地球温暖化の元凶CO2を回収する4つの方法

CO2が地球温暖化の原因ならCO2を回収すればいい

地球温暖化は人間活動が原因で起こっていることはもう疑う余地がないといわれます。その温暖化の原因の主なものがCO2。人間が石炭や石油のような化石燃料を燃やすことによってCO2が発生し、その結果、大気中のCO2濃度が年々増加して地球温暖化を招いています。

それなら、大気からCO2を回収してやればいいのではないでしょうか。なぜやらないの?空気中からCO2を回収することをDAC(Direct Air Capture)といいます。DACもできないことではないのですが、一般にCO2の回収は濃度が高いほどやりやすい。ところが空気の中にあるCO2は400ppm-つまり0.04%ほどと大変希薄ですから、これを回収するのはなかなかむつかしいのです。

でもあきらめるのはまだ早い。CO2濃度の高いところ。例えば火力発電所や工場のボイラーから出てくる排気ガスのようにCO2濃度の高いところからCO2を回収することは比較的簡単なので、その方向で研究開発が進められています。

つまり、CO2が空気の中に出てから回収するのではなく、大気に出る前の排気ガスからCO2を回収してやればいい。そうすれば大気中のCO2を減らすことはできませんが、大気中のCO2濃度をこれ以上増やさないことは可能です。

この記事では、特に火力発電所から排出されるCO2を回収する方法について、現在研究開発が進められている5つの方法について紹介したいと思います。

火力発電所の排気ガス

CO2を回収する方法を紹介する前に、そもそも火力発電所から出てくる排気ガスとはどんな成分からできているのでしょうか。

火力発電所は石炭や天然ガスをボイラーで燃やして、その熱で高圧のスチームを作り、そのスチームでタービンを回して発電をしています。石炭や天然ガスは炭素Cと水素Hからできていますから、これを燃やすと空気中の酸素O2と結びついて、CO2とH2O(水=水蒸気)が出てきます。

また、燃料を燃やすときに使った空気には79%の窒素が含まれています。この窒素は石炭や天然ガスの燃焼とは関係ありませんから、ほとんどそのまま排気ガスと一緒にでてきます。そのほか、排気ガスの中には、酸素O2や亜硫酸ガスH2S、窒素酸化物NOx、粒子状物質などが少量ですが含まれています。

結局、排気ガスに含まれるCO2の濃度はだいたい10~15%くらい。空気中のCO2濃度0.04%よりは随分高いですね。ここからCO2だけを回収しようというのが、技術開発の目標です。

ではCO2を回収するにはどんな方法があるのでしょうか。

液体に吸収させる

この方法はCO2を吸収しやすい液体にCO2を吸収させて分離してやろうという方法です。実際にCO2を吸収させる液体、つまり吸収液としてはアミンという化学物質を水に溶かしたものやポリエチレングリコール、メタノールなどが使われます。

この方法をちょっと詳しく説明しましょう。火力発電所から出てきた排気ガスは、まず、吸収塔という設備に流れていきます。吸収塔はそんなに難しい設備ではありません。大きな円筒状の鋼製の筒の中に、リング状や鞍状の形をした充填物が詰められているだけです。

吸収液は吸収塔の上から雨のように降り注がれて充填物の隙間をちょねちょねと流れて行き、塔の下に溜まって、ポンプで抜き出されています。

CO2を含んだ排気ガスは、吸収液とは逆に吸収塔の下から押し込まれて、吸収塔の中の充填物の間を通って、塔の上から出てきます。この間に排気ガスは上から降ってくる吸収液と接触して、CO2だけが吸収液に吸い込まれるという仕組みです。

CO2を吸い込んだ吸収液は、再生塔という設備に送られます。この設備では吸収液が加熱されてCO2が蒸発し、再生塔の上部から出ていきます。

こうやってCO2を放出した吸収液は再び吸収塔に送られて排気ガス中のCO2を吸収することになります。これを繰り返すことによって、火力発電所の排気ガスの中からCO2だけが分離されていきます。

この方法では、排気ガス中のCO2の90%が回収され、回収されたCO2の濃度は約99%の高純度となります。ちなみに、吸収液としてよく使われるアミン化合物は、CO2を単に溶かすだけではなく、化学的に結合しています。このためこの方法は化学吸収法と言われています。

一方、吸収液としてポリエチレングリコールやメタノールを使った場合は、化学反応は起こっておらず、単に液体の中にCO2が溶け込んだだけ。この場合は物理吸収法と言われています。

固体に吸着させる

次は、液体ではなく固体の物質にCO2を吸着させて分離する方法で、物理吸着法と言われます。例えば、活性炭は脱臭剤として使われたりしますが、これは臭いの元となるアンモニアやメルカプタンのような気体を活性炭が吸着して取り除いているのです。

CO2も同じように固体に吸着させて分離することができます。これを物理吸着法と言います。固体吸着法には、活性炭のほかにゼオライトという物質が吸着剤として使われます。

また、炭酸カリウムやシリカ、アルカリ化アルミナなどの多孔質材料に、化学吸収法で使われるアミン化合物のようなCO2を吸収する溶液を含侵させて使う場合もあります。これを固体吸収法といいます。

火力発電所から出てきた排気ガスは吸着塔と言われる装置に送られます。吸着塔は鉄鋼製の筒で、中には単に顆粒状の吸着剤や吸収液を含侵させた多孔質材料が詰められてるだけです。この中を排気ガスが通過する間にCO2が吸着剤に吸着されて分離します。

しかし、吸着剤はいつまでもCO2を吸着し続けるわけではありません。やがてCO2が飽和してこれ以上CO2を吸着しなくなります。そこで、この吸着塔は2本用意されていて、一方が飽和してCO2を吸着しなくなると、もう一方に切り替えてCO2を回収していきます。

そして、その間に飽和した吸着塔の中の吸着剤を再生して、また使えるようにします。再生の仕方には二通りあり、一つは圧力を下げる方法。もう一つは温度を上げる方法です。前者をPSA、後者をTSAと言います。この操作によって吸着されたCO2が排出されて、吸着剤は再生し、再びCO2を吸着することが可能となります。

膜で分離する

薄い特殊な膜を使ってCO2を分離する方法もあります。ある種の膜は分子レベルで見ると小さな穴が開いており、窒素や酸素は通り抜けられるけれども、CO2は通り抜けることができません。このような膜を排気ガスの通り道に置いておけば、CO2を分離することができます。この方法を膜分離法といいます。

化学吸収法や物理吸収法、固体吸着法はCO2を取り込んだ吸収剤や吸着剤を再生するために熱をかけたり、圧力を下げたりする必要がありますが、膜分離法はただ置いておくだけなので、再生の必要がありません。だからCO2の分離コストを非常に小さくすることができると期待されています。

ただし、排気ガス中のCO2とほかの成分とを完全に分けることができず、CO2回収率は85%くらい、回収されたCO2の純度は97%くらいです。また、膜の寿命が短いという欠点もあります。

超低温で分離する

排気ガスの成分は最初に述べたように窒素と水蒸気とCO2です。この3成分は排気ガスの温度を下げていけば分離することができます。

排気ガスの温度を下げていくと、まず100℃で水蒸気が液体の水に変わります。次に−78.5℃まで下げると、CO2は液体にならずにいきなり固体になります。ご存知のドライアイスです。この温度でも窒素は気体のままなので、ドライアイスを取り除けばCO2を分離したことになります。

実際にはドライアイスは取り扱いが難しいので、520kPa(約5気圧)まで圧力を上げてやれば、-56.4℃でドライアイスではなく液体のCO2に変わるので、液体の状態でCO2を分離回収します。

この方法は深冷分離法といい、純度の高いCO2を取り出すことができる方法ですが、冷却するための設備が複雑となり、また運転コストが大きくなるという問題があります。

CO2回収は日本が得意とする技術

実はCO2の回収は日本が得意とする技術なのです。既に実用化されている化学吸収法では、日本の三菱重工業の技術が世界的にもトップクラスで、多数のプラントを建設した実績があります。そのほかの技術は現在、研究開発中ですが、いずれも世界的に高いレベルに達しています。以下にそれぞれのCO2回収技術と開発プロジェクト名、開発企業のリストを示します。

化学吸収法 KMDCRプロセス 三菱重工業
物理吸収法 COURSE50 住友精化、JFEエンジニアリング
固体吸収法 KCC移動層システム 川崎重工業、RITE
物理吸着法 ASCOA―3 JFEスチール
膜分離法  次世代型膜モジュール クラレ、日東電工、新日鉄住金エンジ

回収したCO2をどうする

以上のように火力発電所や工場のボイラーから排出される排気ガスからCO2を回収する方法を紹介しました。いまは、まだ回収のコストが高いので回収方法を改良して、もっと安くCO2を回収する方法が研究開発されています。将来的には大気から直接CO2を回収するDACも可能になるかもしれません。

しかし、CO2の回収には別の問題があります。それは回収したCO2をどう処分するかということです。CO2は保冷用のドライアイスでお馴染みですが、ドライアイスが溶けてしまえば結局CO2になって大気に出て行ってしまいます。

温室で野菜を栽培するときに、温室内のCO2濃度を高めて野菜の生育を良くすることが研究されていますが、野菜が食べられると、身体の中でCO2に戻って呼吸によって大気に出て行ってしまうことになります。

また、回収したCO2で自動車用の燃料やプラスチックなどを作る研究も進められています。しかし、これも燃料を使えばCO2が出てくるし、プラスチックも使い終われば最後は焼却処分されてCO2が大気に出ていくことになります。

結局、回収したCO2は深海に沈めるか、地面に穴を掘って地下深くに貯蔵しておくことになるのではないでしょうか。

地球温暖化の元凶CO2を回収する4つの方法」への2件のフィードバック

  1. 匿名

    これはどうなんでしょう?

    排出された二酸化炭素を再利用する動き
    まだ研究段階で実用化されていませんが
    東京都市大学、2021/06/21に発表された
    常温常圧でアンモニアの製造の話

    窒化鉄と水、さらに二酸化炭素からアンモニアを作るそうですが
    発表が2021年なので、もうすぐ2年経つわけで
    水と二酸化炭素は身近にいくらでもありますが
    窒化鉄、ほとんど聞いたことがないわけで

    常温常圧でアンモニアができるメリットのほうが
    従来からある、水素や窒素から作るより
    窒化鉄から作ったほうがコスト面など有利になるのでしょうか
    それにしても現在のところ、ほとんど情報がないようで

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      匿名さん。記事を読んでいただいてありがとうございます。
      東京都市大学の研究は面白いアイデアだと思います。常温常圧でアンモニアができるということもメリットですが、空気中のCO2が炭酸鉄となって固定化され、脱炭素になるというのも興味深いところです。ただ、大量の窒化鉄をどうやって作るか、反応速度が実用的なほど大きいか、全体としてのコストなどの課題があると思います。まだ大学研究レベルですので、実用化できるかはこれからでしょう。

      返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。