バイオエタノールの製造コストとCO2削減効果 脱炭素効果はEVより優位

深刻化する地球温暖化への対策として脱石油、脱炭素化の動きが活発となってきている。そして脱石油対策のひとつとして期待されているのがバイオエタノールだ。

バイオエタノールはガソリンと同様に自動車エンジンの燃料として使うことができるし、インフラや自動車自体も現在のものがそのまま、あるいは小規模な改造で使うことができる。そして、原料はトウモロコシやサトウキビだから燃やして発生するCO2は空気中のCO2濃度を増やさないとみなされる。つまりカーボンニュートラルな燃料である。

トウモロコシの収穫風景

その製造方法はすでに確立しており、実際に海外では大規模に製造され、かつ実際に使用されている。しかも安価であるから、気候変動対策としては即効性がある。

このような良いことずくめのバイオエタノールであるが、その製造コストと実際のCO2削減効果はどうであろうか。地球温暖化対策としてさまざまな方法が開発されているが、コストが高すぎたり、効果があまりなかったりすれば、実用化は無理であろう。

この記事ではバイオエタノールに関して、この二つ、製造コストとCO2削減効果についてまとめてみた。

バイオエタノールの製造コスト

バイオエタノールの製造コストについてはアメリカRFA(再生可能燃料協会)の委託を受けてまとめられた「2023年のアメリカ経済に対するエタノール産業の貢献」という論文※に示されている。
※ J. M. Urbanchuk “Contribution of the Ethanol Industry to the Economy of the United States in 2023” ABF Economics (2024)

この論文で示されたコストはアメリカのバイオエタノール産業全体がバイオエタノール製造のために支出した費用を取りまとめたもので、それが次の表である。これに筆者がバイオエタノール1リットル当たりの費用を円換算したものを付け加えている。

これによると、バイオエタノールの製造コストは2.50ドル/ガロン。これを1ドル=145円、1ガロン=3.785リットルで計算すると、95.8円/リットルとなる。一方、2023年のアメリカのガソリン販売価格は3.52ドル/ガロン(134.8円/リットル)であったからバイオエタノールはガソリン価格よりむしろ3割ほど安いことになる。

ただし、バイオエタノールの持つエネルギーがガソリンの6割ほどしかないことを考えると、この3割安という価格は打ち消されてしまうが、それでもガソリンと十分対抗できる製造コストといえるだろう。

製造コストの内訳をみると、なんと80%以上が原料費、すなわちトウモロコシの購入費である。その次に大きな支出となっているのが天然ガスや電力、用水などのユーティリティで8.2%、酵素、酵母、その他の薬品類が3.1%。その他の費用の割合は小さい。

現在、アメリカで生産されるトウモロコシの約4割がバイオエタノールの原料となっており、またバイオエタノール製造時の副産物としてDDGSのような飼料なども生産されることから、バイオエタノール産業はアメリカ農家の大きな収入源となっている。

バイオエタノールのCO2削減効果

バイオエタノールを燃料として燃やして発生するCO2は、もともとその原料となるトウモロコシやサトウキビが成長時に空気中のCO2を吸収したもので、それ以上のCO2が排出されることはない。したがって、バイオエタノールを燃焼させても空気中のCO2濃度を増やさない。つまりカーボンニュートラルである。

ただし、それはバイオエタノールを燃やした時に出てくるCO2についてのみ成り立つことであり、バイオエタノールの製造や輸送時、原料作物の収穫などにおいて化石燃料が使われた場合、このとき排出されるCO2はカーボンニュートラルではない。また、作物栽培時に化学肥料が使われるのなら、その肥料を製造するときに大量のCO2が排出されることが知られている。

バイオエタノールの原料栽培からはじまり、製造、輸送、使用、さらに化学肥料の製造工程などまで遡ってCO2などの温室効果ガス(GHG)発生量をまとめたものをライフサイクルGHG排出量(LCGHG)という。この数値が大きければ、バイオエタノールのカーボンニュートラルとしての価値は大きく減ってしまうことになる。

このライフサイクルGHG排出量の算出方法ついては、資源エネルギー庁が「バイオエタノールの温室効果ガス評価算定マニュアル」というものを策定しているが、その結果については、次の表のようになる。(我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第10回)資料)

アメリカ産

ブラジル産

この表の現行規定値は2020年のもの、見直し案は2023年に再調査をおこなったものである。原料栽培から製造、輸送に至るまでのライフサイクルでの温室効果ガス排出量は、石油から作られたガソリンの場合88.74CO2/MJであるのに対してバイオエタノールの場合は最新の見直し案で、アメリカ産で36.86gCO2/MJ、ブラジル産で28.58 gCO2/MJとなっている。これはガソリンに対して、アメリカ産では58%、ブラジル産では68%の削減となる。

つまり、バイオエタノールはガソリンを使う場合に比べて、6割程度CO2排出量を減らせることになる。

なお、ブラジル産の方がアメリカ産よりGHG排出量が少ないのは、ブラジルではサトウキビの搾りかすであるバガスをボイラーで燃やして熱を回収し、その熱を有効利用しているからである。バガス燃焼は基本的にカーボンニュートラルであるから、CO2排出量は原則ゼロと考えられる。

また、バイオエタノールの製造時に使われていた化石燃料を電力に切り替えたり、肥料などの製造時のGHG排出量が減少したり、国際輸送時の燃費が向上したりなどの改善がみられた結果、アメリカ産、ブラジル産のいずれも、最新の値は2020年の算定値に比べて約15%の改善となっている。

バイオエタノールの脱炭素効果はEVより良好

ということで、カーボンニュートラルといわれるバイオエタノールを使用してもCO2削減効果はガソリン使用時に比べて、6割程度しかないわけであるが、一方で今後の導入が期待されている電気自動車(EV)の場合も完全にCO2を排出しないかといえばそうではない。

EVの場合はエネルギー源となる電力生産時のGHG排出量が問題となる。日本の場合、再生可能電力の比率は今のところ25%程度しかないから、EVのCO2削減効果は単純に考えて25%しかないことになる。ということであれば、CO2削減効果が60~70%もあるバイオエタノールの方がEVより断然、効果が大きいといえるだろう。

もちろん、発電部門での再エネ比率は今後、増えていくからEVの脱炭素効果も増えていく。一方、バイオエタノールもこの表で見られるように脱炭素効果が増えていく。いずれも地球温暖化対策としては有効な手段であるが、現在のところバイオエタノールの方が先行していると言えるだろう。

2024年10月20日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。