またひとつ「石油」の文字が消えた JPECの名称変更 「脱石油」?に進む石油会社

一般にはあまり知られていないが、石油業界の関連団体に「石油技術センター(JPEC)」という組織がある。その団体が今年4月から名称を変更した。新しい名称が「カーボンニュートラル燃料技術センター」。あれ? 石油業界の団体なのに「石油」の文字が消えた。

JPECとは

JPECは1986年の設立。このときは「石油産業活性化センター(略称PEC)」と称していたのだが、その後「石油技術センター」に名称が変わっている。その役割は、「石油及び石油産業に関する技術開発。調査研究及び情報収集。エネルギー供給構造の高度化促進。地球環境の保全とエネルギーの安定供給の確保」とされる。

つまり、石油に関する技術開発や調査研究、情報収集が仕事である。このほかにも原油調達の安定化を目的としてアラブ諸国など産油国との共同プロジェクトなども行ってきたが、こちらの仕事はJCCP(国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関)という組織に移管されている。

JPECの本部は東京都江東区にあり、他に基盤技術研究所と北米、欧州および中国にそれぞれ駐在員事務所を置く。JPECは一般にはあまり知名度は高くないが比較的大きな組織なのだ。賛助企業には石油元売り各社やエンジニアリング会社、触媒・添加剤会社、自動車工業会など石油に関連した企業が名を連ね、所属職員も大半は賛助企業からの出向である。

その組織が2024年4月1日付で名称を変更。その名も「カーボンニュートラル燃料技術センター」となった。

おや?「石油」の文字が消えた。ただし、英文はJapan Petroleum and Carbon Neutral Fuels Energy Center (略称JPEC)。英文ではカーボンニュートラル燃料(Carbon Neutral Fuels)が付け加えられたが、石油(Petroleum)の文字は残っている。

今後、石油に関する従来事業に加えて、新たにカーボンニュートラル燃料の技術開発プラットフォームとしての機能を追加するという。

石油会社の社名から「石油」が消えている

今回、石油業界団体のひとつから「石油」の文字が消えたが、実は従来から石油会社名から「石油」の文字はどんどん減ってきている。

1980年代、日本の石油元売会社は15社あった。その15社のうち、出光興産を除く14社にはすべて社名に「石油」が入っていた。日本石油、共同石油、大協石油、丸善石油、エッソ石油などだ。年配の方にはお馴染みの名前も多いだろう。

今日の石油産業(石油連盟)2023より

しかし、これらの元売石油会社は合併や統合を繰り返し、そのたびに社名から「石油」の文字が消えていったのだ。1992年には共同石油と精製会社の日本鉱業が合併してジャパンエナジーに、 2010年には新日本石油とジャパンエナジーが合併してJX日鉱日石エネルギーに、そしてそのJXが東燃ゼネラルと合併してENEOSに。また、昭和シェル石油が出光興産と合併して昭和シェル石油の名前が消滅という具合である。

現在は1986年以降、合併や統合をしていないコスモ石油と、1980年代から他社との合併・統合をまったくやっていないキグナス石油および太陽石油が「石油」という名を残している。といっても、キグナス石油と太陽石油の売上高は合わせても全体の4%程度でしかないから、日本の石油業界はENEOS、出光、コスモの3社に統合されていると言っていいだろう。

石油会社から「石油」が消えた理由

なぜ、石油会社から「石油」という文字が消えていったのか。それは石油だけがビジネスの会社ではなくなった。あるいは石油という名前がついていると石油以外のビジネスには進みにくいということだろう。そして合併や統合によって社名を変えるとき、これを好機として石油という文字をなくしていった。ということだ。

例えばENEOS(ENEOSホールディングス)は次のような事業を行っている。

  • ENEOS:石油製品の製造販売
  • ENEOSマテリアル:石油化学製品の製造販売
  • JX石油開発:石油天然ガスの開発・生産
  • JX金属:非鉄金属、半導体材料の製造販売、金属リサイクル
  • ENEOS Power:電力の販売
  • ENEOSリニューアブルエナジー:太陽光発電、風力発電、バイオマス発電

出光興産の場合は

  • 燃料油:石油製品の製造販売
  • 石油化学:エチレンの生産
  • 高機能材料:電子材料、エンジニアリングプラスチック、農薬等の生産・販売
  • 資源開発:石油・天然ガス開発、地熱発電
  • 電力:太陽光発電、風力発電、バイオマス発電

単なる石油の精製販売だけではないことが分かるだろう。
もちろん、現在のところ石油関連事業が事業の柱であることは間違いないが、2000年頃から少しずつ石油以外の事業にも手を広げ始めてきた。恐らく、このころから石油の時代は盤石ではない。やがて終わるかもしれないという危機感があったのだろう。そして、それは現実のものになりつつある。

2024年6月22日

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