今年4月23日、北海道知床沖で遊覧船KAZUⅠが沈没するという事故が起こった。この記事を書いている時点で、乗員14名が遺体で見つかり、12名がいまだに行方不明である。
事故原因については、これから本格的な調査が始まるだろうが、強風波浪の中を出港したことに非難が集まっている。波やしぶきが船に打ち付け、開口部から海水が入り込み、その重みで沈没したのだろうか。あるいは、船底に3か所の穴が開いているということから、航行中に何かが衝突して穴や亀裂が生じたのか。あるいは過去の衝突事故の修理に不備があったのか。
実は、事故を起こした観光船KAZUⅠはプラスチック製だ。プラスチック製といっても、プラスチックをガラス繊維で強化したFRPと呼ばれる物。この記事ではFRPとはどんなものかを簡単に紹介したい。
FRPは繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)の略である。繊維とプラスチックを混ぜ合わせて固めた物。繊維としてはガラス繊維が使われることが多いが、炭素繊維や各種の合成繊維が使われることもある。ガラス繊維はその名のとおり、ガラスを繊維状に引き延ばしたものだ。
一方のプラスチックの方だが、これはエポキシ樹脂やフェノール樹脂が使われる。プラスチックと言ってもポリエチレンや塩ビのような、熱すると溶ける、冷えると固まるという熱可塑性樹脂ではない。通常は粘度の高い液体の樹脂だが、硬化剤という薬剤を加えると、分子同士が結合し合って、網目状のさらに大きな分子となって固化する。
成型するときは、あらかじめ作っておいた型にシート状のガラス繊維を張り付けておき、これにプラスチックと硬化剤を混ぜ合わせたものを浸み込ませていく。時間が経つと固まるので型を外して出来上がりだ。
プラスチック自体は軽くて加工が容易であるが、脆くて衝撃に弱いという欠点がある。FRPなら繊維がプラスチックの脆さを改良して強靭な材料とすることができる。
例えば、プラモデルはポリスチレンというプラスチック製だ。これを金づちでたたけば、壊れてばらばらになってしまうだろう。もしこのプラモデルをFRPで作ったらどうなるか。金づちでたたけば壊れるが、柔軟性のあるガラス繊維がプラスチックの飛散を食い止めるからへこみはするが、ばらばらになることはない。ただし、亀裂は入るだろう。
もしプラモデルを金属のブリキで作ったらどうなるか。金づちでたたくと、へこんでしまうが、もちろんばらばらになることはない。余程激しくたたかない限り亀裂も入らない。
このようにFRPはプラスチックだけの場合に比べて、衝撃には強い。ただし金属に比べれば脆くて、亀裂が入りやすい。
FRP船の船体に、浮遊物や岩礁など何か堅いものが衝突すれば、その部分はへこむだけでなく亀裂が入ることがあり、そこから海水が侵入することはありうる。また、KAZUⅠは今回の事故を起こす前に2回も衝突事故を起こしている。このときFRP製の船体はばらばらにはならないだろうが、へこんだり、亀裂が入ったりしているだろう。寒冷地では亀裂に水が入り込み、その水が凍結、融解を繰り返して亀裂を大きくしてしまう可能性も指摘されている。
これから、この事故の原因が究明されていくだろうが、このような事故が繰り返されないように、万全の対策を取ってほしい。
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