ノルドストリーム破壊事件 実は爆発物を使わなくても破壊できる

9月26日、ロシアからバルト海を通ってドイツに天然ガスを輸送する海底パイプライン、ノルドストリームが海底で破壊され、天然ガスが漏れだすという事件が起こっている。

ノルドストリームにはⅠとⅡの2系統があり、それぞれ2本ずつのパイプラインを持っている。そのうち、26日にⅠが2本ともⅡは1本が破壊され、さらに28日には残りの1本も破壊されている。このことから、これは単なる事故ではない。何者かが意図的に破壊したものと考えられている。

問題は、誰が、何のために、どうやってこのような破壊工作を行ったかということである。ザ・タイムズによると、漁船などの船舶から爆発物を搭載した水中ドローンを投下し、ヘリコプターで起爆装置を海中に落とす手法が使われた可能性があるという。

しかし、水中は電波が届かないから、水中ドローンと言っても有線になる。そのため行動範囲が狭く、近くに母船がいる必要がある。起爆装置を海に落としても電波が届かないのにどうやって起爆するのだろうか。

潜水士を使って爆弾を仕掛けるという方法もある。バルト海は比較的浅い海であるが、それでも水深は50mある。この深度はかなりきついし、海上の母船からの支援がなければ海底でパイプラインを見つけることも難しいだろう。できなくはないが、かなり厄介な作業である。

実は、比較的簡単にパイプラインを破壊する方法がある。それは、コンプレッサーを使ってパイプライン内部を高圧にすることだ。

ノルドストリームは世界で最も長い海底パイプラインであり、長さは1200㎞もある。しかも海底パイプラインだから途中に中継地を作ることができない。そのため、パイプラインの入口に強力なコンプレッサーが設備されていて、天然ガスを高圧で押し込んでいるはずなのだ。

高圧の天然ガスは、パイプラインを流れるにしたがって、配管との摩擦によってどんどん圧力が落ちていく。そして目的地のドイツに上陸するときにはほとんど圧力がなくなっている。というか、そのようにコンプレッサーが設計されているはずなのである。

パイプラインの入口付近の天然ガスは超高圧だから、当然、パイプも肉厚で頑丈に作ってある。しかし、出口に近くなって圧力が小さくなれば、それほど頑丈でなくても構わない。つまり、肉厚の薄いパイプが使われている可能性がある。であれば圧力が上がれば簡単に破壊されることになる。

事件当時、どのパイプラインも休止中であり、天然ガスは流れていなかった。この状態でコンプレッサーをフル稼働させれば、パイプラインの中は末端まで入口付近と同じ超高圧になる。(天然ガスが流れていないから摩擦による圧力低下は起こらない)そうなれば、パイプラインの末端近くの肉厚の薄いところが破壊されることになる。

パイプラインが破壊された場所を見ると、パイプラインの出口に近いところ、つまり本来はかなり圧力が低く、パイプの肉厚も薄いと予想されるところで起こっている。また、当時、地質学者が爆発音を観測したというが、パイプが内側から破裂すれば、同じような爆発音がするのではないだろうか。

もし、このようにコンプレッサーを稼働させて、パイプライン内の圧力を上昇させたことが事件の原因とするなら、それを行ったのはロシアということになる。
なお、この説の欠点は、パイプ内の圧力上昇をドイツ側で検知できなかったのかということである。といっても圧力監視をロシア人がやっていたのなら隠してしまうだろが。

以上はあくまでも推定であり、可能性の話をしているに過ぎない。しかし、この方法を使えば、ロシアはわざわざ海の中まで行って爆弾を仕掛ける必要はなく、自国内で破壊工作をすることができる。
これから今回の事件の原因が究明されていくだろうが、ロシア側の工作であった場合は、究明が難しいだろう。

2022年10月1日

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