今年のノーベル物理学賞に真鍋淑郎博士が選ばれました。大変喜ばしいことです。授賞理由は「地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発」。今、地球温暖化は世界中の注目を浴びるテーマですが、その元をただせば真鍋博士の研究に行きつきます。このことから、博士の研究はノーベル賞に十分値するでしょう。
筆者が学生の頃、担当教授から大気中のCO2が増えてきているという話を聞きました。もう45年も前のことです。当時は環境問題と言えば、亜硫酸ガスや水銀、光化学スモッグなど比較的狭い地域の問題で、その問題も徐々に解決されつつありました。
そんな中、出てきたのがCO2の問題です。CO2自体は毒性が低く※、CO2濃度が増えたからと言ってすぐに健康被害がでるような話ではありません。だけど、これだけ化石燃料を使っているのですから当然CO2濃度は上がって行きます。もっと濃度が上がるとどんなことが起こるのかわからないけど、気味が悪いよね。というのがその時の感覚でした。
化学をやる者なら、CO2が赤外線を吸収することはほとんどの人が知っているでしょう。赤外線分析は有機物の分析をするときに非常によく使われる方法だからです。このときCO2に吸収された赤外線は熱に変わります。
地球は太陽から熱を受け、それと同じ熱量を赤外線として外部に放出することによって冷却されています(放射冷却現象)。その赤外線の一部がCO2によって吸収されて熱に変わるわけですから、地球の温度が上がります。これが温室効果で、赤外線を吸収する物質を温室効果ガス(GHG)と言ったりします。
真鍋博士は、このような気候モデル(真鍋モデル)を、まだ幼稚な段階にあったコンピューターを駆使してシミュレーションしていきました。また、博士が始めたこの方法は多くの科学者たちによってブラッシュアップされていき、やがて地球の気候と大気組成の関係がよく分かるようになっていきました。
このシミュレーションがなければ、地球温暖化のみならず、最近の台風の大型化や、豪雨、夏場の猛暑など、さまざまな現象の原因が分からず、単に異常気象と言われるだけだったかもしれません。そして、現在、世界では脱炭素化に向けての大きな流れができ、産業構造や私たちの生活様式さえ変えようとしています。
気候モデルは、もともとは純粋に科学研究として始まったものが、脱炭素化という世界の大きな流れを作って行ったというすごい結果を生んだ例だと言えるでしょう。
※ 空気中のCO2濃度が3~4%以上になると二酸化炭素中毒が起こります。