ロシアの通信社が米国のロシア原油輸入が48%も増加したと報道 フェイクニュースはこうして作られる

昨日4月9日、ロシアの通信社であるスプートニクニュース(日本語版)が、「米国 ロシアからの原油輸入を1週間で43%も増量」とする記事を掲載した。ロシア安全保障会議のポポフ副書記が明らかにしたという。「米国は、欧州に対しては対ロシア制裁を強要しながら、米国自身はロシアからの原油輸入を続けているだけにとどまらず、先週はその供給量を43%増の日量10万バレルにまで増やした。」と。
つまり、米国は欧州にロシアの資源を買うなと指示しながら、自分はロシアから原油輸入を続けており、それどころか48%も輸入量を増やしたというのである。日本でもこの記事を読んで、これは米国の背任行為だと憤慨する人もいたようである。

本当にロシアからの原油輸入量は増えているのだろうか。
米国にはEIAと言う機関があり、エネルギーに関する非常に詳しいデータを収集して、公表している。その膨大なデータの中から米国がロシアから輸入している原油の量を週ごとにまとめてグラフにしてみたのが下の図である。

米国のロシア産原油輸入量推移(週ごと) スプートニクの記事で原油輸入量が増えたというのは、赤〇の部分

全体に大きなばらつきがあるが、スプートニクの記事とは逆にロシア産原油の輸入量は少しずつ減少する傾向にあることが分かる。
では、スプートニクの記事でいう、48%増加したというのはどこのことを言うのだろうか。これはどうも、今年3月の第4週のことらしい。第3週の輸入量は日量で7万バレル、第4週は10万バレルであるから、だいたい48%増加している。これは、図の中の赤丸で示した部分に相当する。
つまり、米国がロシアから輸入している原油の量はここ1年で減少しているが、3月後半の第3週と第4週だけを比較すると少しばかり増えているという話である。

ちなみに、米国は世界第1位、ロシアは世界第3位の原油生産国であり、両国とも原油の輸出国でもある。したがって、米国はそもそもロシアから原油を輸入する必要はない。実際、2021年における米国の原油消費量(日量平均9億8700万バレル)のうち、ロシア原油が占める割合は0.07%に過ぎなかった。一方、ロシアが米国に輸出してる原油の割合も全輸出量のわずかに1%であった。

つまり、互いに原油を輸出入する必要がなく、したがって量も少ない。そのため週ごとの変化も分母が小さいために、ばらつきが大きくなってしまう。(たとえばタンカー1隻で200万バレルくらいの原油を運ぶから、石油タンカー1隻の入出港が遅れただけで、日量10万バレルくらいのばらつきは簡単にでてしまう)

たまたま3月の終わりの週で原油の受け入れ量が、その前の週に比べて3万バレルほど大きくなったが、これは単にばらつきの範囲にすぎない。これをスプートニクニュースでは米国が意図的に輸入量を増やしているかのように報道したというわけである。

確かに米国のロシア原油輸入量が48%増えたという数字はあるが、それはほんの1週間だけを切り取った数字であり、全般的にはロシアからの原油輸入量は減ってきているのである。スプートニクの記事はフェイクニュースと言っていいだろう。

ちなみに、米国はロシアからの石油、石炭、天然ガスの輸入を全面的に禁止する措置を取っており、4月の第1週目はロシアからの原油輸入量は見事にゼロとなっている。

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