタノールを生産する株を分離。この微生物がランザテックの技術の基礎となったというわけである。ちなみにこの微生物は遺伝子操作によって作出されたものではなく、自然株である。

従来からバイオエタノールの製造に使われてきたのはお馴染みの酵母菌、あるいはザイモモナスとよばれる微生物だった。この微生物はトウモロコシやサトウキビから得られる糖を食べてエタノールを排出するが、ランザテックが使っている微生物は炭素を含むガスを食べるという違いがある。

ちなみに、ランザテックが使っている微生物は酢酸菌とよばれるものの一種だ。この微生物の起源は酵母よりずっと古い。生まれたのは、まだ地球の大気中に酸素がなかったころの話である。

この微生物は海底から噴出する熱水噴出孔から排出されるガスを食べて成長していた。熱水噴出孔から排出されるガスは一酸化炭素COや水素H2のように、工場排ガスと類似している。だから、この微生物を使ってガスからエタノールを作ることができるというわけである。

製造プロセス

ではどうやってゴミから燃料などを作り出すか。順を追ってみてみたい。まず、原料のゴミは酸素が不足した状態で加熱される。単に空気中でゴミを加熱すれば燃え上がって、二酸化炭素CO2と水蒸気H2Oになってしまう。しかし、酸素不足で加熱すれば、CO2ではなくCOに、H2OではなくH2という具合に、酸素Oが少ないガスができてくる。COは一酸化炭素、H2は水素だ。このCOとH2が混合したガスは合成ガスと呼ばれる。

ランザテックのプロセスフロー

この合成ガスから不純物を取り除いたあと、微生物に食べさせる。実際には水を貯めたタンクの中で微生物を培養しておき、これに合成ガスを吹き込んでやる。そうすると微生物はCOとH2を食べて、エタノールC2H5-OHを排出する。

こうやって排出されたエタノールを濃縮して純度を上げてやると製品のエタノールになる。バイオ(生物)の力でできたエタノールだからバイオエタノールだ。バイオエタノールはそのままでも自動車の燃料となる。

日本ではバイオエタノール燃料は普及していないが、世界的には結構使われている燃料だ。米国ではガソリンのほぼ全量にバイオエタノールが10%混合してある。ブラジルではガソリンに20から30%が混合されているし、バイオエタノール100%を燃料とする車も結構な割合で走っている。欧州やアジアでもかなりの量のバイオエタノールが自動車燃料として使われている。

また、最近話題になっているのが、バイオエタノールからジェット燃料を作るATJという技術だ。脱炭素化の動きを受けて自動車は今後、電気自動車への移行が進んでいくと予想されるが、空を飛ぶ飛行機は電動化が難しい。蓄電池が重すぎるからだ。

そこで航空機の脱炭素化として、石油以外の原料から作られた航空燃料を使うことが考えられている。これをSAF(持続可能航空燃料)というが、ATJもSAFの一種だ。

さらに、エタノールは石油化学の原料ともなる。エタノールからエチレンを作る技術はもうすでに確立している。エチレンはポリエチレンやその他のプラスチック、化学製品の基礎原料となる。ちなみに最近有料化で話題になったレジ袋も原料はエチレンだ。

ということで、ランザテックの技術を使えば、炭素と水素を含むゴミであれば、ほとんどなんでも原料とすることができ、エタノールやジェット燃料あるいはプラスチックなどの各種化学製品など幅広い製品を製造することができるのだ。
(ちなみに、ドクがデロリアンに突っ込んだゴミのうち、ビールの空き缶は炭素を含まないので原料にすることはできない)

日本企業も参入

では、この幅広い技術の集大成をランザテックだけで保有しているのだろうか。答えはノー―だ。とても社員数300名ほどの企業1社でこれだけ広範囲の技術を開発することはできない。

実はランザテックの持つ技術は、合成ガスを微生物によってエタノールに転換する技術の部分だけ。彼らはこの技術を販売して収益を得るのが基本的なビジネスモデルなのだ。原料のゴミをガスにしたり、できあがったバイオエタノールを製品化したりするのは、別の企業が開発することになる。千手観音の観音様の部分がランザテック、千本ある手の部分がその他の企業なのだ。

例えばブリヂストンは廃タイヤをガス化する部分で参画している。積水化学はゴミをガス化し、そのガスを精製する部分を開発。ANAは製造されたSAFを使用する。三井物産はこれらの企業の役割をコーディネートする。

例えば積水化学はゴミをガス化する部分と、そのガスを精製する部分を開発している。都市ゴミを原料とする場合、難しいのはゴミの組成が一定ではないことだ。場合によってはガスをエタノールに転換する微生物に有害な不純物が含まれることがある。そのため、その不純物を特定し、それを効率的に除去する技術が非常に重要なのだ。

あるいは、ゴミがないときはどうするのか。ゴミから作ったガスが微生物の餌なのだからゴミがなければ微生物は死んでしまう。その場合は微生物を冬眠させるという。このように、実際にゴミから燃料やプラスチックを作ろうとすれば、様々な問題に直面することになる。

積水化学は、既に埼玉県のごみ処理施設内にパイロットプラントを建設して実際にゴミからバイオエタノールを安定的に製造することに成功している。そして今後、住友化学が、ゴミから作ったエタノールをプラスチックに転換することで積水化学と協力することで合意している。

サーキュラーエコノミー社会に向けて

今まで、燃料やプラスチックは石油から作られてきた。石油は炭素と水素からできており、炭素と水素の並び方を変えることによって製品にしていた。燃料は燃やされて、CO2と水になる。プラスチック類は使い終わったあと、日本の場合はそのほとんどは回収されるが、最終的にはやはり燃やされてCO2と水になる。

つまりは、石油からCO2への一方向なのだ。しかし、ランザテックの技術を使えば、ゴミとして回収された使用済みプラスチックがガスになり、微生物に食べさせることによってエタノールになり、そのエタノールを使ってまたプラスチックに戻すことができる。

そのプラスチックが使い終われば、また回収されてガス化され、微生物に食べさせてエタノールにして、またプラスチックを作る。そういうことが可能となる。つまり、従来は石油に含まれる炭素Cが最終的にはCO2になる一方向だったのが、炭素がぐるぐる回っていくことになる。

このような炭素の循環はサーキュラーエコノミーと言われる。これはプラスチックだけでなく、生ごみでも廃タイヤでもバイオマスでも可能となる。そうすれば、資源枯渇も、CO2の排出による気候変動問題も、使い捨てプラスチックによる環境汚染も問題も大いに緩和されることになるだろう。

未来社会はこのようなサーキュラーエコノミー社会となっていくのが理想であろう。

2022年10月2日

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