12日、米国のバイデン大統領はアイオワ州で行われた講演で、バイオエタノールを15%含むガソリン(E15)の販売を夏場も認めると発表した。バイオエタノールはガソリンよりも安価であるため、日本と同じように米国においても問題となっているガソリンの価格高騰を抑える効果があると期待されている。
しかしながら、バイオエタノール15%ガソリンの夏場販売とはどういうことか。なぜ今までやってこなかったのか。このあたりは、なかなか日本では理解し難い込み入った事情がある。また、日本でもバイオエタノールを導入すれば、ガソリンは安くなるのだろうか。少し解説してみたい。
バイオエタノールは1970年代、石油ショックによって原油の価格が高騰した折に、米国はバイオエタノールをガソリンに混ぜて使うことを奨励した。これがバイオエタノールが導入されるきっかけとなった。
バイオエタノールはトウモロコシから製造され、トウモロコシは米国中西部のコーンベルトと呼ばれる大穀倉地帯で栽培される。つまり、バイオエタノールは米国にとって純国産エネルギーである。だから中東や南米などから輸入される原油に比べて供給が安定している。
石油ショックが終わったあとも、バイオエタノールには大気汚染を防止する効果があるとされて使用が続けられ、そのガソリンへの混合割合も次第に増えて行った。現在では米国内で収穫されるトウモロコシの約30~40%がバイオエタノールの製造に使われ、全米で販売されているガソリンのほとんどには制限いっぱいの10%のバイオエタノールが混合されている状態となっている。このバイオエタノールを10%含むガソリンはE10といわれている。
では今後、これ以上にバイオエタノールの使用量を増やすためには、どうすればいいか。それは、ガソリンへの混合量を10%以上に増やすか、あとは輸出するかしかない。
実は、米国ではガソリンへのバイオエタノール混合率を10%とする制限が数年前から緩和されて、E15の販売が認められているのである。しかしながら、E15を使用すると一部の車両に不具合が発生するとして、自動車業界からの反発に会い、使用できる車両が制限されている。
このため、米国ではE15はあまり普及していない。E15を販売しているガソリンスタンドは全米のガソリンスタンドのうちの1.3%しかないというのが実情である。
もうひとつの問題は、バイオエタノールの混合量を増やすとガソリンが蒸発しやすくなるというちょっと変わった現象が起こることだ。蒸発したガソリンは大気中に漂って、光化学スモッグの発生やオゾン層の破壊につながる。そのため、気温の上がる夏季はE15の販売が規制されていた。今回のバイデン大統領の発言は、この夏季においてもE15の販売を許可しようとするものだ。
では、これによってガソリン価格の高騰を抑える効果があるのだろうか。米国のある報道機関の試算によると、サウスダコタ州のE15の平均価格は1ガロン当たり3.25ドルであり、E10 は3.43ドルだから、これだけ見ればE15の方が18セント安いということになる。
しかしながら、バイオエタノールはガソリンよりも持っているエネルギーが低いから、1ガロンで走行できる距離も短くなる。その結果、E10で1マイル走った時のガソリン代が16.33セントに対してE15の場合は16.47セントとほとんど変わらなくなってしまう。
バイデン大統領のE15に関する今回の発言は、ガソリンの価格抑制策というより、E15普及に向けたトウモロコシ農家へのリップサービスという意味が強い。発言した場所もイリノイ州。まさにコーンベルトの真っただ中の州なのだ。
といっても、今後、さらに原油価格が上昇していくなら、バイオエタノールの価格的な優位性が目立ってくることになる。また、バイオエタノールの使用は地球温暖化の緩和にもつながるし、さらに、これが一番重要なことかもしれないが、米国のトウモロコシ農家にとって、E15の普及は大きな福音となるだろう。
ともかく、今後、米国のガソリンはE10からE15に次第に置き換わっていくのではないだろうか。
では、我が国でもバイオエタノールを導入すればガソリン価格は下がるのだろうか。日本でも、いまのところ3%以下に制限されてはいるが、バイオエタノールをガソリンに混合して販売することは可能である。
実は、エネオスやコスモ石油がバイオエタノールを輸入してETBEという物質に加工して、ガソリンに混ぜて一般に販売しているのだが、量も少ないのであまり目立たない。
しかし、これから原油価格が上がってきて、輸入コストを考慮してもバイオエタノールの方が安いということになれば、バイオエタノールをガソリンに混合して値上がりを押さえる効果が狙えるかもしれない。中東のような不安定な国からの輸入に比べれば、エネルギー安全保障上も有利だし、もちろん、地球温暖化防止と言う役割も期待できる。
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