味の素(化学調味料)は石油から作られているから危険?

私の知り合いにラーメン屋を経営している人がいて相談を持ち掛けられたことがあります。その人は脱サラしてラーメン屋を始めたのですが、最初はちっとも客が入りません。グルメサイトでもさんざんに酷評されていました。

ところが若い調理人を雇って調理をさせると、断然お客さんが増え、テレビでも紹介されてひっきりなしにお客さんが入るようになったそうです。
「でもね」とそのラーメン店主は言います。「気になることがあるんですよ」と。

写真はイメージです

そのラーメン店主は脱サラしてラーメン屋を始めるとき、客には安全、安心なラーメンを提供したいと思っていました。だから化学調味料は一切使わないことにしていたそうです。ところが客が入らない。新しく調理人を雇うと、彼は化学調味料をどんどん使うのだそうです。でも美味い。そうすると客が増える。

店主は言います。「客がたくさん入ってくれるのはいいけど、味の素(化学調味料)って石油から作られていて危険なんでしょう?」と。

そこで私は答えました。
「確かに味の素は石油から作られていた時期もありましたが、今はそうではありません。それに味の素自身もぜんぜん有害なものではないんですよ。ですから化学調味料は安心して使ってください」と
これが、今回の記事の結論です。

味の素とは何か

味の素って何でしょうか。味の素の容器には成分表が付いていますよね。これをみると

 グルタミン酸ナトリウム 97.5%
 イノシン酸ナトリウム   1.25%
 グアニル酸ナトリウム   1.25%

と書かれていました。つまり味の素の成分はほとんどグルタミン酸ナトリウムという物質でできているということが分かります。同じ成分表でも例えば、豚肉とか、大豆とか、醤油とか書いてあれば、「なるほどなるほどそんなものが含まれているんだね」と安心できますが、グルタミン酸ナトリウム?いったい何?そんな薬学の教科書に出てくるような名前を出されてもね。

では、グルタミン酸ナトリウムとは何でしょうか。

グルタミン酸ナトリウムの「グルタミン酸」の部分の化学構造は図のとおりです。ちょっと見、複雑ですが、炭素(C)が5つ鎖のようにつながった両端に酸素(O)が二つずつくっ付いて、さらに右から二つ目の炭素に窒素(N)がひとつくっついている。これがこの分子の骨組みで、その周りにパラパラと水素(H)が配置されている。そんな構造です。

グルタミン酸の化学構造式

ところで、この分子の中には―NH2という部分がありますが、これをアミノ基といいます。また、―COOH(HOOC-も同じ)と言う部分がありますが、これをカルボキシル基といいます。このようにアミノ基とカルボキシル基の両方をひとつの分子に含む物質をアミノ酸といいます。(カルボキシル基は酸性を示しますので、アミノ基と酸性を組み合わせてアミノ酸といいます)

アミノ酸というのは、サプリメントなどとしても知られているあのアミノ酸です。つまり、グルタミン酸はアミノ酸の一種です。

アミノ酸は面白い特徴を持っていて、アミノ基(―NH2)の部分はアルカリ性、カルボキシル基(―COOH)の部分は酸性を示します。つまりアミノ酸はひとつの分子の中に酸性を示す部分とアルカリ性を示す部分という、反対の性質をひとつの分子の中に持った物質なのです。

これはちょうど、磁石にプラスとマイナスの部分があるように、おもちゃのレゴにでっぱりとへっこみあるようなものです。磁石やレゴがくっつきあって大きな形をつくるように、アミノ酸も酸性の部分とアルカリ性の部分が互いにくっつきあって大きな分子を作ることができます。

実は私たちが普段食べている肉や魚や大豆などに含まれるたんぱく質はアミノ酸が多数、結合してできたものなのです。さらに、私たちの身体の筋肉や内臓など多くの部分はタンパク質でできていますが、これもアミノ酸からできています。

私たちが肉や魚や大豆などを食べると、その食品に含まれるタンパク質が胃の中で消化されてばらばらになり、アミノ酸になります。アミノ酸は腸壁から吸収され、吸収されたアミノ酸は身体の中で、また組み立てられて私たちの筋肉や内臓を作っていくのです。

胃の中でタンパク質が分解されてできるアミノ酸は様々な種類がありますが、グルタミン酸もそのひとつです。つまりグルタミン酸はタンパク質を食べると私たちの胃の中でできてくる、どちらかというとありふれた物質のひとつであり、体に吸収されて体の一部になっていく物質なのです。ですから、当然ながらグルタミン酸は食べても害はありません※。

※ただし、これも程度問題で、どんなものでもたくさん食べれば毒になります。調味料として普通に使われる量なら問題はないということです。

でも味の素の成分表にはグルタミン酸ではなくてグルタミン酸ナトリウムって書いてありますよね。ナトリウムは害がないのでしょうか。
いえいえ、これもオッケー。食べてもぜんぜん害はありません。

グルタミン酸はアミノ酸の一種ですが、アルカリ性を示す―NH2が一つしかないのに対して、酸性を示す―COOHが二つあるので、全体として酸性になります。そのため商品としての味の素にはアルカリ性の水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて中和されています。そのため結晶化したときに、そのナトリウム(Na)部分が結合してグルタミン酸ナトリウムの形になっているわけです。

グルタミン酸ナトリウムは口に入れると、グルタミン酸とナトリウムイオン(Na)に分離しますが、これは食塩(NaCl)を口に入れた時に出てくるナトリウムイオンと同じ(NaCl→Na+Cl)ですから、つまりこれも害がありません。味の素を食べるとうまみのほかに塩味も感じるのはそのためです。

よく「うちの料理には化学調味料を使ってないよ」と宣伝したり、「化学調味料無添加」を謳った食品を見かけたりしますが、ほとんど意味がありません。化学調味料と同じ成分は私たちが普通に食べている食品の中にもたくさん含まれているからです。それより化学調味料に害があるかのような間違った意識を消費者に植え付けてしまうので、こっちの方が問題ではないでしょうか。

味の素の製造方法

では、これからが本題。味の素は果たして石油から作られているのでしょうか。

味の素の作り方には3つの方法があります。抽出法、発酵法および合成法です。それぞれ簡単に説明していきます。

抽出法
味の素の主成分であるグルタミン酸はもともと食品に含まれているものです。ですから食品からグルタミン酸を抽出してやれば味の素は作ることができます。
実際には小麦や大豆などのタンパク質を多く含む農作物からタンパク質を抽出し、そのタンパク質を塩酸で分解してグルタミン酸にして、それを水酸化ナトリウムで中和して結晶化するという方法が抽出法です。

従来、味の素はこの抽出法で作られていました。ただし、この方法は収率が低く、コストもかかります。筆者が子供のころ、味の素の値段は当時の物価水準から考えてずいぶんと高価であったように思います。

発酵法
発酵法は微生物を使ってグルタミン酸を作る方法です。例えば、酵母という微生物はお米の中の糖分を食べてアルコールを分泌します。日本酒はこの方法で作られます。これと同じように、糖分を食べてグルタミン酸を分泌する微生物がいます。このような微生物を使ってグルタミン酸を製造する方法が発酵法です。

実際には、サトウキビのしぼり汁から砂糖を結晶化して取り出した残りの液。これを廃糖蜜と言いますが、これを微生物に食べさせてグルタミン酸が作られています。現在のグルタミン酸の製法はこれです。(原料は「廃糖蜜」といいますが、決して廃棄された糖という意味ではありません。食品として安全なものです。)

合成法
グルタミン酸の化学構造を見れば分かるように、グルタミン酸は炭素C、窒素N、酸素O、水素Hの4種類の元素からできています。ですからこの4種類の元素を使ってグルタミン酸と同じ構造の分子を作る方法が合成法です。

例えば、炭の中から炭素を取り出し(炭の成分はほぼ100%炭素です)、空気から窒素と酸素を取り出し(空気は79%の窒素と21%の酸素からできています)、水(HO)から水素を取り出して、これらの元素を組み立てていけば、原理的にはグルタミン酸を作ることができます。これが合成法です。

実際には、炭や空気や水からグルタミン酸のような複雑な分子を作ることは非常に困難ですから、できるだけグルタミン酸に近い構造をもった物質を原料にしてグルタミン酸を作ることになります。

味の素合成法の開発

味の素社は1950年から様々な原料を使ってグルタミン酸を合成する方法を研究し、最終的にアクリロニトリルと言われる物質からグルタミン酸を作ることに成功しています。アクリロニトリルの化学構造は次の下図のような形をしており、グルタミン酸とは一部の構造が似ています。しかし、実際にアクリロニトリルからグルタミン酸を作ることは随分と骨の折れる研究だったと思います。

さらに合成法にはもうひとつ大きな問題がありました。実はグルタミン酸にはL体とD体と言われる二つの物質が存在するのです。これを鏡面異性体もしくは光学異性体といいます。

例えば、鏡に映った像はまったく同じ形をしているのに、右と左が逆になっています。あるいは右手と左手は同じ形をしていますが、右の手袋を左手に、左の手袋を右手にはめることはできません。同じ形をしているのに、全く同じではなく左右が逆になっているのです。

これと同じように、L体とD体のグルタミン酸はまったく同じ化学構造をして、ほとんど物理的にも化学的にも同じ性質を持っているのに違う物質なのです。このようなことは石油化学の分野ではあまり考慮する必要がありませんが、生化学の分野では問題となることがあります。

グルタミン酸がその良い例で、化学構造が同じなのに、うまみを持つのはL体だけ。D体はうまみ成分ではありません。そして不思議なことに自然界に見られるグルタミン酸はすべてうまみを持つL体であり、D体ではないのです。これは自然界では酵素という精密な工作機械のような物質が働いてアミノ酸を合成しているからでしょう。(酵素サプリは身体にいい? 効果のあるものもあるけれど・・・参照)

一方、合成法で人工的にグルタミン酸をつくると、L体とD体が同じくらいできて、混ざって作られてしまいます。ですから合成法で味の素を作ろうとすると、合成したあとでL体とD体を分けなければならない。これが難しい。

それでも味の素の化学者たちは光学異性体の分離方法の開発に成功しました。そして1959年にパイロットプラントでの運転が始まり、様々な問題に立ち向かいながら1963年から四日市の東海工場で本格的な合成法によるグルタミン酸ナトリウムの生産が始まりました。

この状況は、さながら昔NHKで放送された人気番組「プロジェクトX」のような世界だったことでしょう。

ところで、合成法の原料となるアクリロニトリルですが、これは味の素社東海工場に隣接する四日市コンビナート内の石油化学工場から供給されていました。そして、その石油化学工場では石油を原料にアクリロニトリルを作っています。つまり、東海工場で合成法で作られていた味の素は石油を原料としていたといえるわけです。

当然、石油のような非食品を原料とした物質を口にしてもいいのかという安全性についての議論もありました。味の素社では、合成されたグルタミン酸ナトリウムについて外部機関を使って、安全性を調べたようです。

その結果、合成法で作られたグルタミン酸ナトリウムは大豆のような自然界で作られたグルタミン酸ナトリウムと比較して、慢性毒性やその他の薬理学的特性にまったく差がなかったという結果が得られたそうです。その結果を受けて味の素社は合成法の事業化に踏み切ったようです。

合成法からの撤退は経営者の英断

こうやって、合成法によるグルタミン酸の製造は成功し、順調に生産を続けていました。しかしながら、この方法は1973年に中止され、それ以降はすべて発酵法で作られるようになりました。どうしてでしょうか。

その経緯は味の素グループの100年史に詳しく述べられています。

この100年史によると、当時の味の素社の鈴木恭二社長は、東海工場の従業員に対し、中止に至った理由を6つ挙げて説明しています。その理由は要約すると次のとおりです。

① 東海工場はファインケミカルが軌道に乗り出した 
② 海外生産が軌道に乗り、供給過剰が心配される 
③ 為替変動により採算性が低下している 
④ 設備更新に費用がかかる 
⑤ 四日市は公害問題が顕著となっており設備の増設は困難である

しかし、一番大きな問題はつぎの6番目にあるようです。

⑥ 合成法には絶対の自信を持っているけれども、コンシューマリズムの動向や、一部の味の素消費者の理屈ぬきの感覚による好みに合致しないという事実もある。

つまり、グルタミン酸ナトリウムを石油から作っても、安全性に何ら問題ない。単に消費者がいわれのない、理屈抜きの抵抗感を示しているだけだ。しかし、そのため味の素は合成法からの撤退を余儀なくされた。というのが経営者の説明でした。

しかしながら、これは筆者の憶測ですが、実は経営者自身も安全性に疑問を持っていたのかもしれません。ただ、そういう理由では今まで頑張って合成法を確立した技術者には説得が難しい。だから、いわれのない、理屈抜きの消費者の抵抗感という言葉で技術者や工場従業員を納得させたのではないでしょうか。

確かに、技術は確立され、製品の安全性も確認され、10年間にわたって特に問題も起こさずに操業を続けてきた。しかしながら、筆者はやはり安全性の問題はあると思います。それは合成法の味の素が天然のグルタミン酸に比べて毒性があるというのではありません。また、原料の元をただせば石油だったということが問題とは思いません。

しかし、原料としてアクリロニトリルを使っていたということに筆者は抵抗を覚えます。アクリロニトリルは猛毒です。もちろん猛毒を原料としたから、製品のグルタミン酸にも毒性があるということは全くありません。それは味の素社が外部機関に委託して行った安全性評価でも明らかです。

しかしながら、事故やミスによってアクリロニトリルやその中間製品が製品に混入するということがあり得ないとは言えないでしょう。筆者は企業で、事故やミスが起こった場合、その原因を調べて再発防止を行う手法を指導してきました。(例えば「イージスアショア選定報告書のミスの原因を分析」参照)その経験から言わせてもらえば、工場では必ず事故やミスが起きます。

もちろん、工場ではできるだけ事故やミスが起きないようにすることが必要ですが、そもそも事故やミスが起こりにくい生産設備や生産方法を構築してとしておくこと。さらに、やミスが起こっても問題が大きくならないように対策を事前にとっておくことも重要です。その観点から見れば、食品を取り扱う同じ工場で猛毒のアクリロニトリルを取り扱うということは大変危険なことです。常識から考えても行うべきではないと思います。

もし、製品の味の素に猛毒の原料が混入するようなことがあり、犠牲者が出るようなことでもあれば、味の素の安全性にかかわる信用は一気に失墜し、会社自体の存続にかかわることになるでしょう。工場のちょっとしたミスや些細な事故によって、長年にわたって会社が築き上げてきた信頼や信用が一瞬にして失われることになるのです。

そんなリスクを合成法は持っていると経営者は判断したのではないでしょうか。そういう意味で、重大な事故が起こる前に経営者が合成法からの撤退を決定したのは英断であったと筆者は思います。

まとめ

味の素の成分はグルタミン酸ナトリウムというアミノ酸の一種です。この物質は一般の食品にも含まれていますし、食品に含まれるタンパク質が身体の中で分解されたときにもごく普通に生成するものです。ですから、それ自体に害があるというようなものではありません。

味の素は過去には石油由来のアクリロニトリルという物質からも合成されていたこともありますが、この方法によって作られたグルタミン酸ナトリウムの安全性についても実証されていました。(生産時の事故やミスがなければ)

しかしながら、現在はアクリロニトリルから合成する方法は行われておらず、微生物によってサトウキビのしぼり汁を発酵させる方法によって製造されています。事故やミスによって石油由来の物質が混入するという恐れも、現在はなくなっています。

(2019年11月1日)

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