EV(電気自動車)はエコじゃない? ネット知識は間違いだらけ

欧州連合(EU)は昨年(2022年)10月、2035年までにCO2を排出する新車の販売を禁止すると発表した。これを受けて、日本のマスコミやネット記事あるいはユーチューブなどで様々な形でEV化が取り上げられている。

中には、全部EVにするなんて不可能だとか、そもそもEVはエコじゃないとか、EUは狂っているんじゃないのとか、トヨタつぶしのための陰謀だとか、様々な意見が飛び交っている。

しかし、その多くはちゃんとEVという物を理解していなかったり、事実を間違って理解しているものや、既に時代遅れになった「常識」を振り回していたりするものも多い。この記事では、そういったネット知識の間違いのいくつかを指摘してみたい。

目次

EUは2030年にガソリンエンジン車を使用禁止にする?

冒頭述べたように、EUは昨年(2022年)10月にCO2を排出する新車の販売を禁止すると発表している。これを受けてEUは2030年にガソリン車を使用禁止にするという話がネット上に飛び交っているが、これは間違いである。

まず、昨年EUが発表した内容をきちんと確認してみよう。この発表の内容は要約すると以下のとおりだ。

・2035年までにCO2を排出する乗用車および小型商用車の新車販売を禁止する
・2030年までに2021年比で乗用車で55% 、小型商用車で50%のCO2排出量を削減する

まず、誤解されているのは、ガソリン車やエンジン車を全面禁止するとは、EUは一言も言っていないことである。対象は「CO2を排出する車」である。これは驚いたことに大手新聞の記事でも「ガソリン車禁止」のように間違って報道されている。

「CO2を排出する車」が対象なのだから、新車の販売が禁止されるのはガソリン車だけでなく、ディーゼル車も禁止になる。一方、EVだけでなくFCV(燃料電池車)や水素エンジン車もCO2を出さないから販売禁止にはならない。

また、新車の販売を禁止するということであり、ガソリン車に乗ってはいけないという話ではない。例えば中古車販売はかまわない。しかも、販売が制限されるのは乗用車および小型商用車で、大型のトラックやバスは含まない。

販売禁止の期限は2035年であり、2030年ではない。2030年はCO2削減目標である。つまり、7年後ではなく12年後。ちなみに、東京都は2030年に電動車(HV車を含む)以外は新車販売を禁止する目標を発表しているので、これと混同されているのかもしれない。

EVの電気は火力発電所で作られるのでエコじゃない

EVは電気で走るから確かに走行時はCO2を出さない。しかし、その電気を作るのに火力発電所で石炭や天然ガスを燃やしているから、このときCO2 が発生する。だからEVを導入してもCO2削減にならないと主張するネット記事もある。これはもう20年くらい前から言われていることなんだが、確かに昔はそうだった。しかし、今だにそんなことを言う人はさすがに時代遅れということだ。

火力発電所でCO2が発生するのなら、火力発電を使わずに太陽光や風力や水力などで作った電気を使えばいいのだ。つまり再エネである。いやいや、再エネなんて火力発電に比べればゴミみたいなもん。そんなものに頼っていられないという人もいるが、これも時代遅れ。時代は変わっている。発電量に占める再エネの割合はどんどん上がっているのだ。

現在、日本では全発電量に占める再エネの割合は20%くらい。欧州では30%に達し、2030年には69%まで引き上げるのが目標だ。ガソリン車やディーゼル車の新車販売が禁止される2035年には、その比率はもっと上がっているだろう。

下の図は米国のローレンスバークリー研究所などが試算した日本の電源構成予想だが、2035年に火力発電が占める割合はわずか10%にまで下がる。残りは原子力20%。そのほかは全て再エネ。いずれも発電時にCO2を排出しない電源だ。

K.Shiraishi et al. ”2035 Japan Report” lbnl report(2023)

もちろん、これは予測だから必ずそうなるとは言えないものの、「EVで使う電力は火力発電で作っているんだろう。そんなら、火力発電で使う燃料でそのまま自動車を走らせた方がエコじゃないか」という主張はもう通じないということだ。

それより、電力の再エネ比率がどんどん上がっているのに、自動車が相変わらずガソリンや軽油で走っていたら、いつまでたってもカーボンニュートラルは達成できないということになる。

EUがe-fuelの使用を認めたのは、EV化は間違いだと気が付いたからだ

2035年以降、CO2を排出する自動車の新車販売を禁止するとEUが発表したあと、ポルシェなど主にドイツのカーメーカーがe-fuelを専用に使用する車ならガソリン車の新車販売を認めろと訴え、EUもこれを認める決定をした。これを受けて、やはりEUもEVでは無理だとようやく気付いたかとか、EUはEV化をあきらめて方向転換したという主張がみられる。

e-fuelとは、空気中のCO2と、水を電気分解して作った水素を原料として作られたガソリンのことだ。これを使えば、自動車の走行時にはCO2が発生するが、そもそもe-fuelは空気中のCO2を原料として作られたガソリンなので、燃やしても空気中のCO2濃度を増やさない。だからCO2を排出しないのと同じことだというのが、ポルシェ側の主張であり、EU側もそういえばそうだよねと認めた形となった。

しかし、そもそもEUは2035年以降に販売される車はすべてEVにしなさいと言っているわけではなく、CO2を排出しない車にしなさいと言っているのだ。だからe-fuelもCO2を排出しないといわれれば、そのとおりだと認めざるを得ない。決して、EV化が無理だと悟ったわけでも、方向転換したわけでもない。

ちなみに、EUは水素自動車やFCV(燃料電池車)もCO2を出さない車として2035年以降も販売を認めている。例えば、もし将来量子エンジン自動車のようなCO2を出さない車が登場すれば、これも2035年以降も販売が認められることになるだろう。

とはいえ、今のところCO2を出さない自動車といえば、EV以外は現実的ではないというのがEUの考えである。e-fuelの価格が劇的に低下しない限り、2035年以降の主流はやはりEVになるだろう。EUがEVをあきらめたとか、方向転換したという話ではない。

EUのEV化はEVに出遅れているトヨタを潰すための陰謀だ

出たよ、また陰謀論かよと思うが、ネット上ではまことしやかに論じられている。卓越したエンジン技術やHV技術を持つトヨタを排除するために、EV以外は販売禁止にすることがEUの目的であり、エコかどうかは関係ないという主張である。

EUは日本や米国と同じように、自動車排ガスについて規制値を設けて規制している。例えば、窒素酸化物や一酸化炭素、粒子状物質などだ。そして、その規制値は数年ごとに改正されて、少しずつ厳しくなってきた。もちろん、日本や米国のカーメーカーもこの基準に合致する自動車を開発してEU内で販売してきたわけである。 

そして、2009年にCO2排出規則というものが定められ、これによって自動車から排出されるCO2の量も規制されるようになり、その規制値も少しずつ強化されてきた。そして、ついに2035年以降はゼロにしなさいというのが、今回のEUの決定である。

つまり、EUがCO2排出量をゼロに規制することは随分前から予想できたことなのだ。当然トヨタもホンダも日産も知っていただろう。だから、かれらも準備をしていたはずだ。もし、それをやってないというのなら、やらなかった方が悪い。

ところで、世界で初めてHVを実用化したのはトヨタだ。そもそもハイブリッドというのは組み合わせの意味で、HVはガソリン車とEVの組み合わせ。だからトヨタはEVでも進んでいると言っていい。HVで培ったバッテリーやモーター技術はそのままEVでも生かせるはずだ。もしEUがトヨタを潰したいと思ったらEVではなくて、トヨタが不得意とするディーゼルで攻めてくるだろうし、実際そのつもりだったのだ。

ところが、例のディーゼル不正事件で、目論見が頓挫、一気にEVが加速されたという経緯はある。もちろんEUが地域内の産業を外国企業より優先したいという思惑がないこともないだろう。が、やはりEV化は時代の流れ、ずいぶん前から決まっていたことなのだ。

ただ、怖いのはトヨタ自身がHVの成功体験から抜け出せず、EVに乗り遅れることだ。まだ石油の時代が続くという幻想から抜け出させなければ、怖いことになる。ディーゼル不正で失敗したVWは完全にEVに舵を切っている。

ところで、EVで使われるリチウムイオン電池(LIB)は日本人、吉野博士が発明した。ノーベル賞ももらっている。が、残念ながら現在のLIBの主な生産国は中国と韓国だ。

次の課題は全固体電池の開発だ。これが完成すればEVの性能も安全性も飛躍的に向上するからEV界のゲームチェンジャーになる力を持っている。そしてこの全固体電池の開発で世界をリードしているのが実はトヨタなのだ。この技術が完成すれば、トヨタは世界でも有数のEVメーカーになれる。EV化はトヨタにとってむしろチャンスかもしれないのだ。

EV化するとガソリンが余って捨ててしまうのでエコではない

石油を精製するとガソリンや灯油、軽油、重油などが一定の割合でできてしまい、調整が効かない。ガソリン車を廃止するとガソリンが余って捨てざるを得ないのでかえって環境に悪い。という主張が見受けられるが、これも間違い。

まず、EUはガソリン車禁止と言っているわけではなく、CO2を排出する新車の販売を止するといっている。だから、ガソリン車だけでなくディーゼル車もCO2を出すから禁止ということになる。日本では乗用車といえばガソリン車だが、欧州ではむしろディーゼル車の方が主流なのだ。だから余るのはガソリンだけでなく、軽油も余る。

あとは灯油だが、灯油は主に家庭用暖房やジェット燃料として使われている。しかし、暖房はヒートポンプエアコンが主流となってきてくるだろうから、将来は灯油も余る。ジェット燃料はSAF(持続可能航空燃料)と呼ばれるバイオ燃料に切り替わっていくだろう。重油についても、もともと需要が少なくなっているうえ、これもやがてはバイオ燃料や電気に代わる。

つまり、ガソリンだけが余るのではなく、将来は軽油も灯油も重油も余る。結局石油産業自体がフェードアウトしていくことになるから、ガソリンだけが余るということではない。もちろん余ったから捨ててしまうなんて乱暴なことはありえない。

ちなみに、石油から作られるのは燃料だけではない。プラスチックや合成繊維なども作られているが、これも原料はバイオマスに代わって行くだろう。あるいは、回収されたプラスチックを再利用(ケミカルリサイクル)するかだ。

蓄電池を作るために必要なリチウムが枯渇するからEV化は不可能だ

EVに使われる蓄電池はリチウムイオン電池である。名前のとおりリチウムが使われるが、リチウムは希少資源で、すぐに枯渇してしまう。だからEV化は無理だという主張がある。

まず、大きな間違いはリチウムはレアメタルではあるが、必ずしも希少な資源ではないということだ。リチウムは地球上には比較的豊富に存在し、全元素の中で27 番目に多い元素なのだ。むしろ鉛や亜鉛よりも存在量は大きい。

ただリチウムはガラス、セラミックス、グリースなど使われてきたものの、今まではそれほど大きな需要がなかった。ところが、ここにきて電池用の需要が急に大きくなったので生産が間に合わず、一時的に価格が高騰しているという事実はある。しかし、枯渇するという話ではない。

それよりもリチウムイオン電池にはコバルトが使われることがあり、コバルトも枯渇することはないが、毒性が強いので、こちらの方が厄介かもしれない。

一般に鉱物資源はみんなそうなのだが、資源を取りすぎたため枯渇したという例はない。石油だってあと30年で枯渇すると言われ続けて50年。いまだに枯渇する兆しは見えない。鉱物資源は足りなくなれば、値段が上がる。値段が上がればみんな血眼になって鉱脈を探す。すると、鉱脈が見つかって値段が下がるというサイクルを繰り返す。

だからやがてリチウムも新しい鉱脈(リチウムの場合は塩湖のかん水からも採取される)が見つかって価格は安定するだろう。

また、リチウムは海水中にも存在しており、その総量は2兆6,000億トンにもおよぶ。海水からリチウムを採取する技術の開発が現在進められており、これが完成すれば、わが国は海に囲まれているため大変有利となる。

コバルトについては使用量を少なくする研究も進められており、またコバルトの代わりに鉄を使う方法も実用化されている。コバルトはどんどん使われなくなっているのが現状だ。

また、リチウムの代わりにナトリウムで代用する電池も考案されている。ナトリウムは食塩の成分であるから、これは無尽蔵だ。この場合はリチウムイオン電池ではなくてナトリウムイオン電池ということになるけれど。

EVは製造時に大量のCO2を排出するのでエコではない

これもアンチEV派がときどき主張する話である。しかし、じゃあEVの製造時にどのくらいCO2を排出するのかという話は、ほとんど出てこない。EV製造時に大量のCO2を排出するからエコじゃないという定性的な話ばかりだ。

製造時から使用時そして廃棄されるときまでを含めてどのくらいのCO2を排出するのかをちゃんと数字で積み上げた研究をライフサイクルアセスメント(LCA)という。LCAは非常に多くのデータを解析しなければならないので、結構厄介な仕事なのだ。

LCAによると、EVの製造時に排出されるCO2はガソリン車を製造するときよりも確かに多いが、走行時はガソリン車の方が断然多くなる。そのため、車の走行距離が長くなると、製造時のCO2排出量は帳消しになったうえ、ガソリン車のCO2排出量の方が多くなる。

下の図はミシガン大学のマックスウェル・ウッディらによって調査されたEVとガソリン車のCO2排出量の比較であるが、走行距離が延びるにしたがってガソリン車の方のCO2排出量がEVを上回ることになる。

ウッディらによると、だいたい2万マイル(3万2,000km)走れば、ガソリン車の方がEVよりCO2の発生量が少なくなる。車の寿命までに走る距離は10万から15万kmといわれているから、LCAで考えればEVの方がCO2発生量は断然少ないことになる。

Maxwell Woody et al 2022 Environ. Res. Lett. 17 034031

なお、EV製造時に排出されるCO2は、主にバッテリー製造時に大量の電力を消費し、その電力が火力発電所から供給されるという前提で計算されている。しかし、これから電力が再エネで供給されるようになれば、EV製造時に発生するCO2の量も小さくなっていくから、CO2排出量はEVの方がさらに少なくなっていく。

最後に

今回はEUの発表を機に、さまざまな間違いだらけの記事がネット上には挙げられていることを取り上げた。それとは関係なく、日本でも米国でもほぼ同様の時期にCO2を排出する自動車の新車販売が規制されることになるだろう。それは各国とも2050年にカーボンニュートラル(CN)を達成することを公約しているからだ。

車の寿命が15年とすると、2050年にCNを達成するためには、その15年前、すなわち2035年にはCO2を排出する車の新規販売を禁止しなければならないということになる。一方、EVの技術、特にバッテリーの技術は大きく進歩しているし、電力に占める再エネ比率もどんどん増えていっているから、EV化が進んでいってもぜんぜん不思議ではない。

2050年頃には、ガソリン車やディーゼル車は博物館に行かなければ見られない。ということも十分ありうる。いつまでもEVは実現しないなどというネットの記事を信じていると、それは時代に取り残されるということだ。

2023年10月16日

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