ホルムズ海峡封鎖によって日本では何が起こるのか 恐れていたことが起こってしまった

2月28日、イランとの交渉の最中に米国とイスラエルが突如イランを攻撃。イランの最高指導者ホメイニ師を殺害したうえ、イランの軍事施設を空爆し始めた。これに対してイランはイスラエルや湾岸諸国の米軍基地などをミサイルやドローンによって攻撃するとともに、反撃の一環としてホルムズ海峡を事実上封鎖してしまった。

1973年に発生した石油ショック以来、日本の石油供給の脆弱性が指摘されてきたが、その最大の懸案がこのホルムズ海峡封鎖である。この海峡には日本向けの原油の約90%、LNGの6%が通っている。

石油ショック当時は、実際に石油輸入が途絶えたわけではない。にもかかわらずわが国は大パニックとなった。銀座のネオンが消え、深夜のテレビ番組は放送中止となり、スーパーの棚からトイレットぺーパーが消えた。

それに比べると、今回のホルムズ海峡閉鎖では、実際に石油の流れが止まった。にも拘らずわが国は意外と平穏である。これは石油ショック当時の状況を知る筆者としては、拍子抜けするほどである。

もちろん、当時と今は状況が違っている。日本政府は石油ショック以来、石油火力発電所の新設を禁止し、石油備蓄を充実させ、原油輸入先を多様化するという対策を取ってきたからだ。このうち最初のふたつの対策は成功していると言えるだろう。

石油ショック当初、石油火力は日本の発電量の約6割を占めていた。しかし現在、石油火力が発電量に占める割合はわずか7%ほどまで下がっている。だから石油の輸入が止まったとしても、石炭やLNG火力発電が少し増えるだけで、電気が止まることはない。

次に石油の備蓄であるが、これは国家備蓄と民間備蓄を合わせて現在、約8か月分が積み上がっている。つまり、ホルムズ海峡が封鎖されて原油が日本に入ってこなくなっても電気が止まることはないし、8か月分の備蓄もある。これが今のところ国内が比較的平穏な理由だろう。

しかし、原油輸入先の多様化という対策は残念ながらうまくいかなかった。石油ショック以降、日本は中東以外の輸入先を模索してきた。例えば、東南アジアや南米、アフリカ、ロシアなどである。しかしながら、どれも輸入量を増やすことができず、結局、現在の日本の中東依存率はなんと93%に達しているのである。

原油が入らなくなったらどうなるのか

では原油の輸入が止まったら、あるいは大幅に減少したら、我が国はどうなるのだろうか。このグラフは昨年(2025年)の日本の石油製品の販売実績、つまり需要である。


原油の用途として、かつては発電用の重油がかなりの割合を占めていたが、すでに述べたように、今は石油火力発電向けC重油の需要はほとんどない。現在の主な原油の用途はガソリン、軽油および化学産業用の原料として使われるナフサで、これで国内石油製品需要の約8割を占める。

原油の輸入が止まれば、これらの石油製品は国内の製油所ではほとんど生産されなくなるから、8か月分の備蓄使い果たすと本当にガソリンスタンドからガソリンや軽油が消えてしまうことになる。特に軽油がなくなるとトラック輸送や船舶輸送ができなくなる。

石油がなくても電力は止まらないから、工場は稼働できるかもしれない。しかし、物流が止まると原料が手に入らなくなり、製品の出荷もできなくなる。つまり日本の製造業は壊滅的な打撃を受ける。

また、ナフサも大幅に不足することになる。実は、日本の製油所で生産されるナフサは国内需要の3割程度しかなく、残りの7割はUAE、クウェート、カタール、韓国などからの輸入である。国内生産分については備蓄原油を使って生産できるが、UAEやクウェートなどの中東諸国からの輸入分はホルムズ海峡が封鎖されると輸入できなくなる。また韓国は日本と同様に大量の原油をホルムズ海峡経由で輸入しているから、ここもやがては輸出できなくなる。

したがって、ナフサはガソリンや軽油のように8か月備蓄の猶予はない。実際、日本の石油化学コンビナートの中には既に減産を開始したり、操業停止可能性を取引先に通知したりしているところがでてきた。

ナフサはエチレンセンターで分解されて、様々なプラスチックや合成ゴム、合成繊維などの原料となるから、ナフサがなくなるとこれらの化学製品も生産できなくなる。プラスチックや合成ゴムは様々な機械製品の材料となっているから、わが国製造業全体に大きな影響を及ぼすことになる。

代替手段も効果は小さい

ホルムズ海峡が封鎖された場合の代替手段としてアラビア半島を通り抜けて紅海に達するパイプラインがあるが、輸送能力が限られるから、ホルムズ海峡の完全な代替とはならないし、ミサイルやドローンで破壊される可能性がある。また、紅海からインド洋に抜ける海峡はホルムズ海峡より狭く、さらにこの海峡の東岸のイエメンはイランの友好国であることも不安材料である。

米国やロシアからの輸入という方法も検討されているが、これらの国々から世界でも有数の原油輸入国である日本輸入量の90%に匹敵する量を新たに輸入するのは不可能だろう。米国の輸出港はメキシコ湾岸に集中しており、ここから狭いパナマ運河を通らなければならないから、大型タンカーでの輸入はできない。

ロシアについてもシベリアの油田から運ぶパイプラインには輸送量の制約がある。これらの国々から輸入できたとしても、日本の原油輸入量は大幅に減少することになるだろう。

中東依存度がこれだけ高いのは世界中で日本だけ

ホルムズ海峡が封鎖されると、日本の石油の約9割が止まることになるが、では日本以外の国々ではどうだろうか。

米国は世界最大の原油生産国であり、輸入石油は全原油処理量の15%程度しかない。それも主な輸入先はお隣のカナダやメキシコだからホルムズ海峡の封鎖は石油需給に対してほとんど何の関係もない。つまり米国はイランに戦争を仕掛け、その結果ホルムズ海峡が封鎖されても原油の入手にはまったく困らないという国なのだ。

欧州はどうかというと、域内の北海で原油が採れる。さらに地中海を挟んだアフリカ北部からの輸入もある。だから中東依存度それほど大きくはなく数%から20%程度(統計の取り方によって違いがある)に過ぎない。
つまりG7のうち、これだけ中東依存度が高いのは日本だけだということである。

ホルムズ海峡を通って輸送される原油の主な向け先は中国、インド、韓国および日本で、この4か国で約7割を占める。

このうち、中国の中東原油依存度は40~50%。パイプラインがつながっているロシアからも輸入することができるし、従来から石油途絶を懸念して太陽光発電や電気自動車(EV)の普及に力を入れている。だから中東から原油を輸入できなくなっても日本のように自動車が走れないという事態にはなりにくい。

インドの中東原油依存度は45~60%である。この国も、近年はロシアからの輸入を増やしていて、中東依存度は下がっている。

ということで、ホルムズ海峡封鎖で最も影響を受けるのは日本と韓国ということになるが、韓国の中東石油依存度も高いとはいえ70%程度。90%以上を中東原油に頼っている日本は世界的にもほんとうに特殊といえるだろう。

今後は石油に頼らないEVや次世代燃料を普及させるべき

3月11日高市首相はホルムズ海峡封鎖対応として備蓄原油の取り崩しを発表した。8か月分ある備蓄原油がこれから取り崩されていくことになるが、8か月経ってもホルムズ危機が解消しなかったら日本はどうなるのだろう。
トイレットぺーパーを買い占める必要はないが、政府も国民もメディアももう少し危機感を持った方がいい。

また、石油が入ってこなくなっても電力は確保できる。問題となるのはガソリン車やディーゼル車、船舶なのだから、今回のホルムズ海峡危機には対応できないが、今後は電気自動車(EV)やバイオ燃料のような次世代燃料の普及に政府は力を入れるべきだろう。

EVや次世代燃料は気候変動対策としての効果ばかりが強調されているが、実はエネルギー安全保障上も効用のひとつである。現在、主要国の中で石油に対して最も脆弱な日本が、もっともEV比率が低く、石油を必要とするガソリン車やディーゼル車に頼り切っているという不思議な状況なのである。

2026年3月15日