5月24日、ドリーム燃料(SUSENE合成燃料)の事業化を目指していたサステナブルエネルギー社(以下「サステナブル社」)が自社のホームページで当燃料の事業化は行わない方針であることを明らかにした。
(「ドリーム燃料」は発明者の京都大学のI 名誉教授が名付けた名称であり、これと同等のものをサステナブル社が「SUSENE合成燃料」と名付けて事業化を試みていたが、ここでは「ドリーム燃料」で統一する)
ドリーム燃料は以前から指摘しているように、非常に疑わしい技術で、いわゆる疑似科学の一種だと筆者は考えている。このような疑似科学はときどき現れ、一時的に注目されるものの、やがていつのまにか話題に上らなくなって消えていく。
だれも失敗したことは話したがらないので、どのように消えていったかはあまり分からないものなのだが、ドリーム燃料についてはサステナブル社がきちんと今後の方針を明らかにしており、企業として説明責任を果たしている稀有な例だろう。
ではドリーム燃料とはどのようなものだったのだろうか、振り返ってみたい。
ドリーム燃料は元京都大学教授のI名誉教授が発明したという人工石油である。このプロセスは、まず水とCO2を混合して攪拌し、特殊な光触媒存在下で少量の紫外線を照射すると、I 名誉教授がラジカル水名付けた活性の高い水ができる。このラジカル水に種油と称する石油(軽油など)を混合し、激しく攪拌すると、人工石油ができるという。
人工石油は種油と混ざったエマルジョン状態で産出されるが、これをしばらく静置して油分と水に分離すると油分が元の種油よりも増えていることから、I名誉教授は増えたぶんだけ人工石油ができたと主張しているわけである。

I 名誉教授が発明したというこのドリーム燃料については、東北に本社を構えるサステナブル社がサポートする形で事業化を行う計画であった。さらに、2023年1月には大阪市などが協力して大阪の鶴見緑地で公開実験を行ったことからマスコミでも取り上げられ、水とCO2から安価に石油が作れる、日本独自の技術として注目を浴びることとなった。
しかし、その後、I 名誉教授率いるアイティ―技研とサステナブル社は分裂(喧嘩別れ?)したようで、別の道を歩き始めた。サステナブル社はドリーム燃料をSUSENE合成燃料と名付けて2023年4月からサブスク形式で販売すると発表。サブスク料金や、生産能力、必要な原料の量などが公開されていた。
しかしながら、その後、サステナブル社はこれから更にデータを蓄積する必要があるという理由で販売を延期。このとき発表された予定では2025年度の下期から販売を開始するとされていた。
一方、I 名誉教授はサステナブル社というスポンサーを失ったため、クラファンで事業化資金を調達しようとしていた。ところがクラファン主催者が資金集めのための講演会を開催しようとすると、体調不良とのことで急遽別の人が講演をすることになり、さらにその代理の人も講演会3日前にドタキャンしてしまうという不祥事となった。これによってクラファンも中止。主催者は集めた資金もすべて返却。講演会の料金等はクラファン主催者が個人で負担したとのことである。
また、実験に協力した大阪市は、当初は大々的に宣伝していたものの、結局「場所を貸しただけで、実証試験の内容は知らない。サステナブル社に聞いてくれ」という態度に変わっていった。
話をまとめると、サステナブル社のサブスクは延期、大阪市は関係ないという態度、アイティー技研のクラファンは中止となった。ということでドリーム燃料の事業化はサステナブル社が予告した2025年度の下期からのサブスク形式の販売待ちという状況となっていた。
2025年度下期といえば、2026年3月までであるから、サステナブル社はその翌月の4月に、ドリーム燃料開発の中止を発表したということになる。
そもそも、ドリーム燃料は怪しい技術である。他の記事にも書いたので詳しくは述べないが、このような方法でCO2と水に含まれる水素から人工石油ができるのなら、その人工石油の持つエネルギー以上のエネルギーをどこかから持ってこなければならないのに、その形跡がないこと。
さらに、CO2と水から石油ができるのなら、そのCO2の分だけ重量が増えていなければならないのに、使用されたCO2の量も、人工石油と称するものの増加量もきちんと測定されていないこと。
つまりマテリアルバランスもエネルギーバランスも確認されていない杜撰な実験であるにもかかわらず、単に目で見て種油の量が増えた(ように見えた)というただそれだけのことで、空気中のCO2と水に含まれる水素が結合して人工石油ができたと何の根拠もなく結論付けているのである。
おそらく、ラジカル水と称する水と種油を強度に攪拌したため、細かな水滴が種油に混ざり、その結果、種油の量が増えたように見えただけに過ぎないのだろう。I 名誉教授の論文によれば、種油から分離した人工石油(つまりドリーム燃料)は、これをまた種油として使えば何度でも人工石油を作っていけると述べているが、実際にそれを実験でやって確認したわけでもない。
種油の量が増えた部分は単に細かい水滴が溶け込んだだけだとすれば、繰り返してそれを種油として使えば、溶け込んでいる水の割合が増えていき、やがて水と油が分離しなくなるだろう。
サステナブル社の説明では、単発的な運転したときにはうまくいったものの、連続的に行うと安定して再現できないと述べている。これはまさに種油に含まれる水滴の量が増えていき、水と油が分離しなくなっていったという話だろう。予想されたことではあるが。
一方、サステナブル社と袂を分けたアイティー技研であるが、クラファン中止以降、特に目立った動きは聞こえてこない。同社のホームページのトピックス欄を見ても、2023年に行われた鶴見緑地での公開実験を最後に新しい記事は掲載されていない。
水で走る自動車を開発したとか、水をガソリンに変える方法を発明したとか、過去にも様々な事例があるが、いずれも消え去って行った。確かに水とガソリンは似ているからガソリンではなく水で車が走ればどんなにいいだろうと誰しも思うが、水とガソリンは見かけは似ているが、全く違うものである。
水とCO2からガソリンのような燃料を作ることは可能であるが、製造された燃料の持つエネルギー以上のエネルギーが必要となる。そのようなエネルギーを使わずにガソリンが作れれば、それは結局、永久機関になってしまうから不可能である。
しかし、そのような関係を理解していない人も多数いるわけで、ときどき水から石油を作りましたと称する人が出てくることになる。ちなみにI 名誉教授もオルタナ誌の取材でドリーム燃料が永久機関になってしまうことを指摘されて初めてそのことを知った節がある。
本人に悪気はないのだろうが、周りの人たちを巻き込み、迷惑をかけることになるわけである。しかし、今後も同じような疑似科学は出てくるのだろうと思う。
2026年6月3日
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