未来のガソリンはこうなる? 出光、ENEOS、トヨタ、三菱重工が検討を開始

2024年5月27日。出光興産、ENEOS、トヨタ、三菱重工の4社はカーボンニュートラル(以下「CN」)社会の実現を目指して自動車の脱炭素化に貢献する「CN燃料」の導入・普及に向けた検討を開始したと発表した。

今後、日本の自動車市場におけるCN燃料の導入や制度について議論・検討することや、エネルギーセキュリティ、製造の実現可能性を調査するとしている。ただし、具体的にどのような燃料になるのかは明らかではない。

この記事では、この4社が中心となって進める「未来のガソリン」はどのようなものになるのかについて予想してみたい。

未来のガソリンに必要な2つの要素

未来のガソリンには次の二つの要素が必要となるだろう。

  • カーボンニュートラル(CN)であること
  • 現在のガソリンエンジンがほぼそのまま使えること

このうち、①についてはプレスリリースでも言及されているが、②も当然のことであろう。未来のガソリンは、従来のような出力が大幅に向上しますとか、エンジンをきれいにしますとかいうことを売りにしたガソリンではない。未来のガソリンは地球に優しい燃料でなければならない。

わが国をはじめとして米国や欧州など主要国は2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げている。その目標を達成するために電気自動車(EV)が推奨されているわけであるが、CN燃料を使えば従来のガソリン車でもCNが達成できるというところがミソだ。

また、各国は2035年までに従来のガソリンや軽油を使った小型車両の販売を禁止する計画があるが、それが厳格に実施されてもすでに販売されている車は廃車になるまでは走り続ける。そういう車でもCN燃料を使えばCO2排出はゼロとみなせる。そこがCN燃料の強みのひとつだ。だから未来のガソリンはCNであるだけでなく、現在のガソリン車にそのまま使えることが条件となる。

候補はふたつ

ではどんな燃料が想定されているのだろうか。上述の4社のプレスリリースでは合成燃料系とバイオ燃料系を挙げている。合成燃料というのはCO2と水素を原料として作られた燃料だ。

すでにポルシェなどが支援するHIFという会社が空気中のCO2と水を電気分解して作った水素からガソリンを作るプラントを完成させている。e-fuelと言われるものだ。この会社は出光興産と提携契約を結んでいるから、これが候補の一つとなるだろう。

一方、わが国のグリーンイノべ-ション基金でも合成燃料の開発を行っているが、その中心となっているのがENEOSだ。また、三菱重工はCO2の回収装置については世界トップシェアを誇る企業だ。

もうひとつのバイオ燃料系であるが、ガソリンの代替となるのがバイオエタノールだ。これはサトウキビやトウモロコシを原料として作られるが、農業廃棄物や木材などのセルロース系原料からも製造できる可能性がある。

バイオエタノールをガソリンの代替にする方法については拙著「なぜバイオエタノールはガソリンの代わりになるのか」に詳しく書いているので、興味のある方はご覧いただきたい。

現在のガソリン車で使えるか

次に問題になるのが、そのままガソリンエンジンで使えるかという点である。

ポルシェなどが開発しているe-fuelはMtG法という方法で作られており、製造されたガソリンは現在のガソリンとほぼ同じ品質を持つといわれているから、このままガソリンエンジンで使うことができるだろう。

一方、 ENEOSなどが開発している方法はFT合成法といわれる方法であるが、そのままでは現在のガソリンエンジンでは使えない。アップグレードと呼ばれる操作がうまくいけば現在のガソリンと同等のものが作れるだろう。

バイオエタノールについては、現在でもガソリンに3%まで混合して使用することが可能で、車種にもよるが、10%までは問題ない。しかし、高濃度のバイオエタノールを使うには、それ専用の車両が必要となる。トヨタは昨年、100%バイオエタノール燃料でも走行できるハイブリッド車をブラジルで発売している。であれば現在の車両そのままでは無理でも若干の手直し程度で高濃度のバイオエタノールが使えるようになるだろう。

出光興産はバイオエタノールを脱水してエチレンにしたあと、オリゴメリゼーションという方法で液体燃料とする技術の開発を行っている。主な生産物はジェット燃料であるが、この技術を使ってガソリンを製造することも可能であろう。

未来のガソリンは少しずつ変化する

つまり、合成燃料系でもバイオ燃料系でも、若干の工夫をすれば現在の自動車でもほとんどそのまま使えるガソリンができそうだということである。ただし、当初は従来のガソリンにCN燃料を混ぜて使うことになるだろう。

そして、本当に現在のガソリン車でも問題がないか確認しながら、少しずつCN燃料の割合を増やしていくという地道な作業が行われるだろう。EVのように一気に全く新しいものを導入するというのとは対照的である。

そして、最終的には、既存のガソリン車を使いながら、従来のガソリンと何の違和感もなくそのままCN燃料が使えるというのが理想である。

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