ドライアイスが足りない 実はドライアイスも石油から作られていた

最近、ドライアイス不足が問題となっている。先日、スーパーに買い物に行ったとき、あまりに暑いのでアズキバーをひと箱買った。レジで持ち帰り用のドライアイスをくださいと言ったところ、「いまドライアイスを切らしています。すみません。」と断られてしまった。

どうも全国的にドライアイス不足が起こっているという。なぜいま、ドライアイスが不足しているのだろうか。

ドライアイスは二酸化炭素(CO2)を冷却して固化させたものだが、そのドライアイスの原料となるCO2が足りないことがドライアイス不足の原因だそうだ。CO2といえば地球温暖化の原因になるというので、世界中で削減努力が行われている。ではドライアイスの原料が不足するほどCO2の削減が進んでいるのだろうか。残念ながらそうではない。

CO2は石油や石炭などの化石燃料をボイラーや加熱炉で燃やした時に大量に出てくるので、これが地球温暖化の原因になっているわけであるが、そのような燃焼によってでてくるCO2とドライアイスに使われるCO2はちょっと違うのだ。

ドライアイス用のCO2は主に製油所やアンモニア工場に設置されている水素製造装置で副産物として出てくる。

1960年代、石油製品に含まれる硫黄分が原因となって大気汚染が深刻となっていた。そのため、日本の製油所は石油製品から硫黄分を取り除くための脱硫装置を盛んに導入していった。

脱硫装置を動かすためには水素がいる。だから水素を作るための装置、すなわち水素製造装置も同時に導入されていったのであるが、この水素製造装置で水素を作るときに、副産物として純度90%くらいのCO2が発生する。

水素製造装置で水素を作るときの原料は化石燃料と水蒸気だ。化石燃料は炭素Cと水素H、水蒸気は酸素Oと水素Hからできているから、そのなかから水素Hを取り出してしまうと、あとに炭素Cと酸素Oが残る。この炭素と水素が結合してCO2となって排出されるという理屈である。CO2は目的生産物ではないので、多くの製油所はこのCO2を大気に捨てている。

ドライアイス工場は、この比較的純度の高いCO2に目をつけてドライアイスの原料として製油所から買っているのだ。ドライアイス工場では、このCO2を精製したあと、加圧と減圧を繰り返す。これによってCO2はどんどん冷却されていって、気体のCO2は固体のCO2すなわちドライアイスに変わるのだ。

しかし、原料のCO2は気体なので輸送が難しい。そのためドライアイス工場は石油化学コンビナート内に設置され、近隣の製油所からCO2をパイプラインで受け入れている。つまり、製油所とドライアイス工場はパイプラインで繋がって一体となっているのだ。

ところが、ここで問題が起こった。ガソリンや軽油など石油製品の需要が落ちてきているため、日本の製油所は次々に閉鎖されてきているのだ。製油所が閉鎖されると、パイプラインでつながっているドライアイス工場は原料のCO2を入手できなくなってしまう。これがドライアイス不足の原因というわけだ。

CO2はドライアイス以外にもビールのサーバーや炭酸飲料、アーク溶接などに使われており、意外に用途が広い。しかし、今後も製油所の閉鎖が続くとなると、単に石油製品の需給という問題だけでない。製油所の閉鎖はCO2不足という意外な側面もあったのだ。

では、ドライアイスや、さまざまなCO2関連商品を製造している企業は今後CO2をどうやって入手しようとしているのだろうか。

大手ドライアイスメーカーのひとつ、エア・ウオーター炭酸社は比較的CO2濃度の低いガスからCO2を分離回収・精製し、ドライアイスや液化炭酸ガスを製造することのできる「ReCO2 STATION」というコンパクトな装置を開発している。

燃焼ガスからドライアイスを作ることができるReCO2 Statin (エア・ウォーター炭酸社ニュースリリースより)

この装置は、工場内のボイラーやごみ焼却場等から排出される10%程度の低い濃度のCO2も原料とすることができるという。これなら、製油所の水素製造装置に頼る必要はない。さすが、ドライアイスのトップメーカー、やることが早い。

今後も製油所の閉鎖が続くと予想されているが、ドライアイスをはじめとするCO2製品には、このようなコンパクトな設備が活用されることになるのだろう。

2024年8月16日

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