2月28日、米国とイスラエルが突然イランの指導者を殺害したことから始まったイラン戦争。イランは対抗措置としてホルムズ海峡を封鎖。これによって中東からの原油やナフサの輸送が止まることになった。
原油については日本には約8か月分の備蓄があるが、わが国で使用されるナフサについては原油から取り出したもの以外に大量の輸入もしており、その輸入ナフサもその大半がホルムズ海峡経由であるためナフサの輸入も滞っている。
原油備蓄はあってもナフサの備蓄はないことから、ナフサから生産される様々な石油化学製品の品不足が広がりつつある。この記事ではナフサとはどんなものか、どのようにして作られるのかについて解説する。
■ナフサとはどんなものか
ナフサそのものを見たことのある人はあまり多くはないだろう。ナフサは原油から作られる無色透明のさらさらした液体で、蒸発しやすく、石油臭がし、引火性が強いため消防法上の危険物に指定されている。
製油所で作られたナフサはほとんどエチレンセンターとよばれる石油化学工場に送られる。エチレンセンターではナフサをナフサクラッカーとよばれる装置を使って分解してエチレンやプロピレン、ブタジエンなどのオレフィンとよばれる化合物やベンゼン、キシレン、トルエンといった芳香族とよばれる化合物が生産される。
これらの化合物はさらに他の石油化学工場に送られて、プラスチックや合成ゴム、合成繊維、塗料、溶剤などの素材が製造され、さらにこれらの素材が別の工場で様々な製品となって出荷されている。
ナフサそのものを目にすることはほとんどないが、プラスチックや合成繊維など私たちの身の回りの多くのものが、ナフサを原料として作られていて、私たちの快適で豊かな生活を支えているのである。
■ナフサはどうやって作るのか
ナフサの原料はもちろん原油だが、原油から作られる様々な石油製品の中でもナフサの作り方がもっとも簡単といえるだろう。ナフサは原油を蒸留しただけで取り出すことができるからだ。
日本に運ばれた原油はまず常圧蒸留といわれる処理が行われる。原油はさまざまな成分からできているから、この原油に含まれる成分を沸点の差によっていくつかに分けていく操作が蒸留であり、これを常圧でやるから常圧蒸留という。
中学校の理科の時間に蒸留という実験をしたことがあるだろう。フラスコに例えば水とエタノールが混ざった液体を入れ、加熱していくと、沸点の低いエタノールが先に蒸発していく。フラスコから出てきたエタノール蒸気をコンデンサーで冷却して液体に戻してやれば、濃度の高いエタノール(説明は省くが濃度100%にはならない)が得られる。

実験室での蒸留操作(Wikipediaより)
常圧蒸留も原理的にはこれと同じで、原油を350℃程度に加熱して蒸発させ、蒸発した蒸気を冷却して液体にもどすことによって原油に含まれる成分を分離する。
ただし、水とエタノールのように単純ではない。原油には何千あるいは何万種類(数え方によって数は違ってくる)もの化合物が含まれるから、それらをひとつひとつ分離していくことはできない。
実際には、沸点が同じ範囲に含まれる化合物を一かたまりにして、いくつかの成分に分けて蒸留していく。このように一度にいくつかの成分に分ける蒸留を分留という。また、分留によって出てくる成分を「留分」といっている。
原油を常圧蒸留して分けるときの留分は次のとおりである。
留分 沸点範囲
LPG 40℃以下
軽質ナフサ 30~140℃
重質ナフサ 40~230℃
粗灯油 170~250℃
粗軽油 240~350℃
常圧残油(塔底油) 350℃以上
これらの留分のうち軽質ナフサが一般にナフサとよばれるものである。軽質ナフサより少し沸点の高い重質ナフサは主にガソリンの原料となる。ただ軽質ナフサと重質ナフサの沸点範囲の境目はあいまいで、常圧蒸留装置の運転によって、沸点の境目は調整することができる。
軽質ナフサと重質ナフサを合わせて単にナフサ、あるいはホールレンジナフサという場合もあるし、海外ではナフサとはガソリンを指す場合もある。ここでは一般的な定義に合わせて軽質ナフサをナフサということにする。
■実際の常圧蒸留装置
上に述べたような学校で使う蒸留装置、フラスコとコンデンサーを使った蒸留装置で原油を蒸留する場合、フラスコを加熱していって温度が上がってくるにしたがって、LPG、軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油…という具合に各留分が順番に出てくる。そして350℃程度までフラスコの温度を上げて、この温度で蒸発するものがすべて蒸発してしまうとフラスコには常圧残油が残ることになる。
もっと続けて原油の蒸留をやりたいときは、一旦蒸留操作をやめてフラスコから残油を取り出し、新たに原油をフラスコに入れて再び蒸留操作を始めることになる。このような方法は回分式あるいはバッチ式といわれ、例えば焼酎を作るときのランビキやウイスキーを作るときのポットスチルがこれにあたる。
製油所で原油を蒸留するときは、このような回分式ではなく、連続式の蒸留が行われる。回分式だと一定量の原油の蒸留が終われば、一旦蒸留操作をやめて、新たに原油を蒸留装置に導入するという操作が必要となるが、連続式では蒸留装置の入口から原油を挿入していけば、LPGから塔底油までの各留分が別々の出口から連続的に出てくる。
このような連続式の装置で蒸留すれば一日24時間、年365日、とにかく原油をどんどん挿入していけば、各留分がどんどん連続的に出てくることになる。もちろんナフサも自動的に出てくる。
では、連続式の常圧蒸留装置はどんな仕組みになっているのだろうか。主役は常圧蒸留塔という高さ50m、直径10mもある巨大な鋼の塔である。この鋼の塔は内部ががらんどうになっていて、その内部は穴のあいた棚状の板によって何段(30段から50段)にも仕切られた構造となっている。
原油は原油タンクからポンプで連続的に送られてくる。送られてきた原油は加熱炉で350℃程度に加熱されたあと常圧蒸留塔に送り込まれる。常圧蒸留塔では、送り込まれた原油のうち、蒸発した成分は仕切り板の穴の中を通って塔の中を上方にむかって登っていき、塔の頂からパイプを伝って出てくる。出てきた蒸気はエアフィンクーラーという巨大な扇風機で冷やされて液体に戻る。液体に戻った原油は再び蒸留塔の上部に戻される。液体を蒸留塔に戻す操作を還流という。

連続式常圧蒸留装置の概念図
塔に戻された還流液は塔の中にある仕切り板の棚に一旦溜まり、オーバーフローしながら順次下の棚に落ちていく。一方、上昇する熱い原油蒸気は、この仕切り板の穴を通って登っていくから、還流液と接触しながら上昇していくことになる。すると還流液の一部が原油蒸気で加熱されて再び蒸発して上昇していく。このような現象が各棚で起こる。その結果、蒸留塔の内部の棚に溜まった液体は上方ほど沸点の低いもの、下にいくほど沸点の高いものが溜まっていくことになる。
棚に溜まった留分を抜き出していけば、上方の棚から順に軽質ナフサ、重質ナフサ、粗灯油、粗軽油と取り出されることになり、蒸留塔の底部からは塔底油がそれぞれ連続的に取り出されていく。(図ではLPGと軽質、重質ナフサが一緒になって取り出され、別の蒸留塔で分離される構造となっている)
常圧蒸留装置は分離された留分の流量、各位置の温度や圧力などが自動制御されているから、その運転はほとんど自動的に行われる。人間は常圧蒸留塔の稼働開始や停止のとき以外は、この装置がうまく動いているか監視していればいいということになる。
■ナフサ生産量の調整方法
ナフサの沸点範囲は30~140℃であることは既に述べた。この範囲のナフサ留分の割合は原油の産地によってだいたい決まっているから、ナフサだけをたくさん取り出すとか、ナフサの量を減らすということは原則としてできない。
ただ、ナフサの沸点範囲は重質ナフサと重なっているから、ナフサとして取り出す沸点の範囲を調整することによって数%だが、調整することができる。ただし、ナフサを増やすと、その分、重質ナフサが減り、ナフサを減らすと重質ナフサが増えるという関係がある。
そのほか、石油精製過程では様々な化学反応が起こるが、この過程でナフサ留分が発生することがある。例えば、重油から灯油や軽油を製造する水素化分解工程や粗灯油や粗軽油から硫黄分を取り除く水素化脱硫工程では、原料の一部が分解されてナフサができる。このような副産物として生産されるナフサも、原油を蒸留して作られるナフサと混合してエチレンセンターへ送られる。
わが国は石油化学工業の盛んな国であるから、ナフサの需要は非常に大きい。このため、国内の製油所で原油から取り出されるナフサや精製工程で副産物として生成するナフサをすべて合わせても、我が国のナフサ需要の3分のl程度にしかならないのが現状である。
このため、不足するナフサについては中東諸国や韓国などから輸入している。この輸入ナフサも一般に製油所が受入れ、原油から蒸留によって得られたナフサと同じタンクに貯蔵されたあと、エチレンセンターに送られて石油化学品の原料となる。
2026年4月15日


