アメリカではどんな電気自動車(EV)が売られているか 53モデルのモーター出力、充電時間、走行距離、燃費など

近年、世界各国は温室効果ガス削減に向けて大きく舵を切り始めました。温室効果ガス削減、その有力な手段のひとつとして電気自動車(EV)がありますよね。CO2を排出するガソリン車やディーゼル車をやめて、電気自動車にしようと。
我が国でも2035年頃を目途にガソリン車の販売を中止するという話もあります。

では、アメリカのEV事情はどうなっているのでしょう。アメリカには国内生産、輸入を問わず様々な国々から様々な自動車が導入されていて、さながら自動車の品評会のよう。もちろん、EVも世界中から入ってきています。

今回は、米国エネルギー省(DOE)と米国環境保護庁(EPA)が共同でまとめている、Fuel Economy Guide Book2021年版をタネ本として、アメリカで実際に売られているEVに焦点を当てて、その事情の一端をまとめてみました。

EV 53車種のリスト

まず、このガイドブックには全米で売られている乗用車(ピックアップトラックを含む)のほぼすべてが網羅されています。その数、およそ1,000種類。それぞれメーカー名、ブランド名、モデル名毎に燃費、年間燃料費、温室効果ガス排出ランク、その他特記事項が記載されています。

このガイドブック。今のところ掲載されている自動車のほとんどがガソリン車ですが、電気自動車53モデル、燃料電池車5モデル、プラグインハイブリッド車58モデルおよびフレキシブル車26モデルが含まれています。

今回は、このうち53種類のEVについて少し詳しく紹介したいと思います。

まず、これが53種類のEVの一覧表です。

昨年のガイドブック2020年版では44車種、その前の2019年版では37車種だったので、毎年2割ずつ増えていることになります。

メーカー別の特徴

メーカー別にみてみると、一番モデル数が多いのがテスラ。14モデルを販売しています。ブランドもタイプ3、S、Y、Xと4種類あり、ミッドサイズのタイプ3が4モデル、ラージサイズのタイプSが2モデル、SUV 2WD相当のタイプYが4モデル、SUV 4WD相当タイプXが3モデルとラインアップも充実しています。

次にモデル数の多いのが意外にもスポーツカーで有名なポルシェ。タイカンブランドで12モデルを販売しています。コンパクトカーが2モデル、ラージカーが6モデル、SUV 2WD相当が4モデルのラインアップとなっています。

次にモデル数が多いのがフォードですが、これは7モデルすべてがステーションワゴン。その他、フォルクスワーゲンのID.4が4モデル、日産リーフが3モデルとつづきます。

国別の特徴

国別では米国車が3社22モデル、ドイツ車が5社21モデル、韓国が2社3モデル、日本が1社3モデル、スウェーデンが2社2モデル、イギリスが1社1モデル、中国が1社1モデルが、ガイドブックに記載されています。

ただし、余談ですが、自動車は一つの会社が多数のブランドを所有している場合があるため、車の国籍というのはむつかしい。ここでは例えばミニ (BMW) はドイツ車、ジャガー(タタ=インド)はイギリス車に分類しています。

国別でみると世界最大のEVメーカーテスラを抱えるアメリカがもっとも販売車種が多いですが、ドイツも強いですね。ところで、フランス車とイタリア車が見当たらない?

フランス車については、アメリカ国内に販売網がないようです。以前はアメリカでもフランス車(ガソリン車)が販売されていたようでが、現在は撤退。

イタリア車については、このガイドブックにもかなりのモデルがリストアップされていますが、すべてガソリン車です。EVという分野においては、あまり熱心ではないようです。イタリア人気質でしょうか?ガソリンバカ食いのスポーツカーならイタリアの右に出るものはいませんがね。

モーター

モーターは、ガソリン車でいえばエンジンにあたるもので、このモーターが大きいほど当然出力も大きくなります。ただガソリン車はエンジンが一つですが、EVについてはモーターを複数台搭載したものも珍しくありません。

小型のサブコンパクトやミッドサイズカー、小型のSUVはモーター数は1基で、出力は大体100から200kWの範囲のものが多いようですが、ポルシェやテスラにはこのサイズでも200kWを超えるモーターを積んでいるものがあります。

ラージカーやそれ以上のサイズのEVについてはモーターの数が複数になり、合計出力が300kW以上になるものが多くなります。

ちなみに最もモーター出力が小さいものは中国のKANDI K20で、わずかに20kW。最も出力の大きなのはポルシェのタイカン4S Perf Battery。これは194kWと280kWのモーターを1基ずつ積んでいます。

バッテリー

バッテリーの種類については、掲載されたモデル全部がリチウムイオンを搭載しています。さすがにニッケル水素や鉛蓄電池を積んでいるEVはありません。全固体電池はまだまだ。

走行距離

一充電当たりの走行距離がガソリン車に比べて短いのがEVの欠点のひとつです。もちろんバッテリーを増やせば走行距離はいくらでも伸ばせますが、その分車重が大きくなり、車体価格も上昇します。

今回、ガイドブックに掲載されたEVの走行距離の分布は以下のとおりでした。

EVの一充電あたりの距離は、大体300㎞から400㎞のものが多いようです。

最も走行距離が大きいのはテスラのモデルS Performance (19in Wheels)で、一回の充電で623㎞を走行することができます。これは走行距離だけを見れば、ガソリン車並みですね。一方、走行距離が最も小さいのは中国産のKANDI K25で100㎞以下、95㎞です。

充電時間

電気自動車のもう一つの欠点が充電に必要な時間が長いこと。搭載するバッテリー容量が少なければ充電時間も短くなりますが、走行距離も短くなります。逆に走行距離を伸ばそうとすれば、バッテリー容量も大きくなって充電時間が長くなります。

ガイドブックに掲載されたEVの走行距離と充電時間の関係をグラフにとってみればこんな感じになりました。

やはり、走行距離を伸ばそうとすれば、充電時間も長くなってしまいます。ただし走行距離だけでなく、大きなモーターを持っているEVも充電時間は長くなります。

ちなみに、最も充電時間が短いのはヒュンダイのIoniq Electricで、充電時間は5.8時間。しかし、走行距離は274㎞、モーター出力100kWとちょっと物足りない感じです。
逆に充電時間が最も長いのはテスラのモデルXシリーズで、走行距離を600㎞程度とガソリン車並みとするため、充電時間は15時間(急速充電なら8.3時間)もかかることになってしまいました。

燃費

このガイドブックには燃費、つまりガソリン1ガロンで走れる距離が示されています。単位はマイル/ガロン(MPG)ですが、EVはエネルギー源がガソリンではなくて、電気ですから、そのままMPGで示すことができません。

それで、このガイドブックには、ある換算係数を使用して、EVの燃費をガソリン換算1ガロンあたりのマイル数に変換しましたと書かれています。(MPGe)

これガソリンに換算した数値によると、EVの燃費は30から60㎞/Lの範囲になっています(マイル/ガロンは日本ではなじみがないので、㎞/Lに換算しています)。ガソリン車がだいたい10㎞/Lであることを考えると、EVは驚くほど燃費がいいことになります。

ただ、換算係数をどのようにして算出したか、このガイドブックは明らかにしていません。例えば電力1kWh の持つエネルギーを、単純に同じエネルギーを持つガソリンのガロン数で割り返したのかもしれません。

ガソリン車のエネルギー効率が20%くらいしかないのに対して、EVの場合はバッテリーとモーターのエネルギー効率がそれぞれ90%以上ありますから、EVの燃費がガソリン車の4~5倍良いということは納得がいきます。

ただし、気を付けなければならないのは、この計算には発電所の発電効率や送電ロスが含まれていないことです。確かに電気自動車の燃費はガソリン車より格段にいいですが、その電気を火力発電所で作るなら、そのときの発電効率(40~50%程度)や送電ロスも考慮する必要があるでしょう。しかし、このガイドブックにはその点が無視されているようです。

なお、今回のガイドブックで燃費が良いのは、テスラの一部、ヒュンダイ、シボレーで、燃費は50㎞/L以上(テスラは多様な車種を持っており、燃費の悪いものもあります)。逆に燃費が悪いのは、主にドイツ車で、ポルシェ全般、ボルボ、アウディそれに英国車のジャガーで、燃費はいずれも30㎞/L台です。

やはり、大きな出力モーターを搭載して、運転性能を良くしたEVは燃費が悪くなるようです。

年間燃料費

このガイドブックでは米国市民が1年間に走行する平均的な距離をもとに、年間に支出する燃料費(EVの場合は電気代)をモデルごとに掲載しています。

EVの場合、年間燃料費はモデルによってそれほど大きな違いがなく、450$から950$の間。ガソリン車の年間燃料費が2000$から3000$かかることを考えれば、非常に安い数字が出ています。もちろんガソリンや電力の価格が日本とは違うので同列では語れませんが、燃料費はEVの方が格段に安いことは事実でしょう。

ただし、EVは車体価格がガソリン車に比べて高いことやバッテリーの寿命による交換費用は考慮されていません。

年間燃料費が最も安いのがテスラ モデル3 Standard Range Plus RWD(ミッドサイズクラス)という車種で450$。最も高いのがポルシェ タイカンTurbo S(ラージカークラス)で950$でした。

その他

EVはガソリン車に比べて、静かで、トルクが大きいため加速性がよく、メンテナンスも容易です。しかしながら、ガソリン車やハイブリッド車よりも走行距離が短く、充電時間も長いという欠点もあります。走行距離は運転スタイルや運転条件、エアコンの有無などによっても大きく変わってきます。

またEVは大型のバッテリーを搭載するため、ガソリン車やハイブリッド車よりも車体価格が高価で、バッテリーの寿命という問題もあります。

しかし、これらの問題点は少しずつ改善されて行き、バスや長距離トラック、重機類などを除く一般消費者向けの乗用車に限ってみれば、次第に普及率が高くなっていくんじゃないでしょうか。

2021年5月13日