医薬品はほとんど石油から作られている。だから毒性があって危険なので飲まない方がいい。そんな話を聞いたことがあります。あるいは、食品には食品表示法という法律があって、原材料名を明記することになっているのだから、「薬も石油が原料なら石油からできていますと明記してほしいですね」という意見も聞いたことがあります。
石油って偉大ですね。ガソリンやプラスチックやアスファルトだけでなく、薬まで作ってしまうのでしょうか。そして石油から作られた薬って危険なのでしょうか。
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まずはシミュレーション↓
1.結論
- 医薬品のほとんどが石油から作られているとは言えないが、かなりの種類の医薬品原料の元の元をたどると石油にたどり着く場合がある。
- しかし、原料が石油だから薬は危険だというのは間違い。
2.薬の製造方法
医薬品は多くの場合、元々は天然物から抽出されていましたが、化学構造が明らかにされると、人工的に合成されるようになりました。人工的に合成を行う場合、その原料として石油から作られたものが用いられていることがあります。
例えば抗生物質のペニシリンは、最初は青かびから抽出されましたが、化学構造が明らかになると、人工的に合成されるようになりました。ビタミン類もそうです。
ビタミン類は食品の中に含まれますが、現在では化学的に合成することが可能なっているものもあります。
では「すべての薬が石油から合成されている」のでしょうか。まず、化学構造が複雑で合成しにくい場合や、天然物から抽出した方が安く、十分な量が確保できるのなら、合成によらずに天然物を精製して薬としています。
あるいは化学合成によらず、微生物を使った発酵法によって薬を作る場合もあります。この場合は、石油由来の原料を使うことはほとんどないでしょう。
また、化学合成で作るとしても、その原料が必ずしも石油とは限らない場合もあります。石油より安価で入手性が良ければ石油以外の原料も使われます。
3.アセチルサリチル酸(アスピリン)の例
例えば、アセチルサリチル酸の例で説明します。アセチルサリチル酸は商品名をアスピリンといい、頭痛薬、鎮痛剤としてよく知られていますよね。バファリンにも含まれている成分です。もともとはヤナギの樹皮から抽出されたサリチル酸が痛み止めとして使われていたのですが、その副作用を抑えたものがアセチルサリチル酸です。
アセチルサリチル酸は化学合成で作られています。その作り方を参考までに以下の図で示しています。説明が面倒臭いと感じる人は、★まで読み飛ばしてください。
アセチルサリチル酸はフェノールという物質に炭酸ガス(CO2)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸(H2SO4)を使ってサリチル酸を作り、サリチル酸に無水酢酸を化合させて作ります。これらの原料のうち、炭酸ガス(CO2)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸(H2SO4)は石油ではありません。
フェノールはベンゼンという物質から作られます。ベンゼンはもともと石炭から作られていましたが、現在では石油から作られることが多くなっています。
無水酢酸はケテンと酢酸から合成されます。酢酸は酢の成分でから害はありません。ケテンはアセトンという物質から作られ、アセトンは石油からも作られますが、一般的には酢酸カルシウムの乾留工程で副生されるそうです(ウィキペディアから)。
★このように、合成医薬品は、非常に複雑な工程で作られ、その原料は何種類も用いられますが、そのうち一部で石油から作られたものが入っている場合もあるという状況です。
医薬品に石油由来の物が含まれているかどうかについては、このように製造工程をいちいち調べて、その原料がどこから来たかを調べなければわかりません。
石油由来の原料が使われていない場合もたくさんありますから、薬はすべて石油から作られているとは言えませんね。しかも、石油由来の原料が入っているとしても、それは原料のうちの一部に過ぎません。
ちょっと話がずれますが、サプリメントは石油とまったく関係のないものが多くあります。例えば コレステロール値を低下させ、血管障害を予防する。胎児や乳児の脳神経の発達を促進するといわれるDHAやEPAは、サプリメントとして例えばサントリーや味の素などから市販されています。
実はこのサプリメント、DHAやEPAそのものではなく、DHAやEPAを含んだ魚の油をカプセルにしたものなのです。当然、原料は石油ではありませんが、効果があればそれでいいわけです。
4.石油が原料の薬は危険なのか
では、石油由来の原料が使われていた場合、その薬は危険なのでしょうか。答えはノーです。
薬の化学構造がまったく同じなら、それが石油由来の原料から作られていようが、天然物から抽出したものであろうが、まったく同じです。石油から作られたから危険とか、天然物から抽出したから安全ということは一切ありません。
なぜか。それは、同じ化学構造であれば、その作り方が合成であろうが、天然物の抽出であろうが、人間の体はどちらも全く区別がつかないからです。人間の体は、化学構造が同じなら同じように反応します。
食品表示法では食品に原材料名を記載することになっていますが、それはどうしてでしょうか。それは、食品の場合は単に原材料が混ざっているだけだからです。
例えば、砂糖が含まれていれば、甘く感じ、塩が含まれていればしょっぱく感じます。それは砂糖が甘いからであり、塩がしょっぱいからです。つまり原材料の性質がそのまま、食品の性質に引き継がれます。
あるいは、原材料に大豆を使っている場合は、大豆アレルギーのある人はアレルギー反応を起こすことがあります。それは大豆に含まれるアレルギー物質がそのまま、食品の中に入っているからです。
しかし、薬の場合は、石油由来の原料を使っているからと言って、石油の性質がその薬に受け継がれることはありません。それは、単に石油が混ざっているわけではなく、化学反応を起こした結果、薬の化学構造になっているからです。石油のもとの性質はまったくなくなり、薬としての性質に完全に変わってしまいます。
つまり、食品の場合は原料の混合物ですから、原料の性質が残ります。しかし、薬の場合は化学反応によって化合物になっていますから、ものと原料の性質はまったく残りません。混合物と化合物の違いです。
だから、薬が何から作られたかを表示しても意味がありません。
5.薬は用法、用量を守って安全に
薬は、はじめは天然物から抽出されてきました。中には非常に高価でお金持ちしか使うことができない薬もありました。しかし、その化学構造が明らかになり、人工的に合成されるようになると、価格が劇的に低下し、一般の人々もその薬を使えるようになってきました。その結果、命を救われた人の数は数えきれないでしょう。
薬の化学構造は非常に複雑で、合成することはとても難しいのですが、化学者たちが知恵を絞ってその化学合成方法を発明し、今日では多くの医薬品が化学合成で作られています。
(私は大学で化学を学びましたが、大学の研究室の中でも合成化学をやっている人たちというのは、できるだけ難しい化合物を合成することに生きがいを感じる人たちです)
その原料の中にはもともと石油だったものもありますが、合成されてしまうと石油の性質はまったくなくなり、医薬品としての性質に完全に変わっています。石油だから危険とか、天然物だから安全とか言うことは全くありません。
ただし、薬というものは必ず副作用があります。「薬と毒は同じものである。違うのはその量だけである」という有名な言葉があります。原料が石油だろうが、天然物であろうが効き目は同じですが、副作用も同じです。むやみに薬を使うと、その薬の原料が何であろうが危険であるということは同じです。
2022年3月23日改訂
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と、言っても やっぱり天然物がいいな
石油を掘る為に、大量の二酸化炭素が出てるもんね
ブンババさん、コメントありがとうございます。
「やっぱり天然物がいいな」
私もそう思います。でも純粋な天然物となると漢方薬くらいしかないしね。
薬は石油でなくてもいろいろな原料から作られています。
アメリカのPDRには、純粋な天然物のサプリが記載され、医師が処方してますね。
カラダについて考えるのは大切!
貴重な投稿をありがとうございます。
貴重な情報ありがとうございます。
アメリカのPDR、さっそく検索してみました。ものすごい情報量ですね。さすがにアメリカ。参考にさせていただきます。
ビタミンたっぷりの野菜や果物をたくさん食べてもオシッコは黄色くならないけど
ビタミン剤を飲んだ後はオシッコが凄く黄色くなるのはなぜ?
天然のビタミンと合成のビタミンの違いを人間の身体が判別しているからではないのですか?
記事を読んでくれてありがとうございます。また興味深いご質問感謝します。
私も時々アリナミンのようなビタミン剤を飲みますが、オシッコが黄色くなりますね。これはオシッコにビタミンB2が混じるからなのだそうです。ビタミンB2はそれ自体が鮮やかな黄色をしていますから。
ビタミンB2は、必要とされる量(1㎎~2㎎)より多く摂取すると、余剰分がオシッコとして排出されるのでオシッコが黄色くなります。
例えばアリナミンに含まれるビタミンB2は1回3錠飲んだとして12㎎ですので、それだけで余剰になってオシッコが黄色くなります。
一方、野菜、たとえばホウレンソウ100gに含まれるビタミンB2は0.2㎎、果物、たとえばレモン100gに含まれるビタミンB2は0.07㎎しかありません。
野菜や果物はビタミンたっぷりと思われているかもしれませんが、意外に少ないのです。だから必要量を超えないのでオシッコは黄色くならない。(というかビタミン剤のビタミン量が無茶苦茶多いということ。)
オシッコが黄色くなるかならないかは、人間の身体が天然のビタミンとビタミン剤のビタミンを判別しているわけではなく、単に量が多いか少ないかということのようです。
石油は人間が作り出したとても体に悪い人工物という認識がそもそもおかしい。
石油も地球に存在する天然の物質であり、自然そのものだ。
自然界にはとても体に悪くて口にしたら死んでしまう毒だって数多くある。
自然=体にいい、石油=自然ではなく体に悪い、なんていうおかしな思い込みを正すべき。
そもそもさん 記事を読んで下さってありがとうございます。
おっしゃる通りだと思います。
石油からできているから危険、天然物だから安全という思い込みが世の中に浸透しているのでしょうか。
また、薬は石油からできていると思っている人が意外に多いと感じますが、石油はそれほど万能じゃありません。
科学的な視野を持ってモノを一つ一つ考えることをせずに
ごく僅かの情報から結論ありきで思い込み誤情報を信じてしまう。
デマやら陰謀論やらを信じてしまう人の思考は
「何かを疑って、真実を知る」つもりになっているだけで
むしろその真逆で、くだらないことをすぐに信じて
真実どころか適当な情報に右往左往しているだけだと感じますね。
細かいことを端から端まで調べる人なんて皆無です。
ただ適当な情報を流している人の情報を
感情的になってうなづいているだけ。
ナンシーさん 記事を読んでいただいてありがとうございます。
最近、特にSNSが発達して、いろいろな情報が飛び交うようになってから、何が真実で、何がウソかを見極める能力が非常に大切になっているように思います。
特にエコーチェンバー現象やフィルターバブルによって、真実よりも、自分が信じたいことや自分の価値観に合致した意見が増幅される傾向があります。これは危険なことだ最近思っています。
それでも石油由来の化学合成物質は、化学反応としては問題なくても生物の体内で問題なく働くかは疑問の余地がありますね。
通りすがりの不可知論者さん コメントありがとうございます。
そうでしょうか。例えば、天然物由来の化合物と化学的に同じ化合物を石油から作った場合、両者を分析しても全く同じで区別がつきません。区別がない以上、体内でも同じ働きをするでしょう。化学的に同じ物質は石油でなくても石炭でも石灰岩でもダイヤモンドでも空気(の中のCO2)でも作ることができますが、その由来をいちいち体内で区別しているとは思えません。体内では同じ物質であれば同じ反応を起こすと考えていいと思います。そもそも石油だって太古の生物が地中に沈殿してできた物ですし。
ただ、精製が不完全で不純物が含まれる場合、その不純物の種類が天然物由来のものと石油由来のものでは違っている可能性があります。そういう場合は、不純物がいたずらをするという場合は考えられます。
誰が書いたか、わからない記事で、無知で、騙す意図が見え透いてる。
無知な多くの日本人なら騙せると思ってる。
アブドゥッラーさん。コメントありがとうございます。
>誰が書いたか、わからない記事で…
これは私のブログですから、私(財部)が書いた記事に決まっているでしょう。自己紹介欄に私のプロフィールを書いてありますから、ご確認ください。
>無知な多くの日本人なら騙せると思ってる。
残念ながら日本人は無知ではありません。騙そうとしても騙されませんよ。