「水と触媒だけで水素を製造する」、「化石燃料を一切使用せず、完全CO2フリーの水素製造」と謳った会社 (ハイドロゲンテクノロジー社)のネット広告を、最近よく見かけるようになりました。
ただ、それがどのような技術で水から水素を製造しているのか、ホームページをみても説明がありません。水に触媒を反応させて水素を取り出し、冷却、洗浄、貯蔵を行う 云々と書かれていますが、どのような触媒を使うのか、どんな反応条件なのかという詳しい説明はありません。
ここでは、CO2を発生させず、また電気分解にもよらずに水から直接水素を作り出す方法について、どのような方法があるのか考えてみたいと思います。
ただし、ここで掲げた方法が、この会社が採用している方法であると言っているわけではありません。
① 金属と水の反応で水素を取り出す
ある種の金属は水と直接反応して水素を発生しますので、この反応を使う方法がまず考えられます。
アルカリ金属のリチウムLi、カリウムK、ナトリウムNaやアルカリ土類金属のカルシウムCaは水にポチャンといれるだけで、ぶくぶくと水素が発生します。触媒も不要です。ただし、できた水素が反応熱によって発火してしまうことがあるので、水素を取り出すなら、酸素のない条件で行う必要があります。
マグネシウムMgやアルミニウムAlは冷水とは反応しませんが、熱水や、水蒸気とは反応して水素を出します。Mgは鉄触媒を表面に付着させると、冷水でも水素を発生させることができます。
ただし、いずれの金属を使っても水素を発生すると同時に、使用した金属が水酸化物になって水に溶けていってしまいます。
② 金属と酸の反応で水素を取り出す
亜鉛Znや鉄Fe、ニッケルNi、スズSn、鉛Pbは、そのまま水とは反応しませんが、水に硫酸や塩酸に入れてやると水素が発生します。これは高校の理科の実験で行われる方法です。
この場合、使用した金属は硫酸塩や塩化物に変わっていき、やはり水に溶けていきます。
③ 光触媒を使う
水中に懸濁させた光触媒に光を当てると、水が分解されて水素が発生します。光が光触媒に当たると触媒内に励起電子と電子の抜けた正孔ができ、それぞれが酸化と還元反応を起こして水を分解して水素と酸素を作り出すとされています。
この場合、ここで使われる光触媒そのものは変化しません。①や②で述べたように金属が水酸化物や塩化物に代わって水に溶けていくことはありません。ただし、光を当てることが必要です。
④ 高温で水を分解する
4000℃まで加熱すると水は分解して水素と酸素に分かれます。実際は様々な工夫をしたり、触媒を使ったりして分解温度を数100℃まで下げることができます。ただ、水が分解すると温度が下がっていくので、温度を維持するために外部から熱を加えてやる必要があります。
⑤ 機械力で水を砕く
岐阜薬科大学の薬品化学研究室では、様々な材料を粉砕するときに使われるボールミルという粉砕装置で水を砕くと水素が分離してくることを見出したと発表しています。水素と同時に発生する酸素はボールミルを構成する材料が酸化物となることによって除去され、水素だけが取り出されるということです。
結局
①や②の方法(金属を使う)では、水素発生に伴って金属が水に溶けていきますので、全部溶けてしまえば水素の発生は止まります。溶けた金属を回収して再生することは可能ですが、そのとき大量のエネルギーが必要となるので、使用した金属は使い捨てすることになるのではないでしょうか。
ただ、この方法なら非常に簡単に水素を取り出すことができるので、燃料電池と組み合わせて緊急時の電力供給や化学プラント等で簡易に水素を得たいというときに使うという、用途があるでしょう。
ちなみに水素水を家庭で作る水素水サーバーというものが市販されていますが、その水素水を作る方法としてMgが使われているものがあるようです。
(水素水については老化防止や、様々な疾病の予防効果などが得られるような表示されている例がありましたが、消費者庁から根拠がないと指摘されています)
③の方法(光触媒を使う)では、①や②のように使用した金属や触媒が変化することはないので、半永久的に使うことができます。ただし、太陽光の当たる昼間しか水素を作ることができないので、夜間に使いたいときは、水素をどこかに貯めておくことが必要となります。
④の方法(高温で分解する)は反応が進むにつれて温度が下がってくるので、常に外部から熱エネルギーを与えてやる必要があります。したがって、工場の廃熱を使ったり、あるいは太陽熱を使ったりできる場合には有効な方法ではないでしょうか。
⑤の方法(機械力で水を砕く)は、もう少し研究が進むまで様子見かな?と思いますが、事実と確認されれば画期的な発見ですが。
「水と触媒だけで水素を製造する」と宣伝する企業が目についたので、一体どんな技術が使われているのか、いろいろと可能性をリストアップしてみました。この企業がこれらの方法のどれかを使っているかもしれませんし、使ってないかもしれません。
今後、水素社会の実現が期待されています。ここで使用する水素は主に再生可能電力を使って水の電気分解で作られることになるでしょう。水素社会の進展に伴って水素の利用技術が進めば、これらの技術が使えるかもしれません。
特に、③の光触媒を使う方法は本多・藤嶋効果という日本発祥の技術(いつもノーベル賞候補に挙がっている)であり、今後の技術開発を期待したいところです。
2021年5月22日
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これからの未来を決定づける出来事のトップにHT会社のグリーン水素の実用化を採用された、これからの、
火力発電所のグリーン水素が利用開始(東北電力)グリーン水素=水素 グリーン化学=アルカリ液を製造
今後の対応は火力発電所の燃料(石油・石炭・天然ガス)に水素を混ぜて発電する。情報はまだまだこれからの
発表が楽しんですね。
むっちゃんさん コメントありがとうございます。
HT社については昨年4月にイーレックス社とともに富士吉田で水素発電所の運転を開始したと報道されましたが、その後、まったく報道がありません。HT社とイーレックス社のプレスリリースも昨年4月以降、水素発電所の件はまったく更新されていません。
水素の製造には火成岩(黒曜石やかんらん石)と水を反応させるということですが、その火成岩を使い果たしたらどうなるのか知りたいのですが、情報がありません。HT社にご期待されているのようですが、こういう状況ですので、私は正直、期待していません。
水素を取り出す火成岩が資源として利用可能であれば一種の水素資源ですが、なにか問題があるのかもしれません。
なお、東北電力のグリーン水素については、HT社とは関係がありません。