原油輸入量の約9割が通過するホルムズ海峡が封鎖され、我が国の産業や国民生活に大きな影響を与えることが懸念される。同海峡が封鎖される可能性については以前から指摘されてきたが、その恐れていたことが実際に起こってしまった。
とりあえずため込んだ備蓄を取り崩しているが、備蓄をすべて使ってしまったらお手上げである。このホルムズ危機ができるだけ早く収まることを祈りたい。

しかし、今回の危機が納まったとしても、また再びこのような危機が訪れないとも限らない。その危機を回避するためには備蓄だけに頼るのではなく、今後は、原油入手先を多様化するか、石油そのものの消費を減らす、つまり脱石油政策が進められることになるだろう。
この記事では、石油の消費を減らすことが可能なのか。石油を使わないことでわれわれの生活にどんな影響があるのかについて検討してみたい。
日本の石油の主な用途は自動車燃料と石油化学
この下の図は昨年(2025年)1年間に日本で消費された石油製品の割合を示している。

この図で分かるように、石油の主な用途は、ガソリン、軽油およびナフサで、この3種類だけで石油製品全体の約8割を占める。
一方、発電や工場の動力源として使われるB・C重油はわずか3%しかない。これは1970年代に起こった石油ショックを教訓として石油火力を極力減らそうとしてきたからである。かつて、日本の総発電量の約6割が石油火力だったが、現在では7%ほどしかない。だから、今日の日本では石油がなくても電力供給が途絶えることはない。
しかし、原油の主な用途であるガソリン、軽油、ナフサについては原油の輸入が止まると供給が途絶える可能性がある。これらは、われわれの生活に密接にかかわっている石油製品であるから影響は大きい。
今後は、これらの石油製品については、もっと供給が安定した製品に少しずつ転換していく必要があるだろう。では、どのような代替手段があるのか紹介したい。
ガソリン
ガソリンは主に乗用車や軽トラック、小型バンなどの燃料として使われている。これについては、既に述べたように、石油がなくても電力供給が止まることはないから、おそらく電気自動車(EV)が有力な代替手段となるだろう。
EVが増えた分、日本の発電量が増えることになるが、すべてのガソリン車がEVに変わったとしても、発電量の増加は現在の発電量の15%程度だから計画的に発電量を増やしていけば対応可能だろう。
そのほか、バイオエタノールやe-fuelのようないわゆる次世代燃料の使用が考えられる。e-fuelはCO2と水素から作られるガソリンである。CO2は空気中や工場排ガスから回収することができ、水素は水を電気分解して作ることができるから、輸入資源に頼らない燃料である。ただし、製造時に多量の電力が使われるから、それならその電力でEVを走らせた方がよい。だからe-fuelは自動車用ではなく電気では都合の悪い用途に限って使用するべきだろう。
バイオエタノールについては、既に世界中でガソリンに混合して使用されており、我が国でも10%のバイオエタノールを含むガソリン(E10ガソリン)を販売する準備が行われている。今後、バイオエタノールの混合割合を増やしていく必要があるだろう。
燃料用バイオエタノールは国内では作られていないので、米国やブラジルから輸入することになるだろうが、代替輸送ルートがいくつかあるからホルムズ海峡のような輸入途絶という事態は起こりにくい。
結局、ガソリンの代替としては、今後はEVかバイオエタノールの導入を進めていくということになるだろう。
軽油
軽油はトラック、バス、建機などの重車両や船舶などに使用される燃料である。ちなみに小型ボイラーや漁船などの燃料として使われるA重油は、ほぼ軽油と同じもので、主な違いは軽油に比べて残留炭素分がやや多いだけである。だからA重油の代わりに軽油を使用することが可能である。
実は軽油の代わりになる方法を探すのはやや難しい。乗用車のようにEV化するのはバッテリーが重くなるという問題があり、また輸送用トラックのように長距離走行にEVは向いていない。しかし、バッテリー技術が進歩してくれば、トラックやバスなども一部はEV化されるだろう。
軽油代替として期待されているのが、HVO (水素化植物油)である。HVOは菜種油や大豆油、パーム油のような植物油を水素化精製したもので、この製造技術は石油精製とほぼ同じであるから、製油所の装置を少し改造することで製造することができる。
また、出来上がったHVOは石油から作られる軽油とほぼ同じ性能を持つから、現在のトラックやバスなどがそのまま使用することができるというメリットがある。さらにHVOを作るときに、ジェット燃料やバイオナフサが併産されるのも利点である。
実際に欧州では、HVOが軽油に混ぜて使用されているが、軽油に混ぜなくてもそのままでディーゼルエンジンの燃料として使用することは十分可能である。わが国でも伊藤忠商事などがHVOを輸入して一部のユーザーに販売しているほか、コスモ石油が国内での製造を開始しており、ENEOSや出光興産も製造準備に取り掛かっている。
原料となる植物油は輸入する必要があるが、輸出余力のある国はインドネシア、マレーシア(以上パーム油)、アルゼンチン、ブラジル、アメリカ(以上大豆油)、カナダ(菜種油)のように世界に分散しているので、輸入途絶という事態は起こりにくい。
ナフサ
次にナフサだが、これは化学工場(エチレンセンター)に送られて分解されてエチレンやプロピレン、ベンゼンなどの基礎化学品になり、これらの基礎化学品を原料としてプラスチックや合成繊維、合成ゴム、溶剤などおなじみの製品が作られている。
こういったプラスチックのような石油化学品は実はナフサでなければできないというものではない。もともと合成繊維などは石炭を乾留して作られるコールタールを原料として作られていたし、米国や中東では天然ガスが原料として使われている。だから石油がなくても石炭や天然ガスでこれらに製品を作ることは可能である。
また、植物油からHVOを製造するときにバイオナフサが副生することは既に述べた。バイオナフサは原油から作られるナフサとほぼ同じものなので、エチレンセンターへ送って基礎化学品を作れば、その後の工程はそのまま現在と同じ方法でプラスチックなどの石化製品を作ることができる。
さらに、バイオエタノールからエチレンを作る技術もすでに開発されており、実際にブラジルで製造されている。このエチレンもナフサを分解して作られるエチレンと同じ品質なので、石化工場で従来と同様に石化製品を作ることができる。
まとめ
今日の日本は石油という便利な鉱物資源を使うことによって豊かな生活を築いてきた。しかし、今回その石油は実はホルムズ海峡という細い糸に頼っていたことに気づかされることになった。その糸が切れれば、日本の産業や国民生活は壊滅的な打撃を受ける。まさに油断である。
今後、ホルムズ危機の影響を軽減するためには、我が国は石油の使用を少しずつ減らして、代替手段に切り替えていく必要がある。原油輸入が止まっても、幸い発電への影響は軽微であるから、電気に替えられるものは電気に替えていく。また、電動化が難しいものはバイオ燃料やe-fuelが有力な代替手段になるだろう。
2026年3月20日


