脱石油が進むとプラスチックは使えなくなるのか? バイオ化学コンビナートの提案(1)

縮小する石油精製

石油化学コンビナートといえば、みなさんはどんな光景を思い浮かべるだろうか。
巨大な円筒形の構造物に銀色のパイプがジャングルジムのように絡みつき、近未来を感じさせるような工場群。赤と白に塗り分けられた煙突からは水蒸気が流れ出し、夜になればまるで星のような照明がクリスマスツリーのようにプラントを照し出す。この幻想的な風景を見るのが好きという人もいて、工場萌えという言葉もある。

石油化学コンビナートというのは、石油を原料としてプラスチックなど様々な製品を作り出す工場が有機的に結びつく工場群である。ここで作られる製品は私たちの生活や産業を土台から支えている。

例えばパソコンやスマホのボディとなるプラスチック、衣類に使われる合成繊維、自動車のタイヤは合成ゴム、家や壁などに塗られている塗料、台所で使われる中性洗剤などなど、その多くは石油を原料として石油化学コンビナートで作られたものだ。

私たちの身の回りで石油を原料にして作られたものを取り除いていったら、ずいぶんと不便で寂しいことになってしまうだろう。それほど私たちの生活は石油化学コンビナートと深く結びついているのだ。

ところが今、石油の時代が終わろうとしているのをご存知だろうか。自動車の燃費の向上や若者の車離れ、産業のソフト化、エアコンの普及による暖房用石油の減少、などが原因で石油の需要はどんどん減少している。さらに追い打ちをかけるのが、気候変動対策としての脱石油だ。

政府は気候変動対策として2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げている。カーボンニュートラルとは、実質的にCO2の排出量をゼロにするということ。分かりやすく言えば、CO2を排出する石油をはじめ石炭、天然ガスといった化石燃料は2050年以降、燃料としては使えなくなるということだ。

先日、和歌山の大規模な石油精製工場(製油所)が閉鎖されることが発表されて大きな話題となったが、実はそれまでも中小規模の製油所は段階的に閉鎖されてきていたのだ。そして、今後も製油所の閉鎖は続いていくだろう。そして、2050年には日本の製油所は一部を除いてほぼなくなっていることになる。そうしなければカーボンニュートラル目標は達成できないからである。

では、その石油を原料として成り立っているコンビナートはこれからどうなるのだろうか。そしてもしコンビナートがなくなるようなことがあれば、私たちのこの便利で豊かな社会はどうなってしまうのだろうか。

コンビナートとは

コンビナートは石油を原料として様々な製品を作る工場の集合体であり、互いに製品、半製品やエネルギーを有機的にやり取りすることによって、全体として効率的な生産を行うシステムである。

コンビナートは戦後の1950年代から1960年代にかけて通商産業省(現経済産業省)の指導のもと、全国に次々と建設されて日本の経済成長を支えてきた。「大きいことはいいことだ」という言葉がはやったのもこのころである。現在、日本には太平洋ベルト地帯の9か所に15のコンビナートがある。経済の伸びが鈍化してきた現在でも、これらのコンビナートは現役で、様々な製品を送り出している。

石油化学コンビナートの原料は石油。つまり、主に中東から輸入される原油である。輸入された原油は、まず石油会社が運営する製油所で分留という操作が行われる。原油の成分を沸点の差によって、ガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油に分ける操作だ。

このうち、ガソリンから重油までの成分は自動車やボイラーなどの燃料として出荷される。そしてナフサとガソリンの一部が石油化学の原料として、重油の一部がボイラー発電燃料としてコンビナート各社に送られてきた。

(なお現在、重油についてはコンビナート内で使われる量が非常に少なくなっており、余剰となった重油はガソリンの原料として使われている。)

化学会社に送られたナフサは、ナフサクラッカー(エチレンクラッカー)と呼ばれる装置で800℃から900℃に加熱されて瞬時に分解される。ナフサが分解されると、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどと呼ばれる物質が生成するが、これらはオレフィンと呼ばれ、さまざまな化学製品の基礎原料となる。

また、ナフサクラッカーでナフサを分解して、オレフィンを取り出したあとにエチレンボトムという液体が残る。この液体からはベンゼン、トルエン、キシレン(まとめてBTXといわれる)が抽出される。このBTXも石油化学の基礎原料で、アロマといわれる。


なお、BTXはガソリンからも抽出することができる。ガソリンから作るBTXは化学会社ではなく、石油会社で生産されることが多い。

ちなみに、オレフィン系のエチレンはポリエチレン、プロピレンはポリプロピレン、ブタジエンは合成ゴムが、それぞれの代表的な用途である。一方、アロマ系のBTXはポリスチレンやナイロン、ポリエチレンテレフタラートなどの原料となる。

これらの石油化学製品は最終的に加工されて様々な用途に使われる。私たちの身の回りの製品についての使用例を挙げてみたい。

ポリエチレン  レジ袋
ポリプロピレン 食品容器(プリンのカップなど)
合成ゴム    自動車のタイヤ
ポリスチレン        発泡スチロール
ナイロン                 ストッキング
ポリエチレンテレフタラート             ペットボトル

以上は、私たちが普段よく目にする馴染みの深い物であるが、そのほかにも例えば、農薬、塗料、染料、感光材料、接着剤、合成洗剤、化粧品、香料、電子部品など実に多様な化学製品が作られている。

このように非常に多くの製品が複雑な工程によって、コンビナート内で作られているわけであるが、その一番の根幹に位置するのが、石油精製工場すなわち製油所なのだ。製油所が多様な石油化学製品の出発点、すなわち扇の要となっている。

ところが冒頭述べたように、その製油所が閉鎖されつつあり、2050年頃にはほとんどゼロになってしまう予定となっている。

どんなに複雑な工程で製品が作られているとしても、その根元となるのは製油所である。製油所がなくなれば、石油化学コンビナートの原料がなくなってしまうことになる。そして私たちの生活や経済はどう影響を受けるのだろうか。

ではどうするのか

といっても、石油化学製品なしでは私たちの生活はもはや成り立たない。ではどうするのか。取り敢えず、二つの方法がある。①原料となるナフサやBTXを輸入してコンビナートの原料とする方法。もうひとつは、②輸入してきた原油は全てコンビナートの原料にしてしまう方法。の二つである。

ただし、脱炭素は世界的な流れであるから、海外でも製油所が閉鎖されてしまえば、輸入することもできなくなる。

さらに、石油化学コンビナートで作られる製品は、使い終わればいずれは回収されて、燃やされ、最終的にCO2となってしまうから、石油を原料とする限りは、カーボンニュートラルにはならない。

だから、プラスチックにしても、合成繊維にしても、その他の石油化学製品にしても2050年に向けて石油を原料にすることができなくなっていくと考えるべきであろう。

バイオ化学コンビナートの提案

そこで提案したいのが、石油化学コンビナートではなく、バイオ化学コンビナートである。つまり、「石油」を「バイオ」に変えようという提案である。石油ではなく、バイオマスを原料にしたコンビナートである。

バイオコンビナートのよいところは、コンビナート全体を作り直す必要がないことである。コンビナートの最も根幹の原料であるナフサやガソリンあるいはオレフィンやアロマをバイオマスに置き換えようということある。コンビナートの始まりの部分が変わるだけで、コンビナートは、現在のまま、そのまま使うことができる。

すでに、バイオナフサやバイオオレフィンを作る技術が開発され、一部で使われ始めている。次回は、このバイオ化学コンビナートを実現するための技術について紹介したい。

脱石油が進むとプラスチックは使えなくなるのか? バイオ化学コンビナートの提案(2)

2023年7月8日

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