【この記事は、オルタナ誌、Yahooニュースで紹介されました】
有料化になって3年が経過した。最初はいろいろと文句を言う人や異論を唱える人もいた(今もそうかもしれないが)。そりゃそうだ。無料でもらえたものが、ある日急にお金を出せということになったのだから。といっても1枚3円とか5円ということ。昔のように買い物カゴをもっていくとか、一度使ったレジ袋を何度か使いまわせばいいことだし、目くじらを立てるほどのこともないと思うのだが。
レジ袋が有料化されれば、レジ袋の消費量が減り、その分、それが焼却されたときに発生するCO2が減る。あるいは海に流れ込んで海洋ゴミになる量が減る。それならいいことだ。しかし、それより、以前は雨が降ると濡れたレジ袋が道路の排水溝を詰まらせていたり、乾燥した風の強い日にはレジ袋が空を舞っていたりした。そんな光景が見られなくなっただけでもよかったのかなと思う。
ところが先日、買い物をしたときレジ袋が無料で渡された。確かレジ袋有料化は法律で決まっているはずじゃなかったのか。ただでレジ袋を渡すって法律違反じゃないのかと思ったが、よく見るとそうじゃない。この無料のレジ袋は法律の抜け道を通って筆者の手にもらされたものなのだ。
レジ袋の有料化は「包装容器リサイクル法」という法律が根拠になっているのだが、この法律にレジ袋を有料にしなさいと書かれているわけではない。事業者がレジ袋等の排出量を抑制するための措置(という難しい言葉が法律では使われる)は、大臣が決めるとなっている。
つまり、法律ではレジ袋の有料化など細かいことはいちいち決めないから、それは担当大臣に任せますとなっているわけだ。そして、大臣がレジ袋の有料化を決め、それを省令という形で公表してレジ袋の有料化が始まった。
ちなみにその省令は「小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令」という笑っちゃうほど長ったらしい名前の省令だ。
この時の環境大臣が小泉進次郎氏だ。だから、彼がレジ袋有料化を決めたように言われるが、実際には彼がひとりで決めたわけではない。環境省の役人が大学の先生や環境問題の専門家を集めて検討委員会を作り、消費者団体、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、プラスチック工業会などの意見を聞き、それを役人が取りまとめて省令の条文を作ったということである。
法律の3つの抜け道
さて、この省令のキモは、基本的に小売業者はレジ袋(省令では「プラスチック製の買い物袋」)を有償で提供しなさい。ただで配ってはだめですよ。ということなのだ。ただし、これには3つの例外が認められている。
それがこれ
① 繰り返し使用が可能なプラスチック製の買物袋のフィルムの厚さが五十マイクロメートル以上のものであって、その旨が表示されているもの
② プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占める海洋で微生物によって分解が促進するプラスチックの重量の割合が百パーセントであるものであって、その旨が表示されているもの
③ プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占めるバイオマス(動植物に由来する有機物である資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭を除く。) をいう。)を化学的方法又は生物的作用を利用する方法等によって処理することにより製造された素材の重量の割合が二十五パーセント以上であるものであって、その旨が表示されているもの
つまりは、この3つの種類のレジ袋であれば無料で提供してもいいということなのだ。
しかるに、筆者が手にしたレジ袋をよく見ると、あったあった。BP25やBP50のマークが。これはバイオマスを使って製造されたプラスチック、つまりバイオマスプラスチックが25%あるいは50%以上含まれているという表示なのだ。つまり、上の例外の③にあたる。だから無料で提供してもいいというわけだ。
その後もいくつかの小売店で買い物をしたときにレジ袋を無料で渡されたが、どれもBP25のマーク入りのものだった。つまり、省令で示された3つの例外のレジ袋であれば、無償で配布しても法律違反にはならないということだ。といっても①や②のレジ袋は見たことがないのだが。
バイオマスプラスチックはどうやって作られるか
レジ袋はよくビニール袋といわれたりするが、材質はビニールではなくポリエチレンだ。ポリエチレンは石油から作られる。石油からナフサという成分を取り出し、これを分解してエチレンにする。このエチレンを化学的につなぎ合わせればポリエチレンができる。
ではバイオマスを原料として作られるポリエチレン、つまりバイオポリエチレンはどうやって作るのか。これには二つ方法があって、一つはサトウキビを発酵させて作られたバイオエタノールからエチレンを作る方法。もうひとつは、植物油を水素化分解してナフサを作る方法。バイオマスから作られたエチレンやナフサは、石油から作られたエチレンやナフサと同じ方法でポリエチレンに加工することができる。
サトウキビからポリエチレンを作る方法はブラジルのブラスケムという会社が行っており、日本はこれを輸入している。ブラスケム社には日本国内で製造する計画もあるようだ。バイオナフサはフィンランドのネステ社が作っている。豊田通商がこのバイオナフサを輸入して三井化学がバイオポリエチレンに加工している。
バイオマスプラスチックの値段は?販売量は?
ネットで小売りされているバイオマスレジ袋の値段を調べたところ、一つの例だが、210㎜✕460㎜の物100枚入りで、従来のレジ袋が249円のところ、バイオマスレジ袋は429円となっていた。つまり、バイオマスポリ袋の値段は従来品より7割高い。確かに高いが驚くほど高いというわけでもない。
バイオマスプラスチックの日本での販売量は矢野経済研究所のデータによると、レジ袋有料化が始まった2020年から急増しており、2022年時点で9万2千トン程度だった。しかし、日本全体のポリエチレン生産量が250万トン程度であることから、今のところわずかな量でしかない。
今後どうなるのか
最近、この無料レジ袋が増えているように感じる。今後、無料レジ袋がどんどん広がって、結局従来のようにレジ袋無料が定着してしまうのだろうか。それは今のころわからない。
まず、価格の問題。レジ袋を無料で配布すると、その分店の負担が増えることになる。レジ袋の仕入れ価格はもちろんただじゃないのだ。これは従来のレジ袋でもバイオマスレジ袋でも同じであるが、バイオマスの方が単価が高いので影響が大きい。ただ、今後はバイオマスプラスチックの生産量が増えてくれば価格も下がってくるだろう。
もうひとつの問題はバイオマス原料の資源量である。原料となるバイオエタノールはサトウキビから作られるが、これはトウモロコシやイモ類でも作ることができる。バイオナフサは植物油から作られる。今後、原料のサトウキビやトウモロコシ、ナタネ油などの生産量をどうやって増やすかがカギだ。
一方、将来的には脱炭素の動きを受けて、ほとんどのプラスチックがバイオになるかもしれない。とくにレジ袋は無料提供が可能というインセンティブが働くので、実現は早いかもしれない。ただし、セブン・イレブンやファミマのようにバイオレジ袋を採用しながら有料化を続ける店もあるからどうなるのだろう。
いずれにせよ、価値のあるものにそれなりの対価を支払うのが経済の原則である。それによって資源の無駄遣いを減らせ、生産を効率化させ、廃棄物の量を減らすことができる。バイオマスレジ袋も普及してくれば有料になるのではないだろうか。
なお、バイオマスポリエチレンは生分解性ではないため、ポイ捨てされると石油系プラスチックと同様に海洋ゴミの原因となってしまう。無料になっても粗末に扱ってポイ捨てされては困る。これはモラルの問題だ。
2023年9月2日
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