石炭火力は最新型でもCO2 がLNGの2倍も出てしまうという不都合な真実

4月28日から30日にかけてイタリア・トリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合で「温室効果ガス削減対策のとられていない石炭火力発電所は2030年代前半までに段階的に廃止する」という閣僚声明が取りまとめられた。

日本では全発電量に占める石炭火力の割合は、先進国の中でも最も高い。その廃止については日本も抵抗していたが、2024年4月末にイタリアのトリノで開いた「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」では、他国に押し切られた格好になった。

国内では、「日本の進んだ石炭火力技術なら、廃止しなくても目標を達成できる」とか、「日本の最新技術の石炭火力は温室効果ガスの対策済みなので、廃止する必要はない」などとの意見も聞かれる。

しかし、日本の石炭火力技術は本当にすごいのか。そして、日本の進んだ技術を取り入れた発電所なら廃止しなくても、1.5℃目標を達成できるのか。この記事では日本の火力発電技術の実力について検討してみたい。

LNGと同じ熱エネルギーを得るには2倍の石炭が必要

まず、なぜ石炭火力はこれほど悪者にされるのか。それは地球温暖化の原因となるCO2の排出量が多いからだ。ではなぜCO2をそんなに出すのか。

石炭は炭素集積度が高いので、これがCO2を大量に排出する原因だと言われることがあるが、実は石炭の炭素分はそれほど多くない。

石炭は真っ黒で、いかにも炭素のかたまりのようにみえるが、石炭には炭素だけでなく水素や酸素も含まれるため炭素分はそれほど多くない。一般炭で70~75%くらいだ。

これに対してLNG (液化天然ガス)に含まれる炭素の割合は75%程度あって、むしろ石炭より多い。このため、1kgの燃料を燃やして出てくるCO2の量は、石炭でもLNGでもあまり変わらないか、むしろLNGの方が多いくらいだ。

問題は発熱量である。石炭を燃やした時の発熱量はLNGの半分程度しかない。だからLNGと同じ熱エネルギーを得ようとすると、約2倍の石炭を燃やさなければならなくなる。それが、 CO2排出量が多くなる原因なのだ。 (発熱量あたりのCO2排出量で比較すると、石炭が0.0906tCO2/GJ、 LNGが0.0495 tCO2/GJ)

※GJ(ギガジュール、1ジュールの10億倍。ジュールは熱量や仕事量の国際単位)

石炭が不完全燃焼しやすいのもCO2増の要因に

もうひとつの原因は石炭が固体なので燃えにくいということだ。 LNGの場合、燃料は気体であるから空気と混ざりやすく、完全燃焼しやすい。しかし、石炭は固体だから空気と混ざらない。空気と接触する表面から順に燃えていくことになるので、燃えにくく不完全燃焼を起こしやすい。

昔の石炭炊きボイラーは黒煙がモクモクと出ていたが、この正体は燃え残った炭素だ。また不完全燃焼によって有毒な一酸化炭素も発生しやすくなるし、もちろん燃料の一部が燃えないわけだから得られる熱エネルギーも小さくなる。

現在では黒煙モクモクは許されないので、完全燃焼させるために、燃焼室へ大量の空気を送り込むことが行われる。空気を余剰に送り込めば、完全燃焼しやすくなるが、煙突から出ていく排気の量も当然増える。

そもそも空気中の酸素は2割程度しかなく、残りの約8割が燃焼とは関係ない窒素である。だからこの窒素はそのまま(一部は燃焼して有毒な窒素酸化物NOxとなって)煙突から出ていく。

このとき、石炭の燃焼によって発生した熱も、排気ガスが持っていってしまうため、使える熱量が減り、それを補うためにまた燃やす石炭の量を増やさなければならなくなって、さらにCO2の排出量が増えることになるわけだ。

このように、石炭は炭素分が多いわけではでないが、発熱量が低いことや、固体であるため完全燃焼しにくいという性質が原因となってCO2排出量が多くなる。日本の技術者たちはこのような不利な特性を持った石炭を使いながら、無駄なく石炭からエネルギーを取り出すための技術開発を進めてきたのである。

「石炭ガス化複合発電」は日本の得意技の一つ

石炭の燃焼効率を上げる方法はいくつかある。まず、石炭を砕いて小さな粒にして燃やす方法がある。小さな粒になれば空気と接触する面積が増えるから、完全燃焼しやすくなって燃焼効率が上がる。これは微粉炭燃焼といわれる。

あるいは、石炭を蒸し焼きにすることによって、ガスにして燃料させる。石炭がガスになれば、これは天然ガスと同じであるから空気と混ざりやすくなって燃焼効率は飛躍的に向上する。

また、石炭をガスにすれば、ボイラーではなくガスタービンで燃やして直接発電機を動かすこともできる。ガスタービンというのはジェットエンジンと同じものだ。さらにガスタービンで発生した排ガスの熱を使って高圧のスチームを作り出し、このスチームでもタービンを回して発電機を動かす。

つまり、石炭をガスにし、それをガスタービンで燃焼させてエネルギーを取り出したあと、その排熱を利用してスチームタービンを動かして、ここでもエネルギーを取り出す。こうやって、徹底的に石炭の持つエネルギーを利用する訳である。この方法はIGCC(石炭ガス化複合発電)と言われ、日本の得意技の一つである。

空気の代わりに酸素を使って燃焼させる方法もある。既に述べたように空気の約8割が窒素なので、これが熱を持ち去って行く。だから空気から窒素を取り除いて純粋の酸素にして燃焼させてやれば燃焼効率は上昇する。

「超臨界」「超々臨界」という石炭発電の最新技術

また、一般の発電所では石炭やLNGを燃焼させて高温・高圧のスチームを作ってスチームの流れを作り、この流れでタービンを回して発電する。この時、スチームの温度が高いほど発電効率はよくなる。

スチームの温度をどんどん上げていくと、液体でも固体でも気体でもない「超臨界」とよばれる状態となるが、さらに「超々臨界」と言われる領域まで温度を上げて発電効率を良くしようという技術も実用化されている。これはUSC(超々臨界発電)といわれる方法で、これも日本の得意技である。

日本の技術者達はこれらの技術を駆使して、石炭火力発電の効率を上げていった。世界の石炭火力発電の発電効率が30%台なのに対して、日本の場合は「40%」だ。発電所によっては45%に達しているものもある。そのレベルは世界一といっていいだろう。

石炭火力は最新型でもCO2 がLNGの2倍出る

発電効率が良くなれば、同じ発電量でも投入する石炭の量を減らせるからCO2 も減っていくことになる。日本の進んだ技術をもってすれば、石炭火力を廃止しなくてもCO2削減ができるという話は、こういうことだろう。

では、最新技術でCO2をどれだけ減らせるのか。分かりやすいのが下のグラフである。

図-1環境省「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について」から引用

この図は、1kWhの電力を産み出すために、何kgのCO2が排出されるかを示している。従来型の石炭火力発電所では0.87kgほど。これが、USCやIGCCと言われる日本が得意とする技術を使った発電所では0.8kgから0.73 kg程度まで低減される。ただし、残念ながらその低減率は8~15%ほどに過ぎない。

一方、 LNG火力のCO2排出量は、従来型で0.415 kg、GTCCといわれる最新型では0.32~0.36kgである。つまり、石炭火力は最新型でもLNG発電の約2倍ものCO2を出しているということになる。

理由は、石炭自身にある。冒頭述べたように、石炭の問題は発熱量が小さいことと、固体であるがゆえに燃焼効率が悪いことだ。日本の技術は後者、つまり燃焼効率の改善において優秀な技術を開発してきたのだが、発熱量が低いという方はどうしようもない。これは石炭という燃料の特性なのだ。

CCSも高コスト、安価な石炭のうまみが消える

ではもっとCO2排出量を減らす技術はないのか。これについては「CCS(二酸化炭素の回収・貯留)と「アンモニア混焼」という2つの方法が考えられている。

G7の閣僚声明でも廃止の対象となるのは「温室効果ガス削減対策のとられていない石炭火力発電」なのだから、 CCSやアンモニア混焼が温室効果ガス削減対策と認められれば廃止の対象から外れることになる。

CCSは発電所から排出されたCO2を回収して土の中に埋める(貯留する)という方法だ。石炭が燃えてCO2が出てきても大気中に排出しなければいいのだ。実はCO2の回収技術においても、日本の技術は世界的にもトップクラスだ。

しかしながら、CO2の回収には費用がかかる。かかった費用は電気料金に上乗せされることになるから安い石炭を使ううまみがなくなってしまう。また、日本のような断層の多い国では貯留したCO2が漏れ出すという危険があるため、具体的なCO2貯留場所の選定が難しいという問題もある。

アンモニア混焼は、石炭専焼よりCO2が多い

もう一つの方法として日本が期待しているのがアンモニアを石炭に混ぜて燃やすという方法である。アンモニアは炭素分がゼロなので燃えてもCO2は排出されない。だからアンモニアを混ぜた分だけCO2の排出量を減らせることになる。これは日本独自の技術である。

しかしながら、アンモニアの原料は石炭や天然ガスであるから、アンモニアを製造する時点でCO2が排出される。それならアンモニアの原料である石炭や天然ガスをそのまま火力発電の燃料に使った方がむしろCO2の排出量は少なくなる。

それなら、ということで、海外で石炭を原料としてアンモニアを作り、発生したCO2はCCSを使って地中に埋め、製造されたアンモニアを液化して日本に運び、石炭に混ぜて発電するという方法も検討されている。しかし、こうやっていくつものステップを踏むと、そのたびにエネルギーが消費されて、使えるエネルギーがどんどん減っていってしまう。

しかも、この方法を実施するためには、巨額の費用をかけて新たにアンモニア製造プラントを作り、 CCSの設備を作り、アンモニアを液化するプラントを作り、さらに日本まで運搬しなければならない。そうまでして石炭火力発電に固執する必要があるのだろうか。

そもそも石炭火力は本当に安いのか

石炭火力発電は安価で発電量が調整できるというメリットがある。石炭は安価であるから発電コストも安い。そして電力需要に合わせて発電量を調整することができるという利点もあるといわれる。これはどうなのか。

コストについて言えば、必ずしも石炭火力は安いとは言えなくなってきている。この下の図は総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループが試算した2030年を想定した電源別の発電コストである。

環境省HP 「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」より

これで分かるように石炭火力発電が必ずしも安いとはいえない。この試算では石炭火力のコストはLNG火力や原子力、太陽光発電(事業用)よりも高いのだ。

もう一つの「電力需要調整機能」は、確かに重要な役割である。太陽光や風力は自然が相手だから需要に合わせて発電量を変えることができない。また、あまり知られていないが、原子力も需要に合わせて発電量を調整することができない融通の利かない電源だ。だから原発に頼ることもできない。

しかし、発電量の調整はLNG火力や水力でも行うこともできる。今回のG7閣僚声明でもLNG火力の廃止までは言及されていないから石炭火力を廃止しても、電力需要調整は当面はLNG火力が受け持つことになるだろう。

再エネという、豊富だが気まぐれな電源を賢く使う

日本は資源に恵まれていない国であるから、物を大切にする「もったいない精神」の国である。その例のひとつが石炭火力発電だ。輸入してきた石炭を無駄なく徹底的に使い切る。そんな技術を開発してきた。確かに日本の技術はすごい。欧米にはそのような技術がないから、簡単に廃止などと言えるのだ。

しかしながら、やはり石炭火力は、ほかの電源に比べてCO2排出量が多いというのも事実である。ただ、石炭火力で開発した技術はLNG火力でも使えるし、IGCCの技術をバイオマス発電に応用する検討も始まっている。だから開発された技術は無駄にはならない。要は石炭さえ使わなければいいのだ。

わが国の第6次エネルギー基本計画では2030年の再エネ比率を36~38%まで引き上げることが目標となっている。再エネが増えた分だけ、何かの電源を減らしていかなければならないが、当然CO2排出量が多いもの、つまり石炭火力から減らしていくことになるだろう。

G7で指摘されるまでもなく、日本は実質的にそういう方向に進んでいるのだ。国際会議やCOPの席上でも、それは主張した方がいい。「日本はちゃんとやっているのだ」とスケジュールを示すべきだ。「それよりお前たちが言ってるのは口先だけではないか」と堂々と主張すれば良い。

G7で合意した期限まであと10年余り。古い石炭火力発電所から順次廃止していき、それを補完する形で再エネを拡充していくことになるだろう。ただ再エネ電力は不安定な電源であるから、それはLNG火力や水力で補完していくが、全国規模での系統整備や蓄電インフラの整備も同時にやっていくことが必要となる。

再エネの多くが国産資源であり、量も豊富だが、気まぐれという特性を持つ。今後はこの再エネをいかに賢く使っていくかということが技術開発の課題となっていくだろう。ここでも「日本はすごい」といわれる技術を開発してほしい。

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