NHK大河ドラマ、墨俣城の炎上に異議あり

先日、 NHKの大河ドラマ「豊臣兄弟」で墨俣一夜城の回が放送された。信長の命を受けた藤吉郎、小一郎兄弟が3日ほどで城を築くという話である。ドラマでは敵の軍勢を引き付けたあと、城の上から溝にそって油を流し、それに火矢を使って火を着けると瞬く間に伸びていって、大火災になるというシーンとなっていた。しかし、これはあり得ない。

当時、油といえば菜種油や椿油あるいは魚油であろうが、このような動植物油は引火点が200℃から300℃ほどもあるから、火矢を打ち込んだとしても簡単には着火しない。たとえ着火してもドラマに描かれたほどの大火災になるわけではない。

「引火点」について説明しよう。油は温度が高くなるほど火が着きやすくなる。油のサンプルを容器に入れ、これをバーナーで熱しながら少しずつ温度を上げる。そして温度が0.5℃上がるたびに小さな炎を近づけて火が着くかどうかを確認していき、火が着いたときのサンプルの温度を引火点という。

まったくもって原始的な試験方法だが、実際に火をつけてみて着火するかどうかを調べるわけだから、これが一番確実な方法だ。

ガソリンの引火点は―40℃ほどであるから、常温でもマッチの火を近づければ燃える。灯油の引火点は40℃以上とJIS規格で定められているから、夏場の暑い時、例えば35℃の酷暑でもマッチで灯油に火を着けることはできない。

反射式石油ストーブの場合は灯油を芯にしみこませてから火を着ける。ファンヒーターの場合は灯油を気化器で気化させてから火を着ける。そんな工夫をしなければ灯油に着火することはできないのだ。ましてや引火点が200℃から300℃もある植物油や魚油を使ったのでは、そのまま火矢で着火させることは無理な話だ。

同じような話は、ドラマや映画ではよく出てくる。
例えば映画ダイハード2では、テロリストたちが乗る貨物機(ボーイング747)の燃料バルブを主人公のマクレーンが開いたため、貨物機は燃料を垂れ流しながら離陸。流れ出たジェット燃料にマクレーンがライターで火をつける。すると流れ出る燃料を炎が伝わっていき、貨物機はドカンと爆発するのだが、これもあり得ない。

民間ジェット機の燃料はJetAもしくはJetA-1が使われるが、中身はほぼ灯油である。だから、これも引火点は40℃程度。 (規格上は38℃以上)これも常温ではライターで火を着けることはできない。しかもこの映画では雪の積もる空港というから真冬の設定であった。

逆に、あるドラマでは悪漢が部屋の中にガソリンを撒き、マッチで火を着けて、部屋が燃えるのを見届けて逃げるというシーンもある。ガソリンの引火点は―40℃という超低い値を持つから部屋の中に撒けばガソリンが蒸発して部屋の中が爆発混合気で満たされる。

この状態で火を着けると床がぼーぼーと燃えるわけではなく、部屋の空気全体が一気に爆発的に燃焼する。部屋の窓やドアは吹き飛び、悪漢も大やけどを負って、吹き飛ばされることになる。

そもそも、墨俣の一夜城は有名な話だが、実は後世に作られたフィクションだという。そこにNHKがさらにフィクションを付け加えたということだ。大河ドラマは事実に基づいて忠実に再現したものではない。歴史を自由に脚色して作られたエンターテインメントだと思ってみなければならないのだろう。

2026年3月5日