ビールやシャンパンの泡は地球温暖化の原因にならないのか

八「ぷっは~! やっぱビールは最初の一口がたまんねえな。生まれかわるってもんだぜ」
熊「おい、八よ、ビールの泡は炭酸ガスだってこと知ってるか」
八「へつ、そうなんだ」
熊「へつ、じゃないよ。地球温暖化はCO2つまり炭酸ガスが原因だって、おまえいつもいってるじゃねえか。そのお前がだよ、炭酸ガスをじゃんじゃん出すビールを飲んでどうすんだよ。おれみたいに焼酎にすりゃいんだよ」
八「そうか。そりゃあ知らなかった。でもビール頼んじやったし、どうすりゃいいんだ」
熊「炭酸ガスが出てしまう前に、飲んじまえばいいんじゃないか」
八「よしわかった。ごくごくごく。うっ! げっぷがでそうだ」
熊「げっぷするんじゃねえぞ。げっぷしたらおんなじだからな」
八「げ~ぷ。出ちまった」
熊「きったねえな。お前がげっぷした分だけ地球の温度が上がっちまったじゃないか」

ビールやシャンパンの泡は確かに炭酸ガス、CO2だ。ではこの泡は地球温暖化の原因になるのだろうか。もしそうだとしたら日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指しているわけであるから、将来はビールやシャンパンは禁止なんてことになりかねない。そうなれば、将来われわれはビールが飲めなくなるのだろうか。

ビールの泡はなぜできる

ビールの泡は熊さんが言うように炭酸ガスだ。この炭酸ガスはビールの醸造時に出てくる。ビールの主な原料は大麦とホップと水だ。大麦を発芽させたものが麦芽。発芽させることによって麦に含まれるでんぷんが酵素によって分解されて糖という甘い炭水化物に変わる。この糖は麦芽からできた糖だから麦芽糖(マルトース)とよばれている。

これに酵母という微生物を加えると、酵母が麦芽糖をブドウ糖(グルコース)に変えたうえで、代謝によってアルコール(ェタノール)に変えてくれる。これを熟成させたあと、ろ過したものがビールだ。こうやってできたビールは瓶や缶、樽のような密閉容器に詰めて出荷される。

ではなぜ泡ができるのだろうか。それは、ブドウ糖からアルコールができるときに同時に炭酸ガスができるからだ。化学反応式で書けばつぎのようになる。

C6H12O6  →  2C2H5OH  +  2CO2   (1)
ブドウ糖    アルコール   炭酸ガス

つまり、ブドウ糖1分子から2分子のアルコールと同じく2分子の炭酸ガスができてくる。ビールに限らず、お酒はほとんどこの反応によってアルコールと炭酸ガスができる。ビールはこの炭酸ガスが溶け込んだまま瓶詰されるため、炭酸ガスを含んだまま消費者に届けられる。

そして、栓をあけてコップに注いだときにこの炭酸ガスが泡になって出てくる。さらにビールには麦芽から溶けだしたタンパク質が入っているので、このたんばく質が泡を取り囲んで、膜をつくってしまう。だから、ビールの泡がいつまでも消えないで、液面に溜まっているというわけだ。

では、ビールの泡の正体である炭酸ガスは地球温暖化の原因にはならないのだろうか。結論から言えば地球温暖化の原因とはならない。

アルコール発酵のもととなるのはブドウ糖であるが、このブドウ糖は麦芽の中のでんぷんが分解したものである。このでんぷんは中学校でならったとおり、炭酸同化作用という化学反応でできる。炭酸同化作用というのは、空気中の炭酸ガスと水からブドウ糖と酸素ができる反応だ。化学反応式で書けば次のようになる。

6CO2  +  12H2O  →  C6H12O6  +  6H2O  +  6O2     (2)
炭酸ガス    水      ブドウ糖   水     酸素

そして、こうやってできたブドウ糖がいくつもつながってでんぷんとなる。ビールを作るときは、この炭酸同化作用とは逆に、でんぷんから麦芽糖を経由してまたブドウ糖にもどる。そして酵母によってアルコールと炭酸ガスに転換されるわけである。

炭酸同化作用では、式(2)のように6分子の炭酸ガスから1分子のブドウ糖ができる。一方、ビールを作るときは式(1)のように1分子のブドウ糖から2分子のアルコールと2分子の炭酸ガスができる。つまり、大麦は6分子の炭酸ガスをでんぷんとして固定し、このでんぷんからビールをつくると2分子の炭酸ガスが泡となって出てくる。

だから、ビールから出てくる炭酸ガスは大麦が吸収した炭酸ガスよりもむしろ少ないことになる。ただし、アルコールも同時にできててくるから、このアルコールも人間が飲めば体内で代謝されて、結局炭酸ガスとなって呼気として排出される。

このビールの泡とエタノールが体内で代謝されて出てくる炭酸ガスの量は合計すると、大麦が吸収した炭酸ガスの量とぴったんこ一致してしまうことになる。というわけで、大麦がブドウ糖を作るときに空気中の炭酸ガスを固定し、その炭酸ガスとぴったり一致する量の炭酸ガスがビールの泡と人間の呼気から出てくる。

ということは、ビールの泡に含まれる炭酸ガスはもともと空気中にあったものだから、空気中の炭酸ガス濃度を増やさない。つまりビールの泡は地球温暖化の原因にはならないということになる。

シャンパンの泡はどうしてできるか

シャンパンも栓を抜いたときやグラスに注いだときに泡がでてくるが、これはビールとはちょっと違って二次発酵という操作を行うからである。

シャンパンも、もとは白ワインだが、これを瓶詰めするときに少量のショ糖(砂糖)と酵母を加えて密閉する。すると瓶の中でショ糖がアルコール発酵してエタノールと炭酸ガスになる。瓶は密閉されているので発生した炭酸ガスは逃げ道がない。だから瓶の中が高圧になり、炭酸ガスはワインに溶け込んだままになる。

シャンパンの栓を開けると急に圧が抜けるので溶けきれなくなった炭酸ガスが噴出して泡になるというわけだ。吹き出す炭酸ガスは二次発酵で加えたショ糖が発酵して出てきたわけだが、このショ糖ももともとは炭酸同化作用によって空気中の炭酸ガスからできたものだ。だから、シャンパンの炭酸ガスも空気中の炭酸ガス濃度を増やさないので地球温暖化の原因とはならない

焼酎ならいいのか

焼酎は飲むときには泡は出ないが、ビールやシャンパンと同じように醸造時に炭酸ガスが発生している。原料となるイモや麦、そばなどに麹を加えると原料に含まれるでんぷんから糖ができ、そのあと酵母によって発酵してアルコールと炭酸ガスが発生する。これはビールやシャンパンの場合と同じだ。

ただし、このあと焼酎は貯蔵するときに特に密閉されているわけではないので、炭酸ガスが焼酎から抜けていってしまい、ビールやシャンパンのように泡立つことはない。いずれにしても、発生した炭酸ガスはもともと原料のイモなどが炭酸同化作用によって空気から取り入れたものだから、地球温暖化の原因にはならない。

しかし問題はこのあと蒸留という操作が焼酎にはあるということだ。水やアルコールは蒸発するための熱量(潜熱)が大きいので、これを蒸留するときには大きな熱が必要となる。昔のように薪を使えばいいのだが、重油やガスを使えば燃焼時に炭酸ガスが発生する。

化石燃料を燃やして発生する炭酸ガスはもともと空気の中にあったものではなく、地下にあったものである。それを汲み上げて地上で燃やして炭酸ガスにしている。だから空気中の炭酸ガスを増やす要因になる。

ということで、ビールやシャンパンの泡としてでてくる炭酸ガスは地球温暖化の原因とはならない。ただし、焼酎やウイスキーのような蒸留工程を含むお酒の方が、むしろ地球温暖化の原因となってしまうということだ。


八「てえことは、ビールから出てくる泡は炭酸ガスだけど、もともと空気の中にあったもんだから、地球温暖化の原因にならなってことかい。こりゃあビールも安心して飲めるってことだな。それより焼酎の方が地球温暖化の原因になるってことか。熊のやつに言ってやんなきゃ」

【追記】
コーラやソーダのような炭酸飲料は炭酸ガスが吹き込まれている。また、ビールサーバーは樽からビールを押し出すために炭酸ガスボンベが使われるが、この炭酸ガスは発酵でできたものではなく石油化学や製鉄所からでてきたものなので、地球温暖化の原因となる。
焼酎やウイスキーの蒸留工程についても、できるだけCO2発生を抑えるよういろいろ工夫しているメーカーもあるので申し添えておきます。

2024年4月6日

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