食料生産に欠かせない肥料の価格が高騰 原因はウクライナ戦争だけではない

最近、肥料の価格が上昇している。この価格上昇の原因について、多くのマスコミはウクライナ戦争の影響だと報じているが、本当に戦争の影響なのだろうか。

肥料には様々な種類があるが、一般に窒素、リン、カリウムという三つの元素を含むものが用いられる。この三元素は植物の成長にとって必要であるが、不足がちなため外部から補ってやることによって成長が促進され、農作物の収穫量を増大させることができる。その肥料の価格が最近、急上昇していることから食料生産に影響を与えるのではないかと懸念されている。

肥料価格が上昇している原因について、日本のマスコミの多くは今年2月に勃発したウクライナ戦争の影響と報じている。(例えば、時事通信社6月2日、NHK6月1日、共同通信社5月31日など)しかし、肥料価格の高騰は本当にウクライナ戦争が原因なのだろうか。

肥料の国際価格の推移

上の図は肥料の国際的な価格推移を示したものである。リン、カリウム、窒素それぞれについての代表的な供給形態であるリン酸アンモニウム、塩化カリウム、尿素について示している。

この図からは、肥料価格が全般的に上昇しているのが分かる。しかしながら戦争が始まったのは今年2月24日である。確かに塩化カリウムについては、開戦時に大幅な価格の上昇を記録しているが、それ以外は実は戦争が始まった時期よりかなり以前から価格の上昇が始まっていたのだ。

リン酸アンモニウムの原料はリン鉱石とアンモニアであるが、リン鉱石を最も採掘しているのは中国で、続いてアメリカである。ロシアも産出するが、その量は中国の10分の1程度に過ぎない。価格については確かにウクライナ戦争の影響はあるが、価格の上昇はそれ以前から始まっていたのである。

ちなみに、日本が輸入するリン酸アンモニウムは9割近くが中国産で、1割がアメリカ産。ロシアからの輸入はほとんどない。

塩化カリウムについては、その原料はカリウム鉱山から産出する。生産国はカナダ、ロシア、ベラルーシ、ドイツなどである。その価格は明らかに今回の戦争が原因で上昇している。これは今回の戦争で戦場となった黒海が塩化カリウムの積み出し港であることが大きい。

日本の塩化カリウム輸入については、63%がカナダからであるが、ロシアとベラルーシからも合計で25%ほどを輸入しているから、影響は少なくないであろう。

最後に、尿素であるが、この尿素の需要量が三元素の中で最も大きい。その原料はアンモニアである。カリウムやリンが鉱物資源であるのに対して、アンモニアの原料は窒素と水素である。窒素は空気中からいくらでも取り出すことができるし、水素は天然ガスや石炭などから取り出すことができるから、世界中どこでも生産することができる。

実際、我が国でも宇部興産、三井化学、昭和電工、日産化学などで生産されており、我が国で使用されるアンモニアの77%が国産である。

世界的にはアンモニアの主な生産国は中国、ロシア、アメリカ、インドである。尿素の価格もウクライナ戦争の影響を受けてはいるが、その前、特に2021年後半から上昇が始まっている。実はこの価格高騰の理由ははっきりしている。それは中国である。

世界最大のアンモニア生産国である中国は石炭を使って水素を作り、その水素と空気中の窒素からアンモニアを作っている。中国はその石炭をオーストラリアから輸入していのだが、オーストラリアと中国との関係悪化によって、石炭の輸入が止まった。

その結果、中国国内でアンモニアを原料とする尿素が不足。このため、2021年10月から尿素の輸出を制限している。これが、尿素価格高騰の理由のひとつである。

そのほか、リン酸アンモニウムと尿素については、原油価格高騰の影響も大きいと思われる。下の図で示すように原油(WTI)価格は2020年4月を底にして、それ以降、上昇を続けている。これによって石炭や天然ガスの価格も上昇し、これを原料とするアンモニア価格が上昇。アンモニアを原料とする尿素やリン酸アンモニウムの価格も上昇しているのだろう。

原油(WTI)価格の推移

結局、ロシアが世界第2位の生産国となっているカリウムについては、確かにウクライナ戦争の影響が強くみられるが、窒素とリンについては、むしろ原油価格の影響が大きい。

最近、日本国内ではいろいろな物の値段が上がっている。その理由としてウクライナ戦争の影響と報じられることが多いが、実際は原油価格上昇の影響がジワジワと現れてきているというのが実際なのではないだろうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。