日本は資源の乏しい国
日本は資源の乏しい国である。比較的狭い国土に多くの人口を抱えているから、石油や天然ガスなどのエネルギー資源、食料や様々な鉱物資源の多くを海外に頼っている。資源を買ってきて、加工して海外に売る。そのお金で海外からまた資源を買ってくる。日本はそんなことをずっと続けてきた。しかし、本当に日本は狭くて、資源の乏しい国なのだろうか。
この図はアメリカの再生可能エネルギーのポテンシャルを示したものだ。(再生可能エネルギーを使って作られる水素の量に換算した分布)特にアメリカ中西部に集中しているのが分かるが、これはここに広大な平地が広がっているからだ。太陽光発電も風力発電も平地で人口密度も少ないから大量に設置することができる。平地は農作物も作られるから、この農作物を使ったバイオ燃料も作られる。
一方、日本は平地が少なく、このような自然環境に恵まれていないし、太陽光や風力の可能性のある場所は人口密度も高いから住民の抵抗もある。その点、アメリカがうらやましい限りである。
では、日本は再生可能エネルギーを取り出すことには向いていないのだろうか。いやいやそうではないと筆者は考える。その理由は海である。
日本には海があるじゃないか
言うまでもないが、日本は完全な島国である。ということは周りを海に囲まれている。海岸から12海里(22km)までは領海であるから、これは我が国の主権が及ぶ範囲である。
さらに海岸から200海里(370㎞)の海域については、排他的経済水域を設定することができる。この領域は自国の領土のように他国を排除して経済活動を行うことができる。もちろんこの経済活動にはエネルギー資源の獲得も含まれる。
日本の陸地面積は38万km2で世界第62位に過ぎないが、排他的経済水域を含めると、その面積は陸地面積の約12倍に広がり、これは世界第6位の大国ということになるのである。つまり、排他的経済水域は海に接している国の特権である。これを有効に使わない手はない。
アメリカは中西部に広大な平地を持っていてうらやましいと述べたが、日本にも海という広大な平地が広がっている。海はアメリカ中西部と同様に平地。平地どころか高低差はゼロ、人口密度もゼロである。
この海から、再生可能エネルギーを取り出せないかというのが、この記事の内容である。
洋上風力発電(固定式)
まず、海からエネルギーを取り出す方法の筆頭として、洋上風力発電を挙げたい。つまり海の上に風力発電設備を作ってしまおうということだ。
再生可能エネルギーはCO2や核廃棄物を発生しない、地球に優しいエネルギー源として世界中で開発が進められている。その御三家は太陽光、風力、バイオマスである。我が国では太陽光発電についてはかなりの発電量があるが、風力については海外からみると極端に少ない。
それは、日本が山がちで風力発電に適した土地が少ないということもあるが、景観問題や低周波の問題も大きいであろう。
その点、洋上風力発電であれば、洋上には人が住んでいなからこれらの問題はかなり低減される。もちろん、漁業権や、景観が問題になるかもしれない。しかし、陸上よりもはるかに問題は少ないであろう。
洋上風力発電には固定式と浮体式というのがある。固定式というのは、海の底に基礎を作って、この上に風車を設置しようというもの。ただし、この場合、水深が60mくらいまでで、それより深いと風車は設置できない。
日本は遠浅の海が少ないので風力発電には向いていないという意見もあるが、最近、秋田県沖や千葉県沖の3海域で大規模な洋上風力発電プロジェクトが計画され、いずれも三菱商事グループが落札したことは記憶に新しい。
今後も日本各地で洋上風力プロジェクトが計画されているので、三菱商事を始めとして、丸紅や豊田通商などエネルギーに強い商社を中心としたグループやJERA、J-Power、レノバなどの電力会社が中心となって建設が進められていくだろう。
海外に目を転じると、洋上発電は西欧(イギリス、ドイツ、デンマーク、オランダなど)やアメリカに集中しているが、近年、中国の躍進がすさまじく、現在世界最大の固定式洋上発電装置の所有国となっている。
洋上発電のいいところは、風が陸上よりも強く、かつ安定しているところだろう。日本のように山がちの地形では、内陸部の風は当然弱くなる。遮る物のない海上は風が強く、かつ安定しているのだ。一般に、風車は大きいほど発電効率が良くなると言われているが、洋上発電は陸上に比べて大型にできるのも利点の一つだ。
発電コストについては、先の秋田県沖に建設予定の洋上風力発電事業では、最低応札価格は11.99円/kWhであったが、将来的には8~9円/kWhが目標とされている。発電コストだけだけの比較であるが、これまで最も安いとされてきた原子力発電より、もっと安いということになる。
洋上風力発電(浮体式)
一方、浮体式というのは海底に固定するのではなく、海に浮かせた船のような台の上に風車を作ろうということだ。これなら深いところでも建設できるが、いまのところまだ開発中の技術だ。
といっても、現在急速に発展している技術である。設置できる場所の水深は通常は200m以下であるが、1000mでの設置も計画されている。建設コストは固定式よりも高いが、大型化が可能であることや、外洋は比較的風量が強く、かつ安定していることから固定型よりも経済性がよくなるという可能性もある。
浮体式は造船所で建設して、設置場所に運んで海底に固定する。修理をするときも設備のととのった造船所に運んで行うことができる。日本のように高いレベルの造船技術を持っている国にとってはうってつけの技術ではないだろうか。浮体式洋上風力発電は今後、数年以内に商業規模に達すると予想されている。
海洋温度差発電
我々の生活には、熱を動力源とする様々な機関が使われている。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを始めとして、蒸気ボイラーや発電所で使われる蒸気タービンなど、いずれも何らかの熱源を使って機関を動かしている。
これを総称して熱機関というが、熱機関は単に熱があるだけでは作動しない。熱源だけでなく、低温の部分が必ず必要となる。ピッチャーとキャッチャーの関係だ。熱機関とは高温から低温に熱が流れるときのエネルギーを利用しているからなのだが、逆に言えば、高温部分と低温部分があれば、そこからエネルギーを取り出すことができる。
海洋熱エネルギー回収は、深海部(通常は深さ約1000m)の温度の低い海水と、表面付近の温度の高い海水を利用してエネルギーを取り出す技術である。
これにはオープンサイクルシステムとクローズドサイクルシステムがある。
オープンサイクルシステムでは、暖かい海水を真空中で蒸発させてタービンを駆動したあと冷たい海水を使用してタービンの反対側で凝縮させる。
クローズドサイクルシステムは、アンモニアなどの作動流体を使う。オープンサイクルと理屈は同じであるが、温かい海水を使って、海水ではなく作動流体を蒸発させてタービンを駆動する。蒸発した作動流体は、冷たい海水で冷やされて、また液体に戻して再び利用する。
海洋熱エネルギー回収は、風力発電や太陽光発電などのように気象条件に左右されることがなく、一定した再生可能エネルギーを提供できるという利点がある。
日本は遠浅の海が少ないので固定式風力発電には不利であるが、逆に言えば海岸からすぐに深海に落ち込んでいる。つまり日本列島は深海がすぐ近くにあるわけで温度差発電には有利である。沖縄や九州南部のように海面温度が高いところは特に有利である。
ただ、設備コストが大きいため、今のところメガワット以上の規模では実施されていない。この技術が商業規模になるには5年以上かかると予想されている。
波力発電
波は海面の上下運動である。この波の動きを利用して発電機を駆動するのが波力発電だ。波の動きを電力に変えるために様々な方法が提案されている。
波が発生する原因は主に風である。風の力によって最初は小さなさざ波が発生し、その波に風が当たることによって波の高さが次第に増幅されていき、最後にはサーフィンができるような人間の身長を優に超える巨大な波になる。
波は次第に増幅されていくわけだから、海域が広いほど大きくなる。日本は太平洋という世界で最も大きな海域に面しているわけであるから、波の大きさは世界的にも大きなものとなりうるし、もちろんその波の持つエネルギーも大きい。このエネルギーを使わない手はないといのが波力発電の発想である。
波力発電は波の動きを機械的な動きに変換し、その動きを使用してタービンを駆動したり、往復運動を回転運動に変えて発電機で発電するものだが、波の動きを利用して水を岸に汲み上げて水力タービンを駆動したり、波力を使用して海水を汲み上げたりという方法もある。
しかしながら、現在のところまだ決定的な技術が完成していない。波力発電の潜在的な市場は大きいが、現在は高コストであり、商業化はかなり先になると予想されている。
海流発電、潮汐発電
海流は海水の大規模な流れである。海流は地球の自転、風、波、塩分濃度などの多数の力の相互作用によって引き起こされると考えられ、一般に大陸の海岸線をたどって流れているが、一方、大陸から大陸へと大きなサイクルでも流れている。いわば大規模な海の中の海水の川である。
潮汐、すなわち潮の満ち引きは、太陽と月の引力と地球の自転によって引き起こされる。よく月が地球を回っているので潮の満ち引きが起こると誤解されるが、考えてみれば当たりまえのことなのだが、潮の満ち引きは主に地球の自転によって起こっている。つまり潮汐エネルギーは地球の自転によるエネルギーである。
海流は水の流れが一方向で、ほとんどの場合、海面下のかなりの深さところを流れているのに対し、潮汐は毎日ほぼ4回方向を変える。ただし、いつ流れを変えるか、すなわち干潮と満潮の時間は完全に予測することができる。
海流も潮汐流も海の水の流れであるから、水力発電や風力発電と同様に、これを使って発電することが可能である。これも様々な方法が提案されているが、波力のように往復運動を回転運動に変える必要はなく、そのままタービンのようなもので回転運動を得て、発電機を回す方式が多い。
一般的なのは水平軸タービンを、海底に固定あるいは浮遊状態で運用する。既にいくつかのプロジェクトが進行中で、設置容量は10MWを超えたものもある。これらの技術は波力発電や海洋熱エネルギー回収よりも開発の進んだ段階にあり、5年以内に商業化される可能性があると言われている。
日本列島の南側には黒潮という世界的に見ても大規模な海流が流れており、また、瀬戸内海のように非常に強い潮汐流が発生する場所もある。我が国においては海流発電も潮汐発電も利用可能性の大きな発電方式だということになるだろう。
海を使えばエネルギー大国になれるかもしれない
海を使った発電方法をいくつか紹介してきた。
固定式洋上風力発電以外は今後の技術開発を待たなければならないが、いずれも実現の可能性は低くない。
我が国はただ海に囲まれているので、領海や排他的経済水域の面積が広いというだけではない。海上の風向や海面と深海の温度差、海流や潮流など、様々な有利な条件が日本列島周辺の海域には含まれている。海からエネルギーを得る技術を開発することによって、我が国は世界有数のエネルギー大国になることも夢じゃないだろう。
2022年8月14日
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