IPCC報告書には何が書かれているのか  内容をできるだけわかりやすくしてみた(1)

地球温暖化や脱炭素の議論をするときによく引き合いに出されるのがIPCCという機関の報告書である。IPCCとはIntergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の略で、国連(世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP))によって設立された組織。気候変動に関する世界中の文献や論文を取りまとめて報告している。

この報告書によると、地球は確実に温暖化しており、その原因が人間の活動によるものとされ、この報告書の内容に沿って世界各国で温暖化対策が行われている。つまり、現在、世界中で進められている脱炭素化をはじめとする気候変動対策の大元となる報告書である。

では、具体的にこの報告書にはどんなことが書かれているのかと言うと、これを読んで内容を理解している人は意外に少ない。なぜ読まれないのか。その理由は素人にとってはとにかく読みづらいからであろう。
ここでは、この読みづらいIPCC報告書をできるだけ分かりやすく、簡潔に説明してみたい。

IPCC報告書とは何か

IPCCは世界中で行われている気候変動についての研究、観測、シミュレーションなどを取りまとめて、その対策を提案して国連に報告する機関である。IPCC自体が何らかの実験や観測を行っているわけではない。

IPCCは1988年に組織され、1990年に第1回目の報告書を提出しているが、その後、数年おきに改訂版を提出し、現在、最新のものが第6次評価報告書(AR6)である。

IPCCには作業部会が3つあり、それぞれ ① 自然科学的根拠、② 影響・対応・脆弱性評価、③ 気候変動の緩和方法 を担当している。今回取り上げるのは、2021年8月に提出された第1作業部会(WG1)の報告書である。

実はこのAR6(WG1)報告書、英文で1300ページもある。これでは専門家は別として一般人にはとても読めたものではない。そのため「政策立案者のための要約」というダイジェスト版が作られている。(気象庁がこれを日本語に翻訳してネットで公開している)

といっても、このダイジェスト版もなかなか読みづらい。ここでは、いちいち細かな話は抜きにして、ざっくりと報告書の内容をまとめてみたい。より正確な内容をお知りになりたい方はこのAR6(WG1)報告書の本文もしくは「政策立案者ための要約」を参照されたい。

本報告書のアウトライン

このAR6(WG1)報告書の流れは次のようになっている。

① まず、世界ではどのような気候変動が起こっているのか、あるいは起こってないのかを確認し、起っているのならその原因を特定する(A.気候の現状)
② つぎに、今後どのように気候が変わっていくのかをいくつかのケースをあげて予想する(B.将来ありうる気候)
③ これ以上、気候変動が進行した場合に、どのような問題が発生するのかを予想する(C.リスク評価と地域適応のための気候情報)
④ 最後に気候変動を抑制するためにどのようなことを行うべきかの提言を行う(D.将来の気候変動の抑制)

といっても、世界的な気候の変動をとらえ、将来を予想することは、地球と言う非常に広い範囲をカバーし、何万年にもわたる期間の過去を検証し、かつ自然と人間活動の両方の要因が絡む事象であるため、非常に難しい作業となる。

このため、このAR6(WG1)報告書では、取り上げたデータや予測の確信度が高いものや低いものが含まれる。また、評価についての信頼度についても可能性が高いものも、低いものも含まれる。

この記事では、原則として確信度が「高い」あるいは「非常に高い」項目、信頼度については。「ほぼ確実」、「可能性が非常に高い」、「可能性が高い」に分類された項目について取り上げている。また、一般にはそれほど関心がないと思われる事項については大胆に省略している。

A.気候の現状

温室効果ガスの増加
温室効果ガス(GHG)とは地球を温暖化させる作用のある空気中の成分であり、年々増加している。2019 年のGHGの年平均値については、以下のとおりであった。

  • 二酸化炭素(CO2)             :410 ppm
  • メタン(CH4)                   :1866 ppb
  • 一酸化二窒素(N2O)         :332 ppb

この数値はCO2 濃度については過去200万年で最も高く、CH4 及びN2O の濃度は過去80万年間で最も高くなった。

また増加率でみると、CO2 濃度は1750 年以降47%、CH4濃度は156%増加しており、これは自然に起こる変動量をはるかに超えており、人間活動によって引き起こされたと考えざるを得ない

世界平均気温の上昇
現在の世界平均気温は、19世紀後半(1850~1900 年)に比べて、1.1℃前後高くなっている。特に1970 年以降に、この平均気温の上昇が急激であり、過去2000 年間で、かつて経験したことのないほどの速度で増加している。

図―1 世界平均気温の変化(1850~1900年の平均値からの変化)

左の図は紀元1年から現在までの世界平均気温の推移を示している。紀元1000年くらいから気温はむしろ下降傾向にあったが、1900年頃から急激に上昇していることが分かる。
右の図は左の図の1850年から現在までを拡大したものである。黒い線が実際の測定値を示すが、特に1950年あたりからの気温増加が著しい。青の線が自然の要因(太陽光の変化や火山活動の影響)だけを考えた場合の気温の予想値。茶色の線はこれに人間活動による影響を加えたシミュレーション結果を示す。

温暖化の原因
地球平均気温の上昇(つまり地球温暖化)の原因は、さまざまな要因が考えられるが、その要因の大きさを示したものが下の図である。

図―2 地球平均気温変化の原因評価

現在の世界平均気温は、19世紀後半(1850~1900年)に比べて、だいたい1.0℃程度高くなっている。左の図に示すように、この温暖化の主な原因がGHGで、これによって1.5℃温暖化しているが、その他の人間活動によって逆に0.4℃程度寒冷化している。その他、太陽活動や火山活動、内部変動によるものによる影響も考えられるが、その影響はわずかである。

右の図は、人間活動による気温への影響の内訳を示したものである。温暖化の主な要因は二酸化炭素やメタンであり、一方、二酸化硫黄はむしろ寒冷化の要因となっている。

氷河、氷床、海氷
以上述べた温暖化によって以下の現象が起こっている。

  • 1950 年以降、北半球における春の積雪面積が減少した
  • 北極海の年平均海氷面積が、少なくとも1850 年以降で最小となった
  • 1950 年代以降、世界のほとんど全ての氷河が後退した(この現象は少なくとも過去2000年の間に前例がなかったものである)

ただし、南極の氷床については、人間活動が影響しているかどうかについては証拠が乏しい。

地球温暖化によって起こっていること
地球の気温が上昇することによって、以下の現象が引き起こされていると考えられる。

(1) 海面上昇
世界全体の海洋(0~700 m)の温度が1970 年代以降、上昇していることはほぼ確実であり、その主な原因が人間活動である。

世界の平均海面水位は上昇を続けており、1901~2018 年の18年間に水位は20cm上昇した。上昇率をみると、1901~1971年の間は年間平均1.3mmだったが、1971~2006 年の間に年間1.9mm、2006~2018年の間に年間3.7mmと、上昇率が年々増加している。この海面上昇率は少なくとも過去3000年間のどの100年間よりも急速であった。

近年の海面水位上昇の原因とその割合は以下のとおりである。

  • 海洋の熱膨張         50%
  • 氷河からの氷の消失   22%
  • 氷床からの氷の消失   20%
  • 陸上での貯水量の変化  8%

(2) 気象異常
1950年代以降、陸地のほとんどで極端な高温(熱波)の頻度と強度が増大してきた。一方で、極端な低温(寒波)の頻度と厳しさは低下してきた。
大雨の頻度と強度は、これも1950 年代以降、陸地のほとんどで増加している。
強い熱帯低気圧(台風)の発生の割合は過去40 年間で増加しており、北西太平洋では、その強度が一番高くなる位置が北に移っている。
これらの異常気象は人間活動が主要な原因である。

また、人間活動の影響によって、1950 年以降、複合的な極端現象(熱波と干ばつ、極端な降雨と高潮、乾燥と強風などが同時に発生する)の発生確率が高まっている。

図―3 極端な高温が増加した地域と人間活動が原因であることの確信度

図―3の六角形は世界各国の地域を示している。赤で塗られた地域は1950年代以降に極端な高温が増加した地域を表している。地球のほとんどの地域で極端な高温が増加しており、減少した地域はない。

図―4 大雨が増加した地域と人間活動が原因であることの確信度

図―4で、緑の六角形は大雨が増加している地域である。アジア、欧州、北アメリカ北西部などで大雨が増加していることが分かる。増加か減少か見解が一致しない地域もあるが、明らかに減少している地域はない。

今回、図は省略したが、干ばつの増加が観測された地域についてもAR6(WG1)の報告書には示されており、増加が12か所、減少が1か所となっている。

(3) 蓄熱量の増加
気候システムにおける平均蓄熱率は、1971~2006年では1m2あたり0.50Wであったが、2006~2018年には0.79Wに増加した。この蓄熱量のうち91%は海洋の温暖化によるものである。そのほか、陸地の温暖化は5%、氷の減少が3%、大気の温暖化は1%であった。

IPCC報告書には何が書かれているのか  内容をわかりやすくしてみた(2)

【関連記事】
IPCC報告書には何が書かれているのか  内容をわかりやすくしてみた(2)
ターコイズ水素が日本を救う? 製造時にCO2を排出しない第三の水素
核融合発電は「クリーンで無尽蔵で安全」ではない  実用化にはいまだに高い壁
水素は本当に夢の燃料か? 過度な期待は禁物だ
浮体式洋上風力発電の発電コストは原子力より安い!  日本のメーカーも参入

CO2と水から石油を作ることは可能?…カーボンリサイクルはは温暖化防止策の切り札ではない
グリーン水素でなければ意味がない―環境省の水素ステーションは地球に優しくなかった
水素は海水からとりだせば無尽蔵のエネルギー源になる
藻類で日本は産油国になる? 無理(オーランチオキトリウム)
うんこでジェット機が空を飛ぶ-しかも地球に優しい
日本は温室効果ガス排出ゼロを2050年よりもっと早く達成する
地球温暖化懐疑論・否定論を支持する人たちへ ちょっと視点を変えてみましょう
脱炭素社会の切り札、有機ハイドライド(MCH) 可能性とマスコミが報じない問題点
アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点 このままではかえって温室効果ガスが増えてしまう

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。