2.エネルギーセキュリティ
ガソリン車の燃料はもちろんガソリンだ。ガソリンの原料は原油。そして日本はその原油のほぼ100%を海外から輸入している。これが日本の大きな弱点だ。もし海外で何かあったら、原油の輸入が止まるかもしれない。そうでなくても、原油は海外情勢に左右される不安定なエネルギー源だ。そして原油価格も上がっている。
日本の場合、火力発電の燃料は石炭と天然ガスであり、ほとんど石油は使われていない。石油の主な用途は自動車や船、航空機といった交通機関だ。ほかにプラスチックなどの化学製品にも使われるが、これはエネルギー源としての使用ではない。
だから、日本はこの機会に自動車も電気、つまりEVに変えて、石油依存を減らしたらどうかということである。
分かりやすい例で言えば、近年ガソリンの価格が上昇している。これだけとっても、ガソリンを使わないですむEVを日本で普及させる理由のひとつになるだろう。
石油は確かに便利なエネルギー源ではあるが、大きく3つの問題がある。ひとつは21世紀になってから価格が大幅に上昇していること。つぎに価格が乱高下して安定しないこと。さらに日本が輸入する国が中東に偏っていることだ。
下の図は1970年代から現在に至るまでの原油価格の推移を示したものだ。
一目見て分かるように、21世紀になってから原油価格は大きく上昇するとともに、乱高下を繰り返している。なぜそうなっているのか。それは石油の値段を支配する人が変わったからだ。
オイルショックが起こる1970年以前は、原油価格は欧米のオイルメジャー(国際石油資本)が支配していた。このころ原油の価格は1バレル当たりわずかに2~3ドルに過ぎなかった。
それがオイルショックによって価格支配者がOPEC(石油輸出国機構)に代わり、原油価格は一時40ドルまで上昇した。その後、価格は少しずつ下がりはじめたが、それをサウジアラビアがスイングプロデューサーの役割を担って支える構造となった。このため原油価格はだいたい16ドル前後で安定していた。ここまでが20世紀後半の原油価格の動きである。
ところが、21世紀に入ると原油価格はどんどん上昇し始めた。これは中国やインドなどの中進国の需要が急速に伸びてきたことや米国の金融緩和政策で大量のドルが流れ込んできたことなどが原因といわれている。
21世紀になってから、原油価格はNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)などの先物市場で取引される基準原油の価格で決まるようになってきた。つまり、原油価格はトレーダーと言われる人たちが決めるようになったのだ。
NYMEXではWTIという種類の米国産の原油の先物が取引される。実際に消費される量の何倍もの量がNYMEXでは取引されるが、最終的には米国内で生産されて消費される原油だから、その価格は米国の金融政策によって左右される。
米国は金融緩和政策で大量のドルを市場に流し込んだからWTIの値段も上がる。これに伴ってアジアや欧州で基準原油とされるドバイ原油やブレント原油の価格が上がって行くことになった。もちろん中国やインドなどの中進国の石油消費拡大の影響も大きい。
次に原油価格の乱高下の原因だ。原油トレーダーは欲張りなくせに気が小さい。少しでも不安があれば売りに出て値段が下がる。逆に上がるとみれば、儲けを増やそうとして買いに走る。だから原油の価格は需要と供給の関係以上に上がったり下がったりすることになる。これが乱高下の原因だ。
例えば、2008年は北京オリンピックが開かれた年だ。中国の経済成長はすさまじく。だれもが中国で石油消費が増加すると見込んでいた。だから実需以上に買いが進んで原油価格は急激に上昇。130ドルを突破した。しかし、一方でサブプライムローン問題に対する不安が広がっていた。
その結果、オリンピック開幕と同時(実際は開会式前日)に原油価格は130ドルから40ドルにまで大暴落した。売り遅れたリーマン・ブラザースなどが倒産して世界的な大不況となって行った。リーマンショックである。(リーマンショックの原因については様々な要因がある)
最後の問題は原油の輸入先が中東に偏っていることだ。原油の価格上昇は世界的な問題だが、これだけ中東依存度が高いというのは日本独自の問題だ。日本の場合は原油のほとんどを輸入に頼り、かつその95%が中東からの輸入である。日本は中東依存度を減らそうといろいろ努力をしてきたが、結局依存度を減らせなかった。
この中東の原油はタンカーに載せられ、日本に運ばれる。このタンカーの航路がオイルロードあるいはシーレーンと呼ばれるものだ。シーレーンは長いからどこかで障害が起こると日本への原油の輸送が滞ることになる。
そもそも日本が原油を頼る中東は、いうまでもなく政情が不安定な地域だ。先月(2023年11月)にはガザ地区のハマスがイスラエルにミサイルを撃ち込んだことから紛争になっている。
これはハマスとイスラエルだけの紛争ではない。ハマスの後ろにはイランの影が見え隠れする。下手をすれば、中東全体が紛争に巻き込まれる恐れもあるのだ。ペルシャ湾で紛争が起きればシーレーンは途切れる。
あるいは中国の問題もある。中国が台湾進攻に伴ってバシー海峡を閉鎖したり、中国が領有権を主張する南シナ海を閉鎖したりすれば、これもシーレーンが途切れることになる。
米国や中国は国内で原油が採れるし、欧州でも北海で原油が採れる。それに比べれば日本は原油のほとんどを中東という一地域に頼っているという考えてみれば非常に危うい状態にあるのだ。
このように、ガソリンは不安定な資源なのである。これに対してEVはもちろんガソリンが燃料ではないから、普及すれば石油の諸問題からは解放されることになる。EVの燃料ともいえる電力には、一つの資源に頼らない、様々な選択肢があるという強みがある。
いまのところ日本の電力の70%が石炭や天然ガスの火力発電によっており、石炭や天然ガスも輸入頼みだが、石油のように中東偏在というわけではないからエネルギーセキュリティの問題は少ない。
今後は太陽光や風力、水力のような再生可能エネルギーの割合が増えてくる。政府の計画では2030年までに再エネの比率を36〜38%まで引き上げる。再エネは地球温暖化対策だけが話題にされるが、考えてみればそのほとんどが国産エネルギーなのだ。
太陽光も風力も水力も設備さえ作ってしまえば、あとは国際情勢とは関係なく電力が生まれてくるから、石油のようなセキュリティの問題も価格の乱高下もない。しかも再エネの発電単価はどんどん安くなる方向にあり、これは石油の値段が高くなっていることと対照的だ。
さらに原油を輸入しなくてよいとなれば、国際収支も改善されることになる。日本が輸入する原油の量は2022年度で1億5,656万㎘。1バレル80ドル、為替レート130円/ドルで計算すると原油輸入代金は10兆円に及ぶ。
日本の2023年度の貿易収支は13兆円程度の赤字と見込まれているから、原油の輸入がなければ赤字幅は大きく減少することになる。
もちろん長雨が続いたり、風がピタッと止まったりすれば、再エネの発電量が大きく減ることになるじゃないかという指摘もあるだろう。この問題については、次の気候変動対策編で取り上げたい。
まとめると、以下のようになる。
- ガソリン車の燃料は原油という資源に頼っているが、原油価格は上昇し、かつ乱高下している。
- 日本は国内で使用される原油のほとんどを中東という政情が不安定な地域からの輸入に頼っており、安定供給に問題がある。
- EVを導入すれば、電力源が分散されるから、セキュリティの問題は緩和される。さらに将来再エネが主力電源となれば、割高になっている原油の輸入も減らせることになり、貿易収支も大幅に改善される。
こう考えると、むしろなぜEVの導入を日本が急がないのか不思議な気さえしてくる。日本こそEV化を率先してやるべきではないのか。
日本が原油を輸入しなくなって困るのは中東の産油国であるが、そんなことは知ったこっちゃない。日本人が額に汗水たらして働いて得た外貨で原油を買う。それで喜ぶのはほんの一握りの人たち、中東の石油王やロシアのオリガルヒだ。
かれらの豪華な別荘やヨット、豪華なプライベートジェットにわれわれの金が使われている。これ以上彼らを儲けさせてはならない。その金は日本国民の幸せのためにこそ使われるべきだろう。
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2023年12月3日
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再生可能エネルギーは国産エネルギーとおっしゃいますが、太陽光パネルや風車はほとんどが中国製であり、むしろ長期的には中国依存が高まります。中東の石油王に渡っていた国民の金が今度は北京に行くのです。加えてメガソーラー設置を口実にした中国資本の土地買収や、洋上風力発電に参入した中国企業による海洋データ収集は日本にとって重大な安全保障リスクとなっています。また中国の手が入っている以上、シーレーンが意図して寸断される状況では破壊工作による発電システムの停止が当然考えられますし、そもそも安定供給を担えない点を含めてもエネルギーセキュリティに(全くという訳ではありませんが)有効とは言えません。ロシアによるウクライナ国内の発電インフラ破壊に対しても、不足した電力を補ったのは再エネではなくディーゼル発電機でした。
EVを強力に推し進めるには財部様がご反対なさっている原子力の再稼働・増設が欠かせなくなります。エネルギーセキュリティとしては日本近海のメタンハイドレート活用なども選択肢に入れるべきでしょう。これさえあればという狭い視野ではなく、多様なエネルギー供給源が日本の未来を支えるのです。
HY様 いろいろ貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。前回に引き続き、私の意見を紹介させてください。
・太陽光パネルや風車はほとんど中国製 … 中東の石油王に渡っていた金が北京にいくだけ
太陽光パネルや風車は固定費、石油は変動費という違いがあります。太陽光パネルや風車は一度設置したらずっと電力を産み出すのに比べて石油は常に買い続けなければならないという違いです。どっちが出費が少ないかといえば断然前者です。ペイアウト年数以上を稼働させれば、石油を買うより北京に支払った方が断然お得ということです。
・メガソーラー設置を口実とした中国の土地買収
中国資本が日本の土地を買ったからと言ってその土地が中国領になるわけでもありませんし、発電以外の目的に使おうとしても価値のない土地です。むしろ、中国のお金を使って日本のインフラを整備してくれているわけです。電気を売って儲けたお金の一部は中国に持っていかれるでしょうが、それは日本が中国に資本投下した場合も同じで、今まで日本がやってきた事です。おかげで中国が発展したわけですが。中国が日本に投資してくれるなら、今度は日本が発展する番です。
・EVを強力に進めるためには原子力の再稼働・増設が欠かせない
EV化と再エネ発電の増強はセットで考える必要があります。EVだけではだめ、再エネ発電だけでもだめ。再エネが普及していないのにEV化を進めろと言っているわけではありません。2050年のカーボンニュートラルを達成するには、年4%ずつEVを増やしていく。すでに日本の発電量の20%が再エネですから、再エネは年3.2%ずつ増やしていく。そのくらいの進め方なら達成できるでしょう。原発の再稼働もありうる話ですが、使用済み核燃料の問題があるので、将来的にはフェードアウトしてくのが望ましいと思います。