2021年1月25日、NHK NEWS WEBは「大阪ガス CO2取り込む新技術 部品のコスト9割削減と発表」という記事を掲載しました。また、他の報道各社も同じような記事を配信しました。
その中でも特にNHKの記事は、「大阪ガスがメタン?の製造コストを90%削減できる」かのようにもとれる内容でした。メタンは都市ガスの主成分ですから、そのコストを大幅に削減できるとすれば、まさに画期的な技術開発です。
これは、大阪ガスは「買いだね。ウン」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でもちょっと待ってください。この記事、読めば読むほど不可解なのです。
記事の要所を引用すると以下のとおりです。
①大阪ガスは …… 二酸化炭素を取り込み、都市ガスの原料をつくりだす「メタネーション」と呼ばれる技術について、製造工程で使う部品のコストを9割削減することに成功したと発表しました。
②メタネーションでは水から水素を取り出す過程がありますが、必要な部品に安価な金属を使えるようになり、コストを9割削減できるとしています。
この記事①の中で、製造工程で使う部品のコストを9割下げたとありますが、部品とは何でしょうか。何の部品なのでしょうか。
また、記事②では、水から水素を取り出す過程でコストを9割削減したとありますが、水素製造コストを9割削減したのでしょうか、それともメタンの製造コストでしょうか。あるいはここでも必要な部品と書かれていますが、何の部品なのでしょうか。
そもそも「製造工程で使う部品」と言った場合、例えば自動車産業では、シャーシやタイヤやネジやエンジンなどが挙げられると思います。都市ガスの製造はそのような組み立て産業ではないので、部品ということ自体、意味不明です。
このように、この記事は読めば読むほど疑問がわいてくるのですが、大阪ガスの発表を短い記事に端折ってしまったため、分かりにくくなったのでしょうか。それとも記者自身が内容をよく理解せずに書いてしまったのでしょうか。
ともかく、この大阪ガスの発表の内容を簡単に解説したいと思います。
メタネーションとは何か
まず、「メタネーション」ですが、これは、温室効果ガスであるCO2と水素を原料として、都市ガスの主成分であるメタンを作る技術です。現在の都市ガスは天然ガスですが、天然ガスの主成分もメタンです。これを燃やすとCO2が発生して大気中のCO2が増加します。
一方、メタネーションで作られた都市ガスも燃やせばCO2が発生しますが、この場合は、もともとCO2から作られた物なので、結果的に空気中のCO2を増やさないという理屈です。
大阪ガスのメタネーション技術
メタネーションにはいろいろな方法が提案されていますが、大阪ガスはSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell=固体酸化物電解セル)という技術を開発しています。この技術では、原料となるCO2と水をSOECという装置に通してやると原料が反応して一酸化炭素(CO)と水素(H2)になります。(ただし、このとき電力を消費します。)
CO2+3H2O(+電力)→ CO +3H2(+2O2)
炭酸ガス 水 一酸化炭素 水素
このCOと水素を使って、次にメタン化反応という化学反応を行わせるとメタンができてくるというわけです。
CO + 3H2 → CH4+H2O
一酸化炭素 水素 メタン 水
技術のもとになっているのは燃料電池
この技術のもととなっているのは、大阪ガスが昔から研究していたSOFC(固体酸化物型燃料電池)でした。これは燃料電池の一種で、まず都市ガスの主成分であるメタンを改質反応によってCOと水素に転換し、
CH4+H2O → CO + 3H2
メタン 水 一酸化炭素 水素
このCOと水素をSOFCに通してやると、電気が発生する(電流が流れる)という発電機です。
CO + 3H2(+2O2)→ CO2+3H2O(+電力)
一酸化炭素 水素 炭酸ガス 水
賢明な読者はすでにお分かりでしょう。メタネーションに使うSOECはこのSOFCの全く逆の反応を行わせているわけです。ちなみにSOFCは電気を発生させますが、SOECでは電気を消費することになります。燃料電池(=発電機)と逆の反応を行わせるので、当然そういうことになります。
では「部品」のコスト削減とは?
このSOECには高価な特殊セラミックス部品が必要となるためSOEC自体が高価となっていました。大阪ガスでは、このセラミックスを無垢で使うのではなく、薄くして金属に張り付けて使うという技術を開発したのです。
NHKの記事のもととなった大阪ガスのプレスリリースを読んでみると、この方法によってセラミックスの量を1割程度に減らすことができるとしています。NHKが部品のコストを90%削減することができると報道したのはこのことなのでしょう。
一方、NHKの記事には、「メタネーションでは水から水素を取り出す過程があります」と書かれていますが、大阪ガスの方法はCO2と水から水素とCOを作り出すもので、水から水素を作るのとはちょっと違います。記事は大阪ガスの方法とは別の電気分解法を指しているのでしょう。
また、今回の大阪ガスのプレスリリースでは単に使用するセラミックスを9割減らせると言っているだけで、製造コストあるいは「部品」のコストを9割下げられるという文言はどこにもありません。水素の製造コストを90%削減できるというような記事となっているのは、多分記者の勇み足でしょう。
大阪ガスのSOECを使ったメタネーション技術は、従来のメタネーションとは違ったとても楽しみな技術です。しかし、大阪ガスのプレスリリースでは、まだ実用サイズのセルの試作に成功したという段階であり、2030年の実用化を目指すとしています。
早く実用化してほしいと思いますが、実現はまだ先のことになるでしょう。
2021年1月27日
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